安子×村上 - at Last

あ阿々。 @rainbow_solara

102 「ん？」 『先生…』 「…そんな顔すんな」 苦笑して頭をぐしゃぐしゃ力任せに撫でられて。 『ちょ…痛い！馬鹿力！』 「ふっ…またすぐ会えるわ」 『…ほんと？』 「おん、連絡するし」 『…ん』 チュッ…って、短いキス。 絶対だよ？約束ね？

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103 『…じゃね！』 「おう」 手振って教室を飛び出した。 そのまま校庭まで全速力で走る。 でも、…痛くて。 それに変に動いたら中から先生の、が出てきそう。 どうしよ…って焦った私を抱き締めて、どうなってもええよ…って、先生。 「遅かれ早かれ、一緒や」

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104 その意味に遅れて気付いて真っ赤になった私を見て、笑って、また優しくキスを。 思い出したら顔がにやけちゃう。 途中でスピード緩めて、ゆっくり歩く。 ようやく校庭に着いたら、すぐにみんな気付いて手振ってきた。

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105 どこ行ってたの？サボり？ ほらこれ、あんたの。最後の最後まで全く！もー！ いいじゃん。どうせ大学でもみんな一緒だし。 まぁね。ね、写真撮ろ！最後の制服！ あ、あっちの方行こう！花綺麗！ そんなん背負ってもブスはブスよ。 ね、顔赤いよ。大丈夫？

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106 ここでこうやってみんなで騒ぐのもこれでおしまい。 やっぱり名残惜しいな。 なんだ、私思い出いっぱいあるじゃん。 いつも通り口々に好き勝手なこと言い合って、思う存分最後の高校生活を惜しむ。 "あっ！" 誰かが声を上げた。 みんな一斉に指さす方を見る。 そこには。

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107 あっ…錦子の王子さま。 あんなに一緒の学校行きたいって勉強してたのに錦子落ちちゃって。 もうどうしようもないくらい泣きじゃくって落ち込んでたけど、結局ふたりの学校の間ら辺に部屋借りて一緒に暮らすことにしたんだって。

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108 どっちの親にも挨拶して、ちょっとだけ一悶着あって、でも結局許してもらって。 錦子が卒業したら結婚するのかな？ や…もしかしたら学生結婚？ ありそう…。

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109 それから背高くて顔はいいけどぼーっとしてる、でも丸子とはお似合いの隣の学校の人気者。 あっちも今日卒業式だったっけ？ いつもイチャイチャしてるふたり。 まー、何ていうかお似合い。 でもたまーに私のこと見てニヤニヤしたりするんだよね…気持ち悪…。

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110 その隣に一緒にいるのは横子の彼氏だ。 見るたびに黒くなってくけど、大丈夫あの人？ 横子が白いから、余計にそう見えるのかな？ でも横子、どんどん綺麗になってく。 今だってかお真っ赤にして溶けそうな笑顔で…ふふっ可愛い。

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111 ビシッとスーツで決めてるキザな男は…あ、すぐわかるわ、待ち人すば子だ。 だって後ろ手にイカ大量に詰めてリボンかけた透明な箱持ってるもん。 何あれ？ 真っ赤な顔して緊張の面持ち。 薔薇の花一本持って…プロポーズでもするつもり？ 変な男。

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112 あの白くて妙に顔の綺麗な人は…え、倉子？意外！ あの倉子と並んでも見劣りしないくらいキラキラした人。 あ、でも倉子に抱き付かれてちょっと困った顔して…真っ赤だ。 てか倉子、あんなことするんだ…。 あのふたりは…まだこれからかな？

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113 もうひとり…ちょっと背は低いけど、妙に顔面の整った男前。 校門で堂々と煙草吸ってる。 あれは…え、村子？ じゃあもしかしてあれが先生のツレ？とかいう人？ 一体いくつ？ 首の鎖を取って、指輪をはめてあげてる。 村子あんな真っ赤な顔して…へぇ…珍しいもの見たなあ…。

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114 P…P…P… ん？メール？ …先生からだ。 LINEしてないんだって。オッサン。 え、上？ 校舎の窓から鈴なりになってる後輩たち。 その更に上に、教室から身乗り出してこっち見てる先生の姿が。

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115 P…P…P… また？ 画面には先生の…住所？ 今度の日曜日、暇？って…。 またすぐに会えるって…こういうこと？ 子供みたいにニヤニヤ笑ってる先生。 それからもう一つ、送られてきたメッセージ。 「卒業おめでとう」 せんせ…ありがとう…。

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116 返事の代わりにピョンピョン跳ねながら大きく手を振った。 （安子ー！行くよー！） それぞれの相手と手を繋ぎながら、呼ぶ声。 『今行くー！』 もう一度上を見上げて、みんなのとこに走り出す。

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117 （そういえば安子って迎えに来てくれる人いないの？） 『ん？さっき見送ってもらったから』 （え？どういうこと？） 騒ぎ出すみんな。 ん？丸子だけ黙って顔を赤らめてる。 ねえ先生、もう話してもいいよね？ 『…えっとね…』

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118 一瞬の沈黙があって、すぐにキャーって周囲が振り向くほどの歓声が上がった。 子供みたいにきゃいきゃい騒ぐ私たちを、ちょっと遠くから見てる別の私がいる。 早く大人になりたかった。 小学生の頃は中学生が。 中学生の頃は高校生が。 高校生の今は大学生や社会人が。

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119 自分よりずっとずっと大人に見えてた。 でもいざ自分が立ってみると、そこにいるのは子供のままの私。 たくさんのことを制限されて、鬱憤が溜まる毎日。 つまんなかった。 大人たちは毎日楽しそうに見えてた。 時間もお金も気にせず自由に遊んで、楽しそうだった。

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120 お金を稼いだら私も大人になれるかと思った。 大人を騙くらかすのは楽しかった。 お金を稼ぐのなんて簡単だった。 大人なんてこんなもんだって思った。 大人をなめてた。 先生に会うまでは。

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121 女子だけの、子供だけの秘密の花園。 そこにこっそり紛れ込んでた大人の男の人。 その人に恋をした。 声が大きくて、すぐに手が出て、乱暴で、いつも叫んでて、意地悪で、ずる賢くて、エッチ。

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122 でもボサボサの頭して野暮ったいスーツ着てるけど、本当は可愛い顔しててスタイルよくて、八重歯を見せて豪快に、でも可愛く笑う。 大きくて優しい手が頭を撫でてくれる安心感。 悪戯っ子のように頭叩いて来る無邪気な顔。 怖くて自分の気持ち押し殺してた、臆病な顔は私と一緒だった。

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123 先生を見てたら、子供と大人は同じなのかもって思った。 20歳になったら、処女じゃなくなったら、とか、どこかの区切りで大人になるんじゃない。 子供から大人まで、全部地続きで繋がってるんだ。 今の私が大人になる。 大人になったからって、今の私がいなくなるわけじゃない。

あ阿々。 @rainbow_solara

124 今朝までとは違う私。 でも同じだ。 私は私のまま、ずっと変わらない。 今の私がこれからの私を作るんだ。 先生を見てて、そんなこと思った。 その時には今と同じようにみんな一緒にいれたらいい。 それから先生も。 これからどうなるかわからないけれど、今の私が望むのはそれだけ。

あ阿々。 @rainbow_solara

125 楽しかった学園生活。 色んなことした。 あんなことやこんなこと…ちょっと悪いことも。 色んな人と過ごした。 大切な人たちに出会えた。 すば子 横子 村子 丸子 錦子 倉子 それから村上先生 大好きな人たち。 それはきっと、大人になっても変わらず、ずっと。

あ阿々。 @rainbow_solara

126 振り向くともうそこに先生はいなかった。 でも大丈夫。 またすぐに会えるから。 約束したから。 ずっと一緒にいるから。