アンエクスペクテッド・ゲスト #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

廊下の左右には、避難して空になった囚人たちの共同室がある。妙なのは、血飛沫が飛んでいることだった。輸送機残骸の直撃を受けた部屋ならまだしも、傷一つ付いていない部屋でさえ、そうなのだ。「何だオイ……暴動寸前だったのか……?」ショットガンの銃弾痕もあった。嫌な汗が額から垂れる。 23

2015-11-19 23:04:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして彼は、さらなる異状に気付いた。床に何かネバネバとした粘液じみた物が残っており、ナメクジの大群が這ったかのように床を覆っている。所々、マーブル色スーパーボールめいて、オレンジ色と赤と白が混じっている。「オイ、待てよ」本能が彼に危険を告げた。「本当に、皆、避難したのか?」 24

2015-11-19 23:11:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ、何だあれは……」彼は血飛沫の軌跡を目で追い、その先の壁を見た。こんな事をしている場合ではないとは解っている。だが恐怖という抗い難い引力に引き寄せられるように、空っぽの共同室に入り、壁に刺さった物体の正体を確かめた。それは、骨色のスリケンだった。恐怖で視界が歪み始めた。25

2015-11-19 23:19:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スリ……ケン…?」有り得ない。この場に存在してはならぬ物体だ。キンテツは呆然と立ち尽くす。「アイエエエエエエエ!」再び悲鳴。セイブの声だ!キンテツは我に返った。「おい、何があった!?」「アイエエエエエ!」「待ってろ!」キンテツは廊下のショットガンを拾い上げ、走り戻った! 26

2015-11-19 23:22:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だ!いったい何が落ちてきやがったってんだ!?」ショットガンを構えながら走る。彼はZBRでもキメたかのように頭が冴え渡っていた。それは本能的恐怖がもたらす一瞬の洞察だった。「オイ!ちくしょう!セイブ=サン!」だが、返事はもう無かった。彼は元の部屋に駆け込んだ。そして見た。 27

2015-11-19 23:29:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは彼を見て「yyyRRRRysh」と言った。身の丈3メートル近い、四本腕の人型の何かが、安物のトイめいて千切れたセイブの上半身を片手で掴んでいた。怪物の背中からは四本の触手が生え、別の生物めいてのたうっていた。その2本には、別の囚人が絡め取られ、後ろに引きずられていた。 28

2015-11-19 23:40:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ!」BLAMN!キンテツは絶叫しながら散弾銃の引き金を引いた。それは怪物の体と、既に死体になっているセイブの上半身に命中した。怪物は小さく仰け反ったが……ただ、それだけだった。「yyyyrrrr」それは嘲笑うように、喉をゴボゴボと鳴らした。キンテツは失禁した。 29

2015-11-19 23:49:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は逃げようとした。目にも止まらぬ速さで触手の一本が飛び、足に絡みついた。「yyyRRRysh」「アイエエエエ!」彼は転倒しガレキに頭を打った。だが痛みも絶叫もすぐに消えた。もう一本の触手先端が彼の顔をとらえ、イカめいたその先端部の孔から、麻痺性の溶解粘液を分泌したからだ。 30

2015-11-19 23:56:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ドーモ、こちらアドミン棟、スポイラーです』「ドーモ、こちらデッドエンド、イヤーッ!」彼女は左手で無線機を耳に当て、右手で囚人を殴り飛ばしていた。『グラウンドの様子はどうですか』「聞こえるだろ!最悪だ!イヤーッ!おい貴様ら!死にたくないなら正座してろ!点呼中だ!イヤーッ!」 32

2015-11-20 00:07:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドラゴン棟、ウサギ棟、ニワトリ棟は大きな被害を受け、それらの棟の囚人は中央総合棟のグラウンドに集められていた。島内では未だそこかしこで爆発炎上が続いている。その炎を見て興奮したパイロマニア囚人たちが奇声を上げ暴徒化しかけたため、49課の暴力女デッカーが拳で黙らせているのだ。 33

2015-11-20 00:13:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『あとどのくらいグラウンドに留めて置けそうですか?』「重金属酸性雨の勢い次第だな!」デッドエンドが舌打ちした。実際、グラウンドには不穏なアトモスフィアが満ち、燻っている。『とにかく、今夜は島内のマッポが必要人員の30%すら割っている事を、囚人に悟られないようにしてください』 34

2015-11-20 00:19:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なら天気に祈るんだな」『ニワトリ棟はまだ火災が続いている』スガモ監獄島内各所を飛び回っているタフガイが、無線に割り込んだ。『俺がこれから墜落したエンジンの処理をする。とっととバルブを閉めねえと、カブーム、だ』「お前がやるのか?」『ああ』「失敗したら記念碑を建ててもらうぞ」 35

2015-11-20 00:29:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しばし、司令室からは何も応答なし。ノボセ老とスポイラー、そしてスガモの副署長が、重い表情でショートブリーフィングを行っているさまが目に浮かぶ。……少しして、再び無線。『中央総合棟の火は収まっています。現在グラウンドに避難している3棟の囚人を、すべて、総合棟に入れてください』 36

2015-11-20 00:33:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

沈着冷静なスポイラーの声に従い、デッドエンドが拡声器で命令を飛ばす。「……いいかブタども!重金属酸性雨くらいでギャアギャア喚くな!お前らは小学生か!?雨でタマが冷えて縮み上がってるのか!?ズブ濡れになって泣いてもママはいないぞ!とっとと立って歩け!騒ぐな!イヤーッ!」 37

2015-11-20 00:40:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「列を飛ばさない!」「ちゃんと並んで!」看守マッポたちが厳しい声で誘導する。ゾロゾロと、オレンジ色のツナギを着た囚人たちの長い列が中央総合棟に向って続くのを見ながら、デッドエンドは他の者たちから距離を取り、無線に戻った。「…爺さん、結局全体の状況はどうなってる。完全孤立か?」38

2015-11-20 00:44:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しばしの沈黙。彼女はガムを噛みながら総合棟入口のマッポや囚人を睨みつけ、しかめっ面で待った。『そうです』とスポイラーが答えた。『橋が完全に落ちました。川には機雷があります。現状、この島から脱出する手段は、僕らが乗ってきたヘリ1台だけです。アドミン棟の屋上に留めた、アレです』 39

2015-11-20 00:49:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『さらに、ネオサイタマに昨夜から広がっている不穏なアトモスフィア。およびハイデッカーとの衝突により、僕らは組織内でも孤立しています。人員も不足中です。現状、外から誰かが増援を送ってくれるとは思えません』「ハァ?火災でもか?」スポイラーは静かに答えた。『通信が途絶中なんです』 40

2015-11-20 00:54:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「通信が、途絶……?」彼女は片眉を吊り上げた。『ハイ、先ほどから、マッポネットに接続できないんです。無線LANもダメです。おそらく、墜落事故によって基幹LANケーブルの断線が生じたんじゃないかと』「ついさっきまで使えたんだろ?」『現在、UNIXに詳しいマッポが調査中です』 41

2015-11-20 00:58:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これは……!」アドミン棟内、暗い電算機室内でライトをかざしながら指差し点検を行う一人のマッポ。「基幹LANケーブルが……切断されている!」彼は声を震わせた。何故ならば、それは人為的に切断されたとしか思えなかったからだ。彼はゴクリと唾を飲む。内部に、それを行った人間がいる? 43

2015-11-20 01:08:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ!大変だぞ……今すぐ司令室に知らせアバーッ!」突如マッポは倒れた。ナムアミダブツ!カロウシであろうか?いや違う!Zzzzzzzt。電磁ノイズ音が鳴り、すぐ横に、光学迷彩を解除したヨロシ・バイオサイバネティカ社のあの男が現れたではないか!その手にはニードルガン! 44

2015-11-20 01:14:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

標的はバイオ毒針弾で心停止。証拠は残らない。「明日もヨロシサン」彼はチャントを捧げ、サイバネ強化された腕で死体を引きずり、物陰に隠した。シュコーッ。ガスマスクから荒い息が漏れる。彼の名はコーゾ。ヨロシ・バイオサイバネティカ社第8開発部長、そして墜落機の唯一の生き残り社員。 45

2015-11-20 01:23:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シュコーッ。彼は無線機を拾い上げ、廊下へと向かった。そして再び光学迷彩コートをONにする。Zzzzzt。コーゾの輪郭はぼやけ、透明になって消えた。暗黒メガコーポ重役に相応しいサイバネ装備の数々。だが中身は常人だ。彼は鎮痛薬を超えて伝わる墜落時の怪我の痛みを歯噛みして耐えた。 46

2015-11-20 01:28:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コーゾの目的はただひとつ。カンゼンタイ存在の事実を隠蔽し続け、本社からのサブジュゲイター到着を待ち、ヨロシ・ジツでこれを安全に回収することだ。覚醒直後の状態では、カンゼンタイには弱点が多すぎるからだ。カンゼンタイを絶対に無駄にはしない。……狂った愛社精神が彼を突き動かす! 47

2015-11-20 01:38:46