ケンペイ天狗「ネヴァー・リグレット・ミーティング」

◆毎週末更新◆ 深海棲艦との果てなき戦争に人倫が疲弊したマッポーの近未来。 ブラック提督達が支配する暗黒都市ネオヨコスカを舞台に、大本営に全てを奪われた狂気の復讐者が駆ける! 続きを読む
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アナ・イゴール @KNPITNG

髪をサイドテールで結んだ弓道着姿の女性は、無表情のまま立ち上がると、ケンペイ天狗が横たわるベッドへと腰掛けた。「傷は……大丈夫そうね」そう言われて初めてケンペイは己の身体を見ろした。「貴方が、手当を」「ええ。まさか高速修復材が効くとは思わなかったけど」 25 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:18:08
アナ・イゴール @KNPITNG

「ありがとうございます。エー……」「加賀です」「ありがとうございます、加賀=サン。私は、」ケンペイは少しぼんやりとしたまま頭を下げると自身の名前を告げようとし、一瞬逡巡した。「私はハチロー・トウゴです」「ドーモ」明らかな偽名だが、加賀はそれ以上追及しなかった。26 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:20:38
アナ・イゴール @KNPITNG

ケンペイは周囲を見回す。出で立ち、隙の無い振る舞い……加賀は紛れも無く艦娘であった。ならばここは鎮守府であろうか?では何故ケンペイ天狗である自分を攻撃しないのか?今、ここには加賀しかいない。逃げ出すのであれば今が好機……? 27 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:23:08
アナ・イゴール @KNPITNG

「まだ気分が悪い?」ケンペイのアトモスフィアの変化に、加賀は無表情のまま立ち上がると、窓を大きく開け放った。部屋に吹き込んだ清らかな風に頬を撫でられ、ケンペイは初めて自分がオメーンをしていないことに気がついた。そして、加賀に自分への敵意が無いことも。28 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:25:43
アナ・イゴール @KNPITNG

「……ドーモ」ケンペイは感謝の意のオジギをした。「ここはトサ鎮守府……。元ですけど」加賀は急須からチャを入れると、ベッド脇のテーブルに静かに置く。「……私は、どうやってここへ」「近くへの砂浜に流れ着いていました。瀕死の重傷で、放っておく訳にもいかなかったから」29 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:28:08
アナ・イゴール @KNPITNG

「一瞬、アノヨかと。感謝します」ケンペイは再びオジギをする。「いえ……、面白い方ですね」加賀の頬が僅かに緩む。「ム……」ケンペイは自然と自分の語気が穏やかになっているのを感じた。思えば、このように人とゆっくり会話すること自体が、彼にとって久方ぶりのことだった。30 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:30:38
アナ・イゴール @KNPITNG

それは実際、どこか郷愁めいた、ニューロンが洗われるような心地の良い時間だった。だが、長居はできぬ。いくら目の前の加賀がケンペイのことを知らぬとも、彼はグンレイ・アクシズに狙われる身なのだ。「ご迷惑をおかけしました、では、私はこれで……」 31 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:33:20
アナ・イゴール @KNPITNG

だが、ベッドの下に足をおろそうとするケンペイ天狗を加賀は押しとどめた。「傷がまだ治りきってないわ……」「いえ、大丈夫です。それにこのベッドの持ち主にも迷惑をかけてしまう」「それこそ、大丈夫です……」一瞬、加賀の目に影が落ちる。「もう、その人はいませんから」 32 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:36:48
アナ・イゴール @KNPITNG

「しかし……」危険に巻き込んでしまう。そう続けようとしてケンペイは僅かに息を飲んだ。加賀が無表情のまま、しかしどこかすがるような目を彼に対して向けていたからだ。「ここは“元”鎮守府と言ったでしょう。艦娘は皆沈み、提督も亡くなって……ここにいるのは、私独りきり」33 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:39:24
アナ・イゴール @KNPITNG

ケンペイが言葉に詰まる。「……だからもうすぐこの鎮守府も廃止されます」加賀は少し寂しげに頬を緩めた。「できれば、お願いしたいことがあります。……貴方の傷が治るまで、私の提督の代わりをして頂きたいんです。……私は貴方を一度助けたから、これでおあいこでしょう?」34 #ケンペイ天狗

2015-12-06 22:41:53
アナ・イゴール @KNPITNG

「提督が鎮守府に着任しました!」男は、ひどく眩しい夢を見ていた。「司令官に敬礼!ぴょん!」「このクソ提督!」「いってみよう!」「今夜ばかりは飲ませてもらおう!提督も付き合え」白い世界で自分を呼ぶ声ばかりが聞こえる。「提督、――と一緒にゆっくり休むにゃ」1 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:01:37
アナ・イゴール @KNPITNG

もしかしたら、これまでの血に塗れた世界は全て夢だったのではないか?起き上がったら、そこにはあの子達が、笑顔で。男はまどろみながら自分を呼ぶ声を辿ろうとする。だがそれらの記憶は砕けたガラスを集めるように、破片こそ見つかれど、一つの形を成すことはない。2 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:04:06
アナ・イゴール @KNPITNG

ただ、久々の安息に男は深く息を吸い、吐いた。全身にゼンめいた安らぎが巡る。意識が目覚めに近づき、白い世界は徐々に遠ざかっていく。僅かな寂寞を飲み込み、男は、ケンペイ天狗は、ゆっくりと目を開ける。清らかな風が彼の頬を撫でる。3 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:06:23
アナ・イゴール @KNPITNG

「お目覚めですか、提督」目覚めた彼を迎えた世界は時の止まった部屋。一人椅子に座った加賀が、無表情のまま、しかしどこか穏やかにケンペイ天狗を見つめていた。4 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:08:43
アナ・イゴール @KNPITNG

【ネヴァー・リグレット・ミーティング#2】 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:10:59
アナ・イゴール @KNPITNG

台風がもたらした澄み切った晴天は、その日もまだ続いていた。窓の外のどこまでも続く青を眺めながら、ケンペイはおろしたての第二種軍装に袖を通す。加賀が急遽酒保で手配した、階級章のついていない予備のものだ。糊の効いた純白の服にケンペイはどこか懐かしさを覚える。5 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:13:20
アナ・イゴール @KNPITNG

「提督、不足の物があったら仰って下さい」加賀が通りすがりに声をかける。「ああ」軍装のボタンを留めながら周囲を見回すが、天狗オメーンはやはり見当たらなかった。……どこからか白米の炊ける香り。執務室から調理場が近いのか、この鎮守府の規模はそう大きくないようだった。6 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:15:45
アナ・イゴール @KNPITNG

『提督の代わりをして欲しい』加賀の奇妙な依頼を引き受けてから3日。ケンペイはハチロー・トウゴ提督としてこの鎮守府に滞在し続けていた。勿論、提督として海軍に登録されているわけではない、全ては”ごっこ遊び”の類だ。だが、命の恩人の願いは、どうにも断れなかった。7 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:18:04
アナ・イゴール @KNPITNG

今まで分かったことは一つ。この鎮守府には、本当に加賀一人しかいない、ということだ。補給物資も1日1回加賀一人分だけ、欠かさず大本営から送られてくる。提督が死んだ廃鎮守府にも関わらずだ。加賀曰く、まだ廃止登録がなされていないから、ということだった。8 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:20:25
アナ・イゴール @KNPITNG

小さな建物にごっこ遊び、まるで少女の作る箱庭のようだ。ケンペイはぼんやりと考えながら鏡を見た。たとえ糊の効いた軍装を着ても、彼の赤い瞳と死体めいて青白い肌は厳然とそこにある。彼が歪んだ命、一度死に、深海棲艦を宿して蘇った証だ。鏡台から軍帽をとり、目深にかぶる。9 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:22:44
アナ・イゴール @KNPITNG

「提督、朝食の用意ができました」部屋の外から加賀の声が聞こえる。「分かった、今行く」ケンペイ天狗は自分でも驚くほど違和感なくその呼びかけに答えた。廊下には味噌汁の香りがほのかに漂っている。味覚を失っている彼にとっても、それは不快な香りではなかった。10 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:25:02
アナ・イゴール @KNPITNG

「加賀、艦攻隊用意」「はい」3日後、鎮守府海域、深部。ネオヨコスカからの汚染も届かぬどこまでも続く水平線の上で、一人の艦娘が深海棲艦達と対峙している。戦線の後方には一隻の提督用装甲ボート。その船上でケンペイは無線を手に指示を出す。鎮守府日課の周辺海域哨戒だ。12 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:29:11
アナ・イゴール @KNPITNG

「駆逐艦の接近に気をつけろ」「鎧袖一触よ、心配いらないわ」加賀が弓に矢をつがえ、放つ。「イヤーッ!」空中を駆ける矢はカラテにより数十機の流星改となり、深海棲艦達を襲う。「アバーッ!」放たれた雷撃が鮮やかな航跡を描き、駆逐艦2隻と軽母ヌ級を抉った!ワザマエ!13 #ケンペイ天狗

2015-12-13 21:31:35
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