きっと

かおり @orange_shake_

【きっと・1】 『○○さんっ♡』 ぶんぶん尻尾を振りながら駆け寄ってきた大型犬…じゃなかった、彼は。 「大倉くん、」 『お待たせしました！さ、何食べます？』 当たり前のように私の手を握り、体を密着させて歩き始める彼は。 「大倉くん」 『はいっ？』

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【きっと・2】 「手、」 『えー、俺つなぎたいんやもん。駄目ですかあ？』 「いや、駄目、とかじゃないけど…」 『じゃあええやん♡』 指を絡めて手をつなぎ直す。そんな彼は。 私の彼氏、 、ではなくて。 「確認だけど、私達って友達…知り合いだよね？」

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【きっと・3】 『えー、友達にもしてくれへんの？前から言ってるじゃないですか、俺は○○さんがその気になってくれるのを待ってるだけ♡』 「………」 少し前に男友達の紹介で出会った、彼の後輩。 紹介といってもそんな浮いた話ではなく、たまたまごはん食べてたお店に居合わせただけ。

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【きっと・4】 それなのにこの大型犬ときたら、それからというもの私が行く先々に姿を現しては今のように過剰なスキンシップをとりたがる。 本人曰く、 『だって好きなんですもん！』 こんな直球すぎる告白、今時の子でもするんだなぁ。 ただ、そう思った。

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【きっと・5】 『なぁ、いつになったら付き合ってくれるんですか？』 「いつって…」 いつとかそういう問題じゃない。私は彼と付き合う気はない。 ない…本当に？ 本当にその気が全くないなら一刻も早く望みがないことを彼に伝えた方がお互いのためなのに。

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【きっと・6】 その一言がいつも出てこないのは私が彼に抱く感情が変わってきたからなのだろうか。自分でもわからない。 『あれ、今日ヒールじゃないんすね』 「あぁ、」 昨日は立ち仕事で、ヒールで走り回ってたから疲れちゃって。 大倉くん相手に気取る必要もないかなって、スニーカー。

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【きっと・7】 もしかしてフォーマルなお店に入るつもりだったのかな…チラッと自分の足元に目をやるとその隙に大きな手が頭に乗って。 『んふっ、いつもより小っちゃい。可愛い♡』 本当に彼女にするみたいに、優しく頭を撫でてくる。 一体彼は、どういうつもりなのだろうか。

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【きっと・8】 「大倉くん」 『ん？』 恋人繋ぎのまま連れてこられた彼の行きつけという居酒屋は、女の子を連れてくるのにはちょっとどうかと思ってしまう大衆的な店構えながらも、中は落ち着いた雰囲気でお酒もごはんもすごく美味しい。 「あの、この際だからちゃんと確認しときたいんだ」

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【きっと・9】 いつかはハッキリさせなきゃいけないことだから。 お酒そんなに強くないくせによく飲みよく食べ、すでに気持ちよくほろ酔いな様子の彼。 本格的に酔ってしまう前に、今のうちに。 「私のこと『本気やで』、」 ………

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【きっと・10】 今まで言い出せなかったのは、このよくわからない関係がよくわからないながらも心地良かったからなのかもしれない。 たとえ冗談だとしてもこんなカッコイイ子に言い寄られて悪い気はしないし、一緒にごはんを食べる間柄としても彼の存在は私にとって癒しで。

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【きっと・11】 その癒しを、失いたくなかったからなのかもしれない。 私のもやもやした問いかけを言い終わる前に、彼はいとも自然に、当たり前のようなトーンで答えた。 『俺、○○さんのこと本気で好きやで。じゃなきゃこんな長期戦仕掛けるわけないやんか、遊びたいだけなら困ってへんし』

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【きっと・12】 口調はいつもみたいに軽いけど、それが本心で言ってるってことはよくわかった。 彼は、そういう人だから。 「………」 『何、付き合ってくれる気になったん？』 「……うん、」 『なぁ〜んや、まぁええわまだまだ粘れるし……って、、、え？』 「………」

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【きっと・13】 『…え、今、うんって言った？』 「言った……かも」 『いや、かもちゃうって！今言うたやんなぁ！うんって、言うたよなぁ！』 「、」 『ぃやーーったああぁーー！！♡』 こうして、自分でもよくわからないまま彼との正式な「お付き合い」が始まった。

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【きっと・14】 ＊＊＊ 正式にお付き合いが始まったとはいえ、私達の関係は今までとそれほど変わらない。 恋人らしいスキンシップは前々から一方的に受けていたし、相変わらず大倉くんのおすすめのお店で美味しいごはんを一緒に食べてるだけ。

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【きっと・15】 ちゃんとした覚悟もできないまま恋人同士という関係に踏み込んでしまった私にとっては、彼の態度が大きく変わらないことはありがたくもあって、一緒にいて居心地が良かった。 ＊＊＊ "大倉ファンの女の子が何人も泣いてるで" 「…はぁ。」 それから1ヶ月後のこと。

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【きっと・16】 普段はインドアな彼が、知り合いが集まるバーベキューがあるからって、珍しく私を秋空の下に連れ出した。 遠くの方でバンド仲間である丸ちゃんの一発ギャグにお腹抱えて爆笑してる大倉くんを見ながらぼんやりしていると、私と彼を引き合わせた張本人が現れた。

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【きっと・17】 "よいしょっと〜！ぅわっ、なんやこれ！" 私の隣にあるキャンピングチェアにどかっと腰掛けるも、思ってたより深かったらしく細い脚をジタバタさせている。 "まさかほんまにお前らがくっつくとは思わんかったわ" 「…ね。私も信じられない。あ、ありがと」

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【きっと・18】 美味しそうに焼けたお肉や野菜が乗ったお皿を受け取る。 知り合いが集まるバーベキューっていうのはライブハウス主催の音楽好きが集まる会で、そのライブハウスのオーナーがこの男。 こんなちんちくりんがオーナーだっていうもんだから、ビジネスの世界って本当にわからない。

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【きっと・19】 "大倉ファンが減ったらうちとしても痛いんやけどなぁ〜" 「ふーん」 "ふーんってお前、もうちょい興味持てや" この男…すばると私は高校時代からの友人で、大倉くんとはすばるのライブハウスに大倉くんが出入りしてたのがきっかけで知り合ったらしい。 "で？"

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【きっと・20】 「？」 "え〜、なんかないのぉ、おっちゃんに惚気話とか" 「ない。あったとしてもしない」 "うわ冷た。誰のおかげで幸せなれた思うてんねん" まあ飲めや、と差し出された缶ビールを運転あるからと断ると、プラスチックのコップにオレンジジュースを入れてくれた。

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【きっと・21】 すっかり秋とはいえ、太陽が高いうちはまだ暑い。 喉が渇いていたから、一気に飲み干す。 "あいつの、どこが好きなん？" 「え？」 "いや何となく。今まで付き合ってきた男と真逆のタイプやん" 長年友達やってると、色々知り尽くされてるから嫌になっちゃう。

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【きっと・22】 好奇心丸出しの目に心の中で小さく溜息をついて、今まで考えることを避けてきた問題に思いを巡らせる。 「…どこなんだろう」 "は？" その眉間が、ぴくっと動いた。 しまった。 普段は女のケツばっかり追っかけまわしてる変態だけど、意外に恋愛に関しては真面目で。

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【きっと・23】 好きかどうかわからないのに付き合ってる、なんて彼に言わせればきっと論外。 でも、長年の付き合い。嘘や適当な誤魔化しはこの人には通用しない。 「…まぁ、カッコイイし。」 "…おん" 思いついたことを一つずつ言ってみることにした。

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【きっと・24】 一言目からしてすでに最低だけど、すばるは不愉快そうな表情をなんとか隠して頷く。隠れてないけど。 「あと、私のこと大好きでいてくれるとこ」 "おん" これも、本心。

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【きっと・25】 なんでそこまで想ってくれてるのか全くわからないけど、彼は出会った時からのアピールもお付き合いを始めてからの私への態度も、とにかく私への「好き」が溢れてる。 年齢も年齢だし、恋愛経験だってそれなりにあるけど、ここまでひたすら愛されてるって実感したのは初めて。