#完全ノープラン艦これ与太話 【コレクティヴ・サブコンシャスネス】#5~#6

ニンジャスレイヤーをリスペクトした艦これファンジンSSです。 走れ特派員! before:http://togetter.com/li/888410 続きを読む
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春魔解丼 @vespiking

心肺停止状態で発見された秋雲はすぐさま入渠ドックに搬送され、蘇生処置がこころみられた。緊急サイレンで飛び起きた弥生は息も絶え絶えにドックへ駆け込み、その様子を見ていた。回復した心拍がまた止まるたび、弥生の心臓にナイフで刺されたような痛みが走った。 #KZNPLN

2015-12-09 12:57:09
春魔解丼 @vespiking

およそ1時間に渡る懸命な蘇生処置のすえ、秋雲のヴァイタルサインは一応の安定をみた。だがそれは結果論であり、つい先ほどまで動いては止まりを繰り返していた秋雲の心臓が、また止まってそのまま動かぬのではないかと、弥生は恐怖に怯えて夜を明かした。 #KZNPLN

2015-12-09 12:59:41
春魔解丼 @vespiking

秋雲はいまだ意識不明の重体であり、24時間体制で容態を監視されている。弥生は蒼白な顔でドックを後にし、管理室を訪れた。散乱したサンマ・タブレット。オーバードーズによる急性ショック。秋雲は何よりも北上の心労を案じていた。その秋雲が、無意味な自傷行為をするはずがない。 #KZNPLN

2015-12-09 13:06:36
春魔解丼 @vespiking

弥生は引きちぎられたパンチドテープを検めた。電波監視ログ。秋雲が残した唯一の手掛かり。弥生は散乱したサンマ・タブレットを1粒手に取り、噛み砕いた。1時間後。帝都へ向かうシンカンセンに、ネオヨコスカ民営放送のバッヂをつけた特派員の姿があった。 #KZNPLN

2015-12-09 13:09:42
春魔解丼 @vespiking

きらびやかな高層ビル群から防壁一枚隔てた裏側に、未だ戦禍の爪痕を残す灰色のメガロシティ。近代復興から取り残された一部の被害区画は、帝都ネオヨコスカのダークサイドめいた様相を呈する。舗装もままならぬ裏路地を、ハンチング帽の特派員は歩く。 #KZNPLN

2015-12-12 12:32:53
春魔解丼 @vespiking

胸に輝くNYTVのバッヂ、撮影用の小型カメラ艤装。軍事権限で準備された各種パーツはいずれも正真のそれと大差なく、或いは同業者すらもネオヨコスカ民営放送の特派員と見紛うだろう。然り。彼女はNYTVの特派員ではない。特派員に偽装し怪異を追う軍人だ。 #KZNPLN

2015-12-12 12:38:06
春魔解丼 @vespiking

怪奇電波の出処はいずれも、NYTVの正規周波数であった。NYTVが何らかの悪事をはたらくために、電波を流したのか?否。NYTVは大本営発表の提携局でもある、いわば大本営直々に首根っこを掴まれた飼い犬だ。悪事が発覚すれば、十数名のセプクでは足りまい。 #KZNPLN

2015-12-12 12:47:22
春魔解丼 @vespiking

怪奇電波が先のデモ爆破事件と関与していると考えるならば、やはり〈過激派〉の線が濃い。NYTVは飼い主にへまを悟られまいと縮こまる哀れな被害者か、へまに気付かぬ駄犬であろう。弥生は旧行政区画を中心にリサーチを開始した。 #KZNPLN

2015-12-12 12:54:18
春魔解丼 @vespiking

「エー、ドーモ。私はNYTVの特派員、翔鳳丸です。先日の痛ましい事件について取材をしています」弥生は偽名の記載された名刺を差し出した。「はい、ドーモ……」活動家の深海棲艦は奥ゆかしくオジギした。「ブルーバブルです。よろしくお願いします」 #KZNPLN

2015-12-12 13:01:15
春魔解丼 @vespiking

弥生が声を掛けたのは美しい黒髪の女性であった。水母棲姫の巨大な下半身艤装をすらりとした黒のスカートで覆い、白い肌との対比が気品を感じさせる。艤装部分を着衣で覆うスタイルは近年の派手な流行ではないが、やや年長の深海棲艦の間では奥ゆかしい美徳とされる。いわばキモノだ。 #KZNPLN

2015-12-14 12:29:30
春魔解丼 @vespiking

落ち着いた大人の魅力を纏いつつも、妙齢といって差し支えない若さの顔立ちと、若さにそぐわぬ古式ゆかしい美徳への尊重。丁寧な所作と、艶のある声質。身分を隠した仮面で接せねばならぬのが口惜しい美人である。弥生はオジギで隠しながら、下を向いて顔を赤らめた。 #KZNPLN

2015-12-14 12:39:37
春魔解丼 @vespiking

「先日は大変な事件でした。あの時、ブルーバブル=サンは近くにおられたと」「ハイ、あの時は少し離れた飲食店で……」どきりと、弥生の鼓動が早まった。少し運命が違っていれば、あるいはあの時。自分は彼女の遺体を拾っていたかもしれない。そう思うと、たまらなく恐ろしかった。 #KZNPLN

2015-12-14 12:45:11
春魔解丼 @vespiking

「その時同席した友人も、破片で軽傷を……幸い、大事には至りませんでしたが……」「ああ、ご無事でよかった」弥生は心の底から本音を絞り出した。直後、ブルーバブルの顔を見て、あっと口を抑えた。「……ああ、スミマセン」「イエ、ありがとうございます」 #KZNPLN

2015-12-14 12:49:22
春魔解丼 @vespiking

弥生の頭で、グルグルと前日の光景が巡った。ブルーバブルは〈停戦派〉の活動家だ。あの爆発で亡くなったデモ参加者の中にも、彼女の友人や、もっと大切な仲間がいたかもしれないのだ。あるいはデモと無関係に、近くにいた人々の中にも。 #KZNPLN

2015-12-14 12:53:21
春魔解丼 @vespiking

弥生はこれまで軍人として、それなりの数の〈過激派〉深海棲艦を殺害してきた。それは何れも武装集団であったし、殺さねば殺されていた局面も多くあった。そうして自分を納得させてきたし、それは間違いではないとも思っている。だが、どうしても、昨日の光景が頭を過ぎる。 #KZNPLN

2015-12-14 12:55:58
春魔解丼 @vespiking

戦争は良いことだと安易に言う気はない。起こってしまった戦いが善悪勘定のみで終息するとも考えていない。武器を取らねばならぬ事の意味も自分なりに考えてきた。だが、昨日今日のできごとはあまりに直接的であり、彼女の心を多いに乱した。 #KZNPLN

2015-12-14 13:00:42
春魔解丼 @vespiking

だがスイッチを切り替えねばならぬ。今の自分は砲を持ち武装集団と戦う駆逐艦弥生ではない。ペンと報道で不条理と戦うジャーナリズム艦、翔鳳丸なのだ。翔鳳丸はレコーダーをオンにし、マイクを向けた。「……ところで。最近、変な放送を見た事はありませんか?」 #KZNPLN

2015-12-14 13:06:00
春魔解丼 @vespiking

翔鳳丸の問いかけに一瞬、ブルーバブルは言葉を詰まらせた。翔鳳丸は知る由もないが、彼女の内で何らかのニューロンスイッチが半分だけ切り替わり、もう1隻の彼女が僅かながら自我表面に顕在したのだ。即ち、マンオウォー。 #KZNPLN

2015-12-26 12:17:39
春魔解丼 @vespiking

表出したマンオウォーは瞬時に状況を洞察し、これを御する。その一瞬の負荷が船体を強ばらせた。突き出したチョップを途中で停止すれば負荷がかかり、また相応のカラテ訓練を要する。自我制御もまたカラテなのだ。 #KZNPLN

2015-12-26 12:22:23
春魔解丼 @vespiking

「……?」翔鳳丸はその様子を訝しんだ。その疑問は些細なものではあったが、翔鳳丸特有の表情の固さが、マンオウォーに必要以上の警戒を与えたことは否めないだろう。軍人由来の、僅かな機微にも反応する彼女の洞察力の高さもそれを手伝った。マンオウォーは決断を迫られた。 #KZNPLN

2015-12-26 12:26:20