松乃太夫は六人いる！

さうす @sa__za_n_

「……ばらばらにならないと、化け物扱いされるだろうね。双子でさえ棄てられるご時世だし。三つでさえ、見世物小屋で見世物にされるだろうし。……六人首揃えて地方に行ったら殺されるだろうね」「そういうの言うのやめてよ闇松兄さん！僕やだよ、死にたくないもん！」

さうす @sa__za_n_

「そういえば、イヤミのおフランスって何処？」「さあ？」「イヤミが若い頃に長崎に行って、南蛮にかぶれて帰ってきたんだろ？ まあそのお陰で待遇良くなったからいいけど」「おフランスには行ってないんだな」「鎖国してんのなどうやっていくんだか」

さうす @sa__za_n_

「もーサイアク！聞いてよ兄さん」「どーした松乃太夫」「あの客さあ！ねちねち触ってきてさあ！煽てたから金落とすかと思ったら全然だし！煽て損だし！松乃太夫をなんだと思ってんのかなぁ！？」「あー、あのおっさんな」「僕あれ無理！今度は他が行ってよ！」「はいはい、今度は僕が行くよ松野太夫」

さうす @sa__za_n_

「はー……疲れた」「お疲れさん、松乃太夫」「……遅松兄さん」「ん、何だよ、ちょろ松」「俺、ちょろ松だよねえ」「そーだぞ。お前は俺の弟で、三男のちょろ松だ」「だよねえ。そうだよねえ。あー、頭いてえや」「もう寝な。一晩ご苦労さん、ちょろ松」「あの客、たぶんつぎ落葉松で大丈夫……」

さうす @sa__za_n_

「市松、次あの客来たらお前な」「えっ」「まじで」「うそお」「うわ」「うげ」「えっ、良いの？」「良いよ、お前向きだよあのにいちゃん」「わ、マジで。わ、うわ、久しぶりだ新しい人。最近全然新鮮さがなくてさ……へへ、うへへ」「一松がド変態でよかったなあ」

さうす @sa__za_n_

「市松、市松、おい、大丈夫か」「……からまつにいさ、ん」「うん」「おれ、おれ、どっかおかしいのかなあ……。あいつ、あいつ、気持ち悪いのに、怖かったのに、痛いのに、おれ……おれぇ……っ」「いっ、市松はおかしくなんか、おかしくなんかない！」「これでおかしくないなら、何が正しいの？」

さうす @sa__za_n_

めちゃくちゃ拗れる色松。

さうす @sa__za_n_

唐松は口下手が過ぎて言葉を間違えたことで、口を開くことに恐怖心を覚えるようになり、市松は唐松の言葉にとどめを刺されたけど、唐松の口下手に拍車をかけてしまったことに少しばかり罪悪感を感じつつ、積極的に何かをするわけではないまま、すっかりマゾへ。

さうす @sa__za_n_

これが大体10〜12歳頃の話なので、二十歳超えて太夫になる頃にはそんな会話があったことさえ忘れて、口下手を恐れて言動がイッタイ唐松とそれにイライラする市松しか残ってないやつ。

さうす @sa__za_n_

御粗末くらいはこじれた理由わかってそう。椴松も、何となく仲のよかった唐松が言動に気をつけ始めたことは察してる。そのタイミングで歌舞伎役者の大首絵を見せたのが悪かったんや……

さうす @sa__za_n_

そういや、松乃太夫の客って男？女？ 女形みたいな扱いだったら両方ありかあ。ふへへ男色大鑑に乗るやつやでえ

さうす @sa__za_n_

普段上客の廻船問屋の大旦那が若旦那を連れてきて、そいつがクソ野郎なんだけど義理もあるわ上客の倅だわで無下にできなくて、コンチクショウと思いながら完璧な松乃太夫を演じ、その後一人で松乃太夫を買いに来た時にこっぴどく振る松乃太夫？

さうす @sa__za_n_

舞を見せれば唐松が完璧に踊り、歌わせれば十姉妹が囀り、椴松がにこりと笑えばぽおっとなって、ちょろ松が話を合わせて夢中にさせて、遅松はお座敷遊びを盛り上げる。すっかり骨抜きの若旦那、すっかり買ったつもりで赤塚楼へ。待ち受けたるは緑の根付の松乃太夫。哀れ面子は丸つぶれ。

さうす @sa__za_n_

そういや市松あいつ表舞台で何ができるんだ……。そうだね……閨事はばっちこいだけど、そういうのは無理よね。だよねーーー。閨事そんなにしない十姉妹と正反対かなーー。

さうす @sa__za_n_

金払いが毎回めちゃくちゃ良い上にめっちゃきてくれるけど、ど変態でサディストの大旦那は市松の手練手管で繋ぎ止める。他の松が代わろうかと言っても自分がやるの一点張り。容赦ない人は基本好きなんだけど、言葉責めの方が好きそうな市松。「もっと自分を大事にしようよ！」

さうす @sa__za_n_

あんまりやりすぎると遅松からストップがはいる。「お前が死んだら、松乃太夫も死ぬんだぞ。お前の所為で他の五人も殺す気か？それで良いのかお前は。あ？」「……わかったよ。もうしない。あんまり酷かったら止めてもらうから……」「破ってみろ、知らないからなおれは」

さうす @sa__za_n_

「いいかい、ちょろ松。僕らがうまくやらないと」「まかせときってんだ、遅松。おれとおまえならなんだってできらい」「僕らであいつらを守ってやらなきゃ」「まずは遣手の婆さんだ。次は旦那」「一丁やってやろうじゃん。この遅松様と」「ちょろ松様の」「「一世一代の大博打だ！」」　#松乃太夫

さうす @sa__za_n_

「また泣いてるの、十姉妹」「うう、市松……」「馬鹿だなあ。いいか十姉妹。あの婆さんはガキを泣かせるのが好きなんだ。お前が泣き虫だから、お前ばかりを狙うのさ」「ええ、じゃあどうすればいいの」「椴松とちょろ松と遅松の真似をすればいいよ。あいつら何やられても笑ってるだろ？」 #松乃太夫