『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』クリスマス茶番
都会の夜。雑居ビルの一室の前。三脚で固定されたハンディカメラが、油性ペンで怪しげな漢字が書かれたマスクを付けた男を映す。「ドーモ、皆さん。ボブピーです」男が顔の前で手を合わせる。「私は今、都内のとある隠れ家的バーに来ております」魔○魂のBGMが流れ、バーの入口が映し出される。
2015-12-25 00:11:12ボブピーが続ける。「というのもですね、今話題でもないプロデューサー『ボブP』さんがこちらのバーに出没するとの情報が入りまして、全てが謎に包まれた彼の正体に近づくため、これから、突撃取材を試みようと思います」彼は三脚を鷲掴みにして畳み、ドアノブに手を掛ける。
2015-12-25 00:12:37「こんばんは~」ボブピーはバーのドアを開けた。店内はLEDと古き良き雑誌類やフィギュアで彩られ、激しいテクノ音楽が独特の雰囲気を増幅する。「すみませ~ん、こちらに『ボブP』さんがいらっしゃると聞いて来たんですけれども」ボブピーは恐る恐るといった様子で店内に入る。
2015-12-25 00:13:46「いらっしゃいませ」茶髪の店主が、ボブピーに会釈する。「え、もしやあなたが……」「いえいえ、違いますよ、ボブPさんはこちらです」言うや、カウンターでバナナリキュールのカクテルを呷るスーツ姿の男を指差す。「ドーモ」男はカメラ目線で挨拶をする。「ボブPです」ボブPだ……。
2015-12-25 00:15:26「お会いできて光栄です」ボブピーがボブPに握手を求める。「こちらこそ」ボブPはボブピーの握手に応える。「ボブピーさん、何か飲んでいきますか?」マスターは酒棚に手を掛けながら尋ねる。「じゃあボブPさんと同じカクテルで」ボブピーが答え、カウンターの椅子に腰掛ける。
2015-12-25 00:16:57ボ゚ーンボ゚ーンボ゚ーンボ゚ーン……プラスチック製の植木鉢の底を叩いたようなキック音が店内に響く。「ところで、この音楽は?さっきから気になってたんですけど」ボブピーが尋ねる。「ああ、これはHardstyleですよ」ボブPが首を揺らしながら答える。「ハードスタイル?」
2015-12-25 00:18:19店内映像が途切れ、解説VTRが流れる。『Hardstyleとは、HardTechnoなどから影響を受けたダンスミュージックである。ファットなベースと加工されたキックのユニゾンからなるベースラインが特徴的。しばしば三連符が用いられ、日本では「盆踊り」と形容される事も。』
2015-12-25 00:19:29映像が店内に戻る。「そうです、ここのマスターがHardstylerで」「ハードスタイラー?」「Hardstyleは奥が深いですよ」マスターが会話に割り込んでくる。「単純にボ゚ンボ゚ン鳴らしてるようで実はベースと上物とのバランス感覚がとっても重要な音楽なんですよ」
2015-12-25 00:20:39「そうなんですよね!」ボブPが食い付く。「ジャンルもどんどん分化してきて特にEuphoricの勢いが」「ああ、エモいやつ」「『ただ跳ぶための』Hardstyleに愛着のあるクラバーやDJは反発したけど俺はこっちのが好きですね」「私は逆にRaw(の方が好き)ですね」
2015-12-25 00:21:59マスターとボブPの、和気藹々とした様子が映される。「俺もね、一回作ってみようと思ったんですよ」「え、マスター、ご自分でも曲を作られるんですか?」「まあ、少しだけね。でもまあ、これが難しくて」「ほう」「あのプラスチック製の植木鉢の底を叩いたようなキックがどうにも再現できなくて」
2015-12-25 00:23:15「YouTubeでFront○inerのチュートリアル動画見たんですけど、まず英語がわからない」「ハッハッハ」「画面だけでも真似しようと頑張ったんですけどなかなか思うような音にならない、本当にプラスチック製の植木鉢の底を叩いてサンプリングしてやろうかと思いましたよ」「ハッハッハ」
2015-12-25 00:24:23会話は続く。マスターの着る、ハテナブロックがデザインされたTシャツが大写しにされる。「そうそう、Fl○ntlinerといえば、彼が千本桜のRemix出した時は本当にビックリしましたよ」「ああ……一年前くらいでしたっけ」「うーん……たぶんもうちょっと後の方」「と、ところで!」
2015-12-25 00:25:44ボブピーが会話を遮った。二人の視線がボブピーに刺さる。「せ、千本桜で思い出したんですけど」ボブピーが続ける。ボブPの表情が固まる。「ボブPさんの『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』に出てくる『タオヤメガタナ』って音楽、ありますよね」
2015-12-25 00:27:44店内映像が途切れ、解説VTR。「『タオヤメガタナ』とは、ボブPによるツイッター小説『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』に登場する架空のボーカロイドオリジナル曲である。詳しくは下記のURLから togetter.com/id/bobpdqoq 」
2015-12-25 00:29:24店内映像に戻る。ボブピーが、差し迫ったような表情を見せ、ボブPに詰め寄る。「『タオヤメガタナ』って、『千本桜』をモチーフとして描かれたって話を聞いたんですが、本当ですか?」バーに緊張が走る。トラックが測ったかのように停止した。マスターが無言でカクテルを作り始めた。
2015-12-25 00:30:34「……誰から聞いたんですか」顔を曇らせたボブPは、質問を返す。「えっ、えっと……」ボブピーは言い淀む。マスターがカクテルシェイカーを振る小気味良い音と、次トラックのスペイシーなイントロが沈黙を彩る。「さては(ピー音)がチクったな」沈黙を破ったのは、ボブPだった。
2015-12-25 00:32:07ボブピーは雰囲気に呑まれ、図星の表情を隠し切れない。ボ゚ーン!ボ゚ーン!ボ゚ーン!ボ゚ーン!ゴリゴリのRaw Hardstyleが店内に流れる!ボブPは溜息を吐く。「ああ、やっぱり(ピー音)のヤツか、小説紹介の仕事を与えてやってから調子に乗りやがって――」「あ、あの――」
2015-12-25 00:33:10ガタン。カウンターにグラスが置かれる音が、ボブピーの追及を遮った。「どうぞ」カメラが、ボブピーにサービスカクテルを供したマスターを映す。「おいしいですよ」「あ、ああ、忘れてました。いただきます」カクテルを眺めるボブピー。黄色く、仄かに琥珀色が混ざるカクテルだ。
2015-12-25 00:34:19バナナリキュールをベースにしたそのカクテルは、ブレンドされた洋酒も相まって、抗い難い魔力めいた甘い匂いを漂わせていた。「話の続きは、一息ついてからにしましょうよ」マスターに勧められるがまま、ハンディカメラで自身を映しながら酒を一口呷るボブピーの表情は、呪われた狂戦士の様だった。
2015-12-25 00:36:01「おいしいですよ、おいしいですよ、これ!」カメラ目線でわざとらしく叫ぶボブピー。映像が切り替わり、別個においしそうに撮影されたカクテルの映像が、視聴者の飲酒欲を煽る。「蕩けるようなバナナの甘さと、ラムの色気のある甘さ!」畳みかける!「不思議な後味も後を引きます!」
2015-12-25 00:37:14映像が店に戻る。ボブピーは、カメラをカウンターに置いた。横向きの映像の中で、ボブピーは鼻いっぱいにカクテルの悪魔的に芳醇な香りを嗅いだ。「ん~、たまらない!」言うや、バキュームカーのように酒を喉に流し込み、終いには、ジョッキ程の大きさがあるグラス一杯分を飲み干してしまった!
2015-12-25 00:38:26大きく息を吐くボブピー。魂ごと吐き出してしまいそうな溜息である。カメラは、早くも顔が赤いボブピーが水を飲むボブPに詰め寄る様を映す!「で、どうなんですか『タオヤメガタナ』は――」その時である!突如、ボブピーの思考回路が混濁した!頭の中に砂糖を流しこまれたかのようだ!
2015-12-25 00:40:56