- EVO_Hitachi
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「ドッソイ!」「グワーッ!」胸を突かれて倒れ込む。取り巻きヤンクがすかさずカシイに綺麗なトーキックを見舞う。カシイは腹の空気を全部吐き出した。芋虫めいてもがく腹を蹴り転がされ、うつぶせになった。上で風を切る音が聞こえる。蹴りの音ではなかった。 22
2015-12-27 21:42:18((やばい))カシイは体を緊張で硬くした直後、上から何かで殴られた。カシイは悲鳴を押し殺し、不敵さを装う。「なんだよ。マッサージか?」逆効果だと分かっていたが、このままスユキの兄の前でブザマを見せたくなかった。あの時スユキに言われたのは、ユダカのことだけじゃなかったからだ。 23
2015-12-27 21:45:42上から、今度は腰の入った打擲が降ってくる。転がって避けるが、その先にもヤンクだ。そのまま、文字通り囲んで棒で殴られる。カシイに沸き上がるのは、痛みよりも怒りだった。絶対一発やり返す。その気迫だけでヤンク達を睨め付けた。スユキ達にそうしたように。 25
2015-12-27 21:53:55その時だ。「マッポを呼んだぞ! お前ら出入り禁止だ!」店内のスピーカーから店員の声。ヤンク達の動きが一瞬止まった。その隙を突いてカシイは起き上がり一発お見舞いしようとするが、ヤンク達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。それを深追いしようとしたカシイを、ユダカの声が止めた。 26
2015-12-27 21:57:52「カシイやめろ!」「けどよ、ユダカ!」「いいから、走れ!」客達を縫うように二人は駆けだした。『何にせよ逃げるのが一番いい』という、習いたてのコトワザ通りに。ユダカはなけなしの万札をカウンターに叩き付け「迷惑料!」と言い置き、カシイを引っ張ると通用口から逃げ出した。 27
2015-12-27 22:02:25マッポのサイレンが聞こえる廃ビルの非常階段で、少年達はようやく一息ついた。ユダカはぼたぼたと落ちてくる鼻血を拭った。殴られた時に切れたらしい。口の中もだ。打撲はこしらえたけれど、医者に行くほどのことではなさそうだった。 29
2015-12-27 22:09:02「カシイ」ぜえぜえと息を切らす隙間から呻くように友達の名前を呼ぶと、隣で同じような呻き声が返事をする。ユダカは息をつくと、サビだらけの鉄柵に寄りかかった。「怪我、どうだ」「まあまあ、ダイジョブ」 30
2015-12-27 22:12:18しゃがみ込んだカシイは、珍しく殊勝に謝った。「ゴメン。出禁になっちまって。俺がスユキにケンカ売ったせいで」「何だよ。気にすんなよ」ユダカは笑った。「楽しい場所は他にもあるんだぜ」「けどよ……」 31
2015-12-27 22:18:23カシイはうなだれる。こんなザマでは、スユキの言うとおりだ。ケンカに強くない。頭も良くないから、マズくなってもひとりでは切り抜けられない。その点、ユダカはクールな奴だ。そんなユダカと友達でいられることは誇らしい。けれど、それに釣り合わない自分が悔しい。 32
2015-12-27 22:22:51サイドキック、お荷物。そんな言葉がカシイを囲んで襲う。どんなケンカで殴られるより、それはカシイを重く殴りつける。「気にすんなって言ってるだろ? 兄弟(ブロ)」ユダカに足で小突かれ、カシイは顔を上げる。 33
2015-12-27 22:28:37「兄弟(ブロ)?」カシイはユダカの言葉を繰り返す。「マジで?」「マジで」ユダカが頷く。カシイは立ち上がり、ユダカの隣で笑った。「よし、その調子だぜカシイ。まだ俺達は忙しいんだ」忙しい。それもそうだ。カシイが血混じりの唾を吐いた。「おう。あいつらにナメられちまったからな」 34
2015-12-27 22:34:42「やるぜ」ユダカが言う。「やろう」カシイは答える。少年達は剣呑な目で笑う。言葉はいらない。だってこれは、シンプルな話だ。 35
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