【新・日本推理小説体系・総解説】《第1期》下

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】《第8巻》から《第13巻》までのまとめです
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松井和翠 @WasuiMatui2014

「猿の証言」 「証拠なし」 「見慣れぬ庭木」 「折鶴の毒」 「お連れの方」

2015-12-30 12:43:29
松井和翠 @WasuiMatui2014

第10巻には佐野洋の長編1作品と短編17作品を収録した。 言わずと知れた短編の名手。生涯に遺した短編は1000本を超え、かつ毎年推理作家協会から刊行される《推理小説年鑑》には1960年から1997年までの37年連続収録を含む40回の収録を記録。今後も最長不倒の大記録を樹立した。

2015-12-30 12:51:53
松井和翠 @WasuiMatui2014

よって、なかなか長編に光が当たらないのが実情だが、では長編を苦手にしているかというとそうでもなく。今回収録した『轢き逃げ』や長編第1作『一本の鉛』を始めとして『高すぎた代償』『秘密パーティ』『赤い熱い海』『空が揺れる日』等は現代の視点で見ても十分鑑賞に耐えうる作品である。

2015-12-30 12:56:26
松井和翠 @WasuiMatui2014

しかし、何といっても短編の巧さには叶わないだろう。特に初期作の切れ味が特筆に値する。処女作「銅婚式」、ブラックな犯罪喜劇「不運な旅館」「さらば厭わしきものよ」、名アンソロジー『13の密室』にも採られた「密室の裏切り」、乱歩の絶賛を受けたSFミステリ「金属音病事件」等々。

2015-12-30 13:00:42
松井和翠 @WasuiMatui2014

また、特定のテーマやコンセプトに則って短編を連作することも多い。本巻ではその中から、選挙をテーマとした「三人目の椅子」、動物テーマの「猿の証言」、作者の趣味でもある折り紙テーマから「折鶴の毒」を採った。

2015-12-30 13:16:18
松井和翠 @WasuiMatui2014

その他、急転直下の結末の「冷えた茶」、「9マイルは遠すぎる」に挑戦したと思しき「お連れの方」等が印象的だ。

2015-12-30 13:26:09
松井和翠 @WasuiMatui2014

また自他ともに認める代表作として、時事評論集『推理日誌』を欠かすことはできない。本巻では都筑道夫との【名探偵論争】や泡坂妻夫の『花嫁のさけび』を取り上げてフェアプレイについて語った回など、代表的な論評を収録した。

2015-12-30 14:30:46
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第11巻》 【多岐川恭】 『氷柱』 『異郷の帆』 『おやじに捧げる葬送曲』 「落ちる」 「ある脅迫」 「笑う男」 「二夜の女」 「奇妙なさすらい」 「俘虜コーエン」 「悪人の眺め」 「蝋燭を持つ犬」 「一人が残る」 「負け犬にねぐらはない」

2015-12-30 14:34:30
松井和翠 @WasuiMatui2014

第11巻には多岐川恭の長編3作品と短編10作品を収録した。 “文学的”“通俗的”“本格的”“変格的”―、いずれにも属しそうで、いずれからもすり抜けてしまう独特の味わいを持っている作家、それが多岐川恭である。

2015-12-30 14:46:30
松井和翠 @WasuiMatui2014

長編は仁木悦子と同様3作品を収録した。長編第1作『氷柱』はピカレスク風のクライム・ストーリー。“氷柱”とあだ名される男の造形に早くもこの作者の特質が表れている。対して、中期の時代ミステリの傑作が、『異郷の帆』である。

2015-12-30 15:00:13
松井和翠 @WasuiMatui2014

出島という巨大な密室で起こる殺人事件を描いた本作は、多岐川ミステリの代表作のみならず、国産時代ミステリ屈指の逸品である。そして、もう一作が異色の“ベッド・ディティクティブ・ストーリー”『おやじに捧げる葬送曲』である。

2015-12-30 15:10:15
松井和翠 @WasuiMatui2014

“「病床の死期の近い元刑事」に「おれ」が語りかける”という何ともややこしい手法で綴られるこの物語は、しかしそれがその形式でしか出せない比類ない味わいとなって読者の胸を打つ。

2015-12-30 15:14:23
松井和翠 @WasuiMatui2014

3作とも作者にしか書き得ない傑作である。

2015-12-30 15:16:37
松井和翠 @WasuiMatui2014

短編は直木賞を受賞した「落ちる」「笑う男」「ある脅迫」をまず収録した。いずれも市井のどこにでもいそうな小人物が犯罪に“落ちる”様を描いて出色。

2015-12-30 15:19:44
松井和翠 @WasuiMatui2014

この他、多岐川流のシンデレラ・ストーリー「二夜の女」、文字通り奇妙な味わいを持った「奇妙なさすらい」、戦争ミステリの佳品「俘虜コーエン」を収めた。とぼけた味わいを是非楽しんでいただきたい。

2015-12-30 15:25:18
松井和翠 @WasuiMatui2014

かと思えば「一人が残る」「蝋燭を持つ犬」「負け犬にねぐらはない」といった強烈なオチを持つ作品もあるのだから侮れない。特に「負け犬」のオチは何度読んでも意味不明である。

2015-12-30 15:26:55
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第12巻》 【結城昌治】 『ひげのある男たち』 『公園には誰もいない』 「寒中水泳」 「葬式紳士」 「視線」 「老後」 「影の殺意」 「温情判事」 「おまわりなんかしるもんかい」 「公園にて」 「奇病」 「あるフィルムの背景」

2015-12-30 15:29:32
松井和翠 @WasuiMatui2014

「敵前党与逃亡」 「孤独なカラス」 「みにくいアヒル」 「あるスパイとの決別」 「夜が暗いように」

2015-12-30 15:29:59
松井和翠 @WasuiMatui2014

第12巻には結城昌治の長編2作品と短編及びショートショート15作品を収録した。 坂口安吾が随筆「文学のふるさと」の中で童話「赤頭巾」や『伊勢物語』を例に挙げ、どうしようもなく残酷な話に「氷を抱きしめたような、切ない悲しさ、美しさ」を感じると書いているが、

2015-12-30 15:38:40
松井和翠 @WasuiMatui2014

これは結城昌治は書いた小説のすべてに当てはまる言葉ではないだろうか。

2015-12-30 15:39:28
松井和翠 @WasuiMatui2014

処女長編『ひげのある男たち』から連なる《郷原部長刑事》三部作こそユーモラスな本格推理小説だが(ちなみに『ひげ』はクイーンばりの論理が光るフーダニットの傑作である)、その他の作品は、どこか突き放したような冷徹さが印象深い作品ばかりである。

2015-12-30 15:47:20
松井和翠 @WasuiMatui2014

その冷徹さは処女短編「寒中水泳」においても、ユーモラスな「葬式紳士」においても、哀しい恋愛譚「影の殺意」においても、スパイものの「あるスパイとの決別」においても、3作収録したショートショートにおいても、通底するものである。

2015-12-30 15:51:48
松井和翠 @WasuiMatui2014

この冷徹さが極まっていくと、残酷極まりない「視線」「老後」といった小品や、サイコサスペンスの嚆矢「孤独なカラス」、直木賞受賞作『軍旗はためく下で』の中の一編「敵前党与逃亡」といった話にいたる。そして、その終着点にいるのが、私立探偵・真木シリーズである。

2015-12-30 15:55:25
松井和翠 @WasuiMatui2014

真木シリーズはロス・マクドナルドをモデルにした作者の代表的なハードボイルドミステリ。本巻では、長編『公園には誰もいない』と短編「夜が暗いように」を採った。いずれも「氷を抱きしめたような、切ない悲しさ、美しさ」を感じさせられる名作である。

2015-12-30 15:58:18
松井和翠 @WasuiMatui2014

次が第1期のラストの巻です。

2015-12-30 15:59:20