【新・日本推理小説体系・総解説】《第2期》

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】の《第14巻》から《第26巻》までのまとめです
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松井和翠 @WasuiMatui2014

第17巻は戸川昌子の長編2作品と短編13作品を収録した。 戸川昌子は、処女長編『大いなる幻影』でデビュー。天藤真『陽気な容疑者たち』、塔晶夫(中井英夫)『虚無への供物』(ただし前半部分のみ)を抑えての受賞であった(同時受賞が佐賀潜『華やかな死体』)。

2015-12-30 19:06:02
松井和翠 @WasuiMatui2014

本全集ではその『大いなる幻影』を収めた。老朽化したアパートに棲む老嬢たちの奇妙な生活を描いて忘れ難い本作は、未だに“乱歩賞最高傑作”の声高い。

2015-12-30 19:09:30
松井和翠 @WasuiMatui2014

もう一作は『火の接吻』を採った。作者の長編で最もミステリ味の強い作品であり、終盤のデンプシーロールばりのどんでん返しの連鎖は眩暈を起こさせるほどだ。

2015-12-30 19:12:47
松井和翠 @WasuiMatui2014

前2編の長編はまだ首尾一貫しているが、これが短編になると“戸川ワールド”としか形容できない作品ばかり。『異形の白昼』の巻末を飾る「緋の堕胎」やエラリー・クイーンの激賞を受けた「黄色い吸血鬼」はまだいい方で、

2015-12-30 19:15:33
松井和翠 @WasuiMatui2014

着ぐるみミステリの怪作「塩の羊」や題名通りの奇作「人魚姦図」にいたっては、もはや謎解きという枠を超え、突き抜けたイマジネーションを愛でるほかなくなってくる。しかし、それがいいのであるが。

2015-12-30 19:17:52
松井和翠 @WasuiMatui2014

巻末に置いた「怨念の宿 舌切り雀の鋏」はそのような奔放なイマジネーションと謎解きの興味が絶妙なバランスで混淆した傑作である。特に男性の読者に一読をお勧めしたい。

2015-12-30 19:20:01
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第18巻》 【小泉喜美子】 『弁護側の証人』 『ダイナマイト円舞曲』 『血の季節』 「またたかない星」 「犯人のお気に入り」 「髪」 「殺人者と踊れば」 「故郷の緑の…」

2015-12-30 20:02:50
松井和翠 @WasuiMatui2014

第18巻には小泉喜美子の長編3作品と短編5作品を収録した。 小泉喜美子が遺した長編は5作のみ。そのうちの3作品が有名童話を元にした『弁護側の証人』『ダイナマイト円舞曲』『血の季節』である。本巻ではその3作品すべてを収めた。

2015-12-30 20:09:03
松井和翠 @WasuiMatui2014

『弁護側の証人』は“あるテーマ”の先駆的な作品。おの洒落た筆致と相まって、発表から半世紀近く経った現代においても全く古びていないのに驚かされる。『ダイナマイト円舞曲』は地中海の小国を舞台としたエスピオナージ風のミステリ。このような設定を持ってきて全く違和感がないことに恐れ入る。

2015-12-30 20:13:04
松井和翠 @WasuiMatui2014

三部作で最も完成度が高いと思われるのが『血の季節』だ。“ドラキュラ”を下敷きにしたこの傑作は、ホラーとしても、ミステリーとしても優れたマスターピース。文庫での復刊が切に望まれる。

2015-12-30 20:14:39
松井和翠 @WasuiMatui2014

長編に比べると、短編はやや軟さを感じるが、その都会的なセンスは変わらない。本巻では、コバルト文庫より刊行された『またたかない星』から表題作「髪」「犯人のお気に入り」「殺人者と踊れば」の4編を採った。特に後ろ2編は「故郷の緑と…」とともに作者の得意とした手法の傑作である。

2015-12-30 20:17:34
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第19巻》 【中井英夫】 『虚無への供物』 『幻想博物館』 「影の狩人」 「幻戯」 「干からびた犯罪」

2015-12-30 20:56:26
松井和翠 @WasuiMatui2014

第19巻には中井英夫の長編1作品と連作短編集1作品及び短編3作品を収めた。 日本推理小説史に聳え立つ高峰『虚無への供物』。この頂について、今更多言を擁する必要もあるまい。むしろ触れておきたいのは珠玉の短編である。

2015-12-30 20:59:34
松井和翠 @WasuiMatui2014

連作短編集として『とらんぷ譚』のスペエドにあたる『幻想博物館』を収めた。「大望ある乗客」「地下街」「チッペンデールの寝台」「公園にて」等、ほとんど神業に近い作品が収められた驚異の作品集である。

2015-12-30 21:06:21
松井和翠 @WasuiMatui2014

前記に加え、ジョーカーたる「幻戯」「影の狩人」を共に読めば作者の魔術的な手際のとりことなること間違いなし。

2015-12-30 21:06:44
松井和翠 @WasuiMatui2014

また、ボーナストラックとして『アリス』と萩原朔太郎の詩作を強引に纏め上げた「干からびた犯罪」も付す。是非とも、“黒い水脈”に身を任せていただきたい。

2015-12-30 21:09:09
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第20巻》 【西村京太郎】 『四つの終止符』 『殺しの双曲線』 「歪んだ朝」 「南神威島」 「カードの城」 「受験地獄」 「第二の標的」 「一千万人誘拐計画」 「やさしい脅迫者」 「行先にない切符」 「白い殉教者」 「天国に近い死体」 「マウンドの死」 「二十三年目の夏」

2015-12-30 21:11:20
松井和翠 @WasuiMatui2014

第20巻は西村京太郎の長編2作品と短編12作品を収めた。 作者の作品には2つの傾向があり、一つが《人間の営みと社会を見つめた作品》、もう一つが《スケールの大きい(時に大雑把にすら見える)作品》である。無論、この二つは時に混じりあい重なり合ってもいるわけだが。

2015-12-30 21:16:27
松井和翠 @WasuiMatui2014

本巻では前者の代表長編として『四つの終止符』を、後者の代表長編として『殺しの双曲線』を採った。前者は聾者が容疑者となった事件を通して、社会的弱者の叫びを谺させた初期の佳作である。“四つの終止符”が無常しか響かせない結末は哀しく、胸を打つ。

2015-12-30 21:21:06
松井和翠 @WasuiMatui2014

対して『殺しの双曲線』は冒頭で双子トリックを使っていることを宣言し、雪の山荘で連続殺人を起こすなど、かなり遊戯性の強い作品ではある。それでも事件の動機に『四つの終止符』と共通するモチーフを用いるなど、やはり社会派的な視点も忘れていない。

2015-12-30 21:24:52
松井和翠 @WasuiMatui2014

短編では「歪んだ朝」と「南神威島」が双璧。「被害者少女がなぜ口紅を塗っていたのか?」という謎が物語を動かす前者、離島の至極“合理的な”論理を描いて恐るべき完成度を誇る後者。それぞれ、読み逃すことが出来ない作である。

2015-12-30 21:30:28
松井和翠 @WasuiMatui2014

この他、題名通りの破天荒さを誇る「一千万人誘拐計画」、クイーンのお眼鏡にかなった「優しい脅迫者」、奇妙な後味を残す「行先のない切符」、戦争ミステリの佳品「二十三年目の夏」等、秀作佳作が目白押し。全編通読推奨の一巻だ。

2015-12-30 21:34:04
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第21巻》 【海渡英祐】 『伯林―一八八八年』 『影の座標』 『ふざけた死体ども』 「ドン・ファンの衣装」 「『わたくし』は犯人」 「臭い仲」 「告発の輪舞」 「ミスタ・ヤマ」 「戦艦『三笠』設計図」 「天国の活人」

2015-12-30 21:36:50
松井和翠 @WasuiMatui2014

第21巻には海渡英祐の長編2作品と連作短編集1作品及び短編7作品を収めた。 1967年に『伯林―一八八八年』で江戸川乱歩賞を制した作者は、その後大きなタイトルに縁がなかったこともあってか、やや地味な存在である。しかし実力は折り紙つきだ。

2015-12-30 21:44:04
松井和翠 @WasuiMatui2014

まず、『伯林―一八八八年』は森林太郎(後の鴎外)を探偵役に据え、ドイツの鉄血宰相・ビスマルクと共演させた快作なのだ。ドイツの古城での密室殺人という道具立てといい、若き森鴎外の恋愛模様といい、嫋嫋たる結びの見事さといい、とても処女探偵小説とは思えぬ出来である。

2015-12-30 21:48:34