【新・日本推理小説体系・総解説】《第3期》

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】の《第27巻》から《第37巻》までのまとめです。
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松井和翠 @WasuiMatui2014

では、《第3期》の10巻について紹介していきます。

2015-12-31 09:12:10
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第27巻》 【泡坂妻夫】 『11枚のとらんぷ』 『妖女のねむり』 『亜愛一郎の狼狽』 「王たちの恵み」 「ダッキーニ抄」 「椛山訪雪図」 「紳士の園」 「煙の殺意」 「ダイアル7」 「ゆきなだれ」 「芸者の首」

2015-12-31 09:15:08
松井和翠 @WasuiMatui2014

第27巻には泡坂妻夫の長編2作品と連作短編集1作品及び短編8作品を収録した。 “厚川昌男賞”にその名を残す稀代のマジシャンであり、“日本のチェスタトン”とあだ名される優れたミステリ作家でもある作者の作品は、長短編通じて傑作が多く、正直どの作品を選択しても構わないくらいであった。

2015-12-31 09:22:25
松井和翠 @WasuiMatui2014

その中でも、特に作者の魅力を伝える作を選んだつもりである。 長編は、まず奇術師の世界を描いた処女長編『11枚のとらんぷ』を選んだ。「11枚のとらんぷ」という作中作を盛り込むなど、アイディア満載の愉しい一編。“実演できない奇術”を多く扱ったのは、作者なりの同好の士への配慮だろうか。

2015-12-31 09:27:13
松井和翠 @WasuiMatui2014

奇術を題材にした作品からは、ヨーガと奇術の達人《ヨギ・ガンジー》シリーズから「王たちの恵み」を、ノンミステリではあるが奇術師に一生をかけたある男の奇跡を描いて忘れ難い「ダッキーニ抄」を選択した。

2015-12-31 09:30:24
松井和翠 @WasuiMatui2014

“日本のチェスタトン”と呼ばれることからも窺えるよう、氏は比類なき短編の名手でもある。特に《亜愛一郎》三部作はチェスタトンの《ブラウン神父》に肩を並べる宝石群。本巻では当然『亜愛一郎の狼狽』を採った。

2015-12-31 09:33:34
松井和翠 @WasuiMatui2014

その他、名短編集『煙の殺意』から、特に評価の高い「椛山訪雪図」「紳士の園」「煙の殺意」を採った。この選択に関しては、誰も異論はないだろう。

2015-12-31 09:34:59
松井和翠 @WasuiMatui2014

後期になると、時代に取り残された職人もの・芸人ものや色香かおる大人の恋愛ものが増えていく。その代表として、本巻では「ゆきなだれ」、そして時代小説から「芸者の首」を採った。どちらも、ひたむきな女性像が胸に刻まれる逸品である。

2015-12-31 09:37:06
松井和翠 @WasuiMatui2014

前述した恋愛小説の味と本格ミステリが合流した作品として、長編『妖女のねむり』を収録した。“輪廻転生”という壮大かつ幻想的なテーマを扱いながら、その壮大な幻想を萎ませることなく推理小説として着地する様は、まさに稀代の奇術師ならでは。その手際は、今後も多くの読者を虜にするだろう。

2015-12-31 09:40:51
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第28巻》 【梶龍雄】 『龍神池の小さな死体』 『ぼくの好色天使たち』 『灰色の季節』 「追憶の中の殺人」 「白鳥の秘密」

2015-12-31 10:31:53
松井和翠 @WasuiMatui2014

第28巻には梶龍雄の長編2作品と連作短編集1作品及び短編2作品を収録した。 梶龍雄といえば、戦中・終戦直後を舞台とした青春ミステリ―特に思春期の少年を主人公に置いたもの―の関しては右に出る者のいない名手である。

2015-12-31 10:37:36
松井和翠 @WasuiMatui2014

本巻でも、その実力が十二分に発揮された長編『ぼくの好色天使たち』と連作短編集『灰色の季節』をまず採用した。前者は闇市で起こった娼婦(=天使)の連続殺人事件を描いたもの、後者は戦時下を背景に中学生の野沢少年と中学校の教員“ギョライ”先生が数々の事件に挑む連作である。

2015-12-31 10:43:19
松井和翠 @WasuiMatui2014

どちらも郷愁に溢れた清新な筆致が印象的だ。対して、もう一方の長編『龍神池の小さな死体』は現代を舞台にしたガチガチの本格推理である。ただし、主人公が「おまえの弟は殺されたのだよ」という宣告を受ける冒頭からもわかるように、過去が現代に影を落とす設定であるのが作者らしい。

2015-12-31 10:47:37
松井和翠 @WasuiMatui2014

そして作者のもう一つの長所、《伏線の張り方の巧さ》が存分に活かされた作品が『龍神池』だ。読み返さないと気付かない伏線、到底伏線とは思えない伏線、伏線の伏線(!)などを一つ残らず回収し、異様な真相を読者に突き付けるこの作は、未だ絶版ということが信じ難い傑作である。

2015-12-31 10:51:43
松井和翠 @WasuiMatui2014

その他、過去が現代に影を落とす作品として短編「追憶の中の殺人」を収録した。また、「白鳥の秘密」は、島田荘司・鮎川哲也共同責任監修のアンソロジー《ミステリーの愉しみ(全5巻)》に収録された、凝りに凝った本格推理である。

2015-12-31 10:54:12
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第29巻》 【竹本健治】 『匣の中の失楽』 「匳の中の失楽」 「氷雨降る林には」 「閉じ箱」 「恐怖」 「フォア・フォーズの素数」 「仮面たち、踊れ」 「銀の砂時計が止まるまで」

2015-12-31 10:59:39
松井和翠 @WasuiMatui2014

第29巻には竹本健治の長編1作品と短編及びショートショート7作品を収録した。 まず先日、“第四の奇書”『匣の中の失楽』が見事講談社文庫から新装版にて刊行されたことを寿ぎたい。当然、本巻でもその中核に置いた。

2015-12-31 11:05:10
松井和翠 @WasuiMatui2014

作者を語る上で『匣』は勿論欠かすことが出来ない作品であることは間違いないのだが、しかし作者が決して『匣』のみの作家ではないことを本巻では証明したかった。よって、極めて完成度の高い短編集『閉じ箱』『フォア・フォーズの素数』から以下の作品を採った。

2015-12-31 11:08:01
松井和翠 @WasuiMatui2014

この2冊の短編集は両方とも「クローバー」「ダイア」「ハート」「スペード」(プラスあとがきの「ジョーカー」)という4つのタームにわかれて構成されている。本巻ではそれぞれのタームから1~2編ずつを選んで収録した。

2015-12-31 11:10:59
松井和翠 @WasuiMatui2014

「クローバー」から『閉じ箱』の「氷雨降る林には」、「ダイア」から前記表題作「閉じ箱」、「ハート」から『閉じ箱』の「恐怖」、『フォア・フォーズの素数』表題作、「スペード」から『閉じ箱』の「仮面たち、踊れ」、『フォア・フォーズの素数』の「銀の砂時計が止まるまで」といった具合である。

2015-12-31 11:20:22
松井和翠 @WasuiMatui2014

『匣』とはまた一味違った作者の魅力に触れていただきたい。

2015-12-31 11:21:50
松井和翠 @WasuiMatui2014

(あと、こっそり言っておきますが伯爵ことSAKATAM氏のサイト「黄金の羊毛亭」の『匣の中の失楽』ネタバレ解説が本当に素晴らしい論考なので、読了後の一読をお薦めします)

2015-12-31 11:26:11
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第30巻》 【栗本薫】 『ぼくらの時代』 『鬼面の研究』 『黒船屋の女』

2015-12-31 11:48:58
松井和翠 @WasuiMatui2014

第30巻には栗本薫の長編3作品を収録した。 本巻は他巻と違って長編3作という異例の収録となった。これは、作者が(推理小説に限っては)長編を得意としていたこと、3作とも外しようがないことがその理由である。

2015-12-31 11:34:17
松井和翠 @WasuiMatui2014

『ぼくらの時代』は言わずと知れた乱歩賞受賞作。若者言葉が古びていたり、推理小説として欠陥があったりと、決して万全の作品ではないが、優れた作劇法と鋭い社会批判は現代でも色褪せないものを持っている。

2015-12-31 11:39:52