やせんのよるに

軽巡棲姫と神通さんのこんなお話が、どうしても書きたかった
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深海さかな @dzurablk_kai

だがその軽巡棲姫の願いは、皮肉にも裏切られた #やせんのよるに

2016-01-06 16:33:47
深海さかな @dzurablk_kai

八戸に着くなりその辺りにあった書類の裏に書きなぐった命令書を、意外にも陸自の幹部は受理するとヘリの手配はとんとん拍子に進んだ 不気味なくらいの手際のよさと食糧や救急用品まで用意されているきめ細かさは、提督があらかた根回しをしていたのであろう #やせんのよるに

2016-01-06 16:36:50
深海さかな @dzurablk_kai

いっそ士官なぞ辞めて政治家にでもなった方がいいのではないか、その方が私としても楽ができるし、なにより姉妹艦を失うことも二度とないのに などと考えながら川内は、ブラックホークの窓から1面の大海原を眺めていた 狭いキャビンには重苦しい空気 #やせんのよるに

2016-01-06 16:38:50
深海さかな @dzurablk_kai

川内の他に乗っている睦月・如月・弥生・望月も、誰も口を開かず、窓の外の海面を眺める こんな、作戦海域から遠く離れた場所に、まるで神通の姿を探すかのように だが途中何度か見かけた深海棲艦のほかに、動くものは何もなかった #やせんのよるに

2016-01-06 16:41:50
深海さかな @dzurablk_kai

「この先に小島がある 済まないがそこで少し機体をチェックさせてもらいたい」 中年ほどの、年齢を感じさせない屈強なパイロットが振り返り川内に話しかけた 「さっきからどうにも妙な感じなんだ」 「故障?」 #やせんのよるに

2016-01-06 16:43:34
深海さかな @dzurablk_kai

川内のそんざいなな受け答えにも気分を害した風もなく、工藤というそのパイロットは続ける 「いや、どうも今日の感じはしっくり来なくてな・・・ 第六感と言うかなんというか、こんな日は用心するに限る お前さん方には悪いがな」 #やせんのよるに

2016-01-06 16:45:05
深海さかな @dzurablk_kai

「それは、整備士共々、頼りになることね」 「ハッハッハ、言われちまったなぁオイ」 工藤はその陰険な言葉を一度笑い飛ばすと、突然真顔に戻り低い声で言った 「・・・最近休みなく散々こき使われてたからな うちの日本一腕のいい整備の連中じゃあなく、他が原因だろうな」 #やせんのよるに

2016-01-06 16:50:44
深海さかな @dzurablk_kai

その言葉に我に帰った川内が非礼を詫びると、工藤はまた笑顔に戻った 「ごめん、ついイライラしてて」 「別に気にしてねえよ 気持ちはよくわかる 俺も一度、部下を失ったからな」 朗らかな印象と解離した独り言のような言葉に、キャビンの5人は耳を傾ける #やせんのよるに

2016-01-06 16:53:30
深海さかな @dzurablk_kai

「ただ、幹部が不安とか抱えてる部下の前で、そういう顔するわけにはいかねえからなあ それよりも大変な、前線で戦ってるお前さんがたの前とあらば、尚更よ 戦う方には戦う方、運ぶ方には運ぶ方の苦労もあるし、目上目下も同じこと」 ヘリが高度を落としていく #やせんのよるに

2016-01-06 17:06:45
深海さかな @dzurablk_kai

「ま、そういう訳だから お前さんがたが満足いくまで、寝る間も休む間も惜しんで運んでやるよ それしかできないからな、俺たちには」 工藤の言葉には、艦娘への最大の信頼と慈愛が感じられた 「それが、部下への手向けにもなる」 そして、理想の指揮官としての背中も #やせんのよるに

2016-01-06 17:09:40
深海さかな @dzurablk_kai

その直後、波間を縫うくらいまでに、迷彩色のヘリが高度を落とした時だった 「・・・あれは?」 工藤が何かを見つけ川内を呼んだ フロントガラス越しに見えたのは、ヤシの木の生えた白浜と、ほんのわずか、小さな橙色 「お前さんの来てる制服のように見えるが」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:12:14
深海さかな @dzurablk_kai

「そんな、まさか本当に・・・!!」 川内の顔が明るくなると、死んだようなキャビンが活気を帯びた 弥生が無線機に飛び付くのと時を同じくして、工藤は別のチャンネルで海自に付近で回せる救難機か艦艇がないかを問い合わせ始める #やせんのよるに

2016-01-06 17:14:49
深海さかな @dzurablk_kai

「大湊基地、こちら三水戦 行方不明者らしき着衣を発見、これより確認に向かう」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:16:10
深海さかな @dzurablk_kai

ヘリを飛び降りた川内が目にしたのは、夢にまで見ながら探し求めた妹と、その身体に覆い被さり肩を震わせる軽巡棲姫だった 二重の意味での思わぬ邂逅に一瞬思考がフリーズするも、すぐさま救急箱やタンカを持った睦月・如月と共に駆け寄る 「神通!?」 返事はない #やせんのよるに

2016-01-06 17:18:57
深海さかな @dzurablk_kai

「呼吸と心拍はあります!」 如月の叫び声にほっとするのもつかの間、川内は軽巡棲姫に厳しい目線を向ける 背後では望月の構えた機関銃、その0.22 インチの銃口が、ヘリの窓から睨んでいる 「貴様、何をした」 軽巡棲姫は答えない #やせんのよるに

2016-01-06 17:29:58
深海さかな @dzurablk_kai

「姉さん、その人は敵じゃ・・・」 「神通!?」 意識が戻った神通はよろよろと立ち上がると、軽巡棲姫の前に立ちはだかる 「私を・・・助けてくれたんです」 「イヤ、スクワレタノハ ワタシノホウダ」 「なにこれ、どうなってるの・・・」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:31:28
深海さかな @dzurablk_kai

「深海棲艦が、神通さんを助けた・・・?」 狼狽する駆逐艦の前で川内は落ち着きはらった口調で、静かに告げた 「何をしている望月 神通にいつまで銃口を向けてるつもりだ」 慌てて機銃を空に向ける望月をよそに、川内は二人に歩み寄った #やせんのよるに

2016-01-06 17:33:27
深海さかな @dzurablk_kai

「どうやら、敵意はないみたいね」 「ワタシヲドウスルツモリダ」 川内は依然鋭い目つきを変えない 「どうするか? 決まってるでしょ」 そう言って軽巡棲姫に手を伸ばすと・・・ その頭を撫でた 「妹が世話になったみたいね ありがとう」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:37:06
深海さかな @dzurablk_kai

驚きを隠せないのは軽巡棲姫だけではなかった 大湊随一の武闘派にして深海棲艦を誰よりも忌み嫌う水戦旗艦のその優しく微笑む表情は駆逐艦は誰も見たことのない、姉妹艦にしか見せない姉としての顔だった 「弥生、基地に連絡を」 「・・・は、はい!」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:40:37
深海さかな @dzurablk_kai

「軽巡神通の生存を確認 命に支障はなし その他、要救助者1名を認む これより後送し、救難活動を終える 以上、送れ」 それだけ言うと川内は神通をタンカに乗せる補助をしてから、軽巡棲姫に肩を貸した #やせんのよるに

2016-01-06 17:42:54
深海さかな @dzurablk_kai

「歩ける?」 「アア、ナントカナ・・・」 「本当に、感謝してる」 「ソレハワタシモダ」 「そうは見えないけどね」 川内は緊張の糸が切れたのか、指揮官としての顔に戻ることなく控えめに笑う #やせんのよるに

2016-01-06 17:44:41
深海さかな @dzurablk_kai

「なんか、初めて会った気がしない」 「カオガニテルカラナ」 「・・・そうかもね」 ヘリのキャビンに軽巡棲姫を横たえ、駆逐艦たちに輸液や傷の消毒をさせると川内もキャビンに腰を下ろす コックピットの方を見やると、心底嬉しそうな顔の工藤と目があった #やせんのよるに

2016-01-06 17:47:18
深海さかな @dzurablk_kai

「一応近くに海自の船がいるみたいだが 命に別状が無いなら、このまま運ぶか?」 「・・・はい」 「よし 帰りは揺れるぞ、飛ばすからな」 次第に早くなるローター音に白浜の砂が舞う 巻き上げられ川内の頬についたそれは、ヘリの離陸を待つことなく、涙で洗い流されていった #やせんのよるに

2016-01-06 17:50:17
深海さかな @dzurablk_kai

・・・軽巡棲姫が目を覚ましたのは、真っ白な病室だった 「おはようございます」 聞き慣れた声に隣を見ると、患者服の神通がベッドの上で身を起こしていた その後ろには、神通とよく似たセーラー服姿の二人組 「チョウシハイイノカ」 「私の方が心配される番みたいですね」 #やせんのよるに

2016-01-06 17:55:38
深海さかな @dzurablk_kai

神通が笑うと病室に鈴を転がすような声が響いた 「あんたこそ、傷はどうなのよ?」 聞き覚えのある声は、話に聞いていた神通の姉、川内らしい 「ねー、本当に大丈夫? 噛みついたりしない?」 となると残る一人は、妹の那珂か #やせんのよるに

2016-01-06 17:58:08
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