不知火に落ち度はない2016 お正月SP その1『桜の道程』

そんなわけで、今回は神通教官の特別編。彼女が歩いて生きた道程を示す過去話です。 よろしければのんびりごらんください。 前 落ちぬい小話まとめ(番外編) 続きを読む
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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

避難生活というものは心がささくれていく。 こと、状況として親なし親類なしの三姉妹が生きていくには、辛いものだった。 三人でどこかの施設に入ることも視野に入れようと姉は語った。 別々に暮らすことになっても仕方ないと言えるほど、状況は逼迫していた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:04:57
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

戦線は日に日に後退しており状況も悪化していった。 日に三度の食事が、いつのまにか日に一度などということも、報道されないままに起こった。 そうして、いつしか桜も恨むようになった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:09:31
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

深海棲艦ではなく──無様な負けを喫した海自のことを。 その中でも唯一名前がわかる、兵頭一也という人物のことを。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:11:12
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、避難生活から2ヶ月経ったある日、チャンスが来た。 姉が財布をそのままにして働きに出ている間、中身を盗んで彼女は電車に飛び乗った。 向かう先はテレビのニュースで覚えていた。 彼らが収容されている病院であった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:14:44
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

桜という少女の中には怒りしかなかった。 住処を奪われた。 避難所生活では理不尽を強いられた。 未来が真っ暗に閉ざされた。 それは全て深海棲艦という存在があったからだが、怒りをぶつけられるのは兵頭一也という青年しか居なかった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:19:27
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

彼らの失敗により、私は全て台無しにされた。 気の済むまで怒鳴りつけ、謝らせてやらなければ気が済まない。 それは理不尽だった。 だが、彼女が受けた理不尽の解消には、それが一番近い手段だった。 彼女は一方的に、裏切られたと認識したのだから。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:25:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして携帯すら持っていない少女は、旅をした。 見知らぬ電車を乗り継ぎ、親戚の家まで旅行だと偽って道を聞き。 駅のホームで眠ったのも初めてのことだった。 とにかくたどり着くことを優先した結果、食事もろくに取らなかった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:28:29
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

避難所を出てから二日。 桜は目的の場所にたどり着き──。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:30:55
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、受付であっさりと追い返された。 家族でも現在は面会不能。 場所は教えられないが、今は集中治療室で目を覚ましてない、と。 もちろんそれで、納得して帰ることもできた。 だが、彼女には一つ、特技があった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:47:42
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

姉から習った剣術と、そしてそれから派生する身体能力。 気づかれないように人の後をついて行くことや、建物の中に潜むことは造作もないことだった。 そうやって病院内を進み、彼の居る病室へとたどり着く。 ICUと書かれたそこへと潜り込み、彼の名前を見つけ── #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:51:09
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

言葉を失った。 兵頭一也とベッドに名前の書かれた彼は、TVで映った姿をしてなかった。 全身に包帯が巻かれ、皮膚は焼けただれた様子を見せ。 その体には無数の管が繋がれ、呼吸も自力では不可能で。 死んでいないだけ、と言うのが正しい有様だった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:55:53
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

おそらく管を一本でも引き抜けば、彼は死ぬ。 その現実を前に、桜の中で言うべき罵倒の言葉はなくなった。 同時に深く失望した。 兵頭一也に。 この日本という国の、戦力に。 だから、桜は意識のない彼に、こう言った。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 16:59:57
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

貴方はもう戦わなくていい。 たぶん、すごくがんばったから。 ──でも、貴方は私を、島を、国を守れはしなかった。 さようなら、兵頭一也さん。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:04:31
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

失望の言葉と、どうか助かって、という言葉。 彼女はそれだけおいて病室を去った。 あの人みたいにはならない。 私が島を取り返す。 そう決意し──最後に一度だけ病院を振り返った。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:07:18

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その後、彼女は避難所から学校に通い出した。 新しい制服を袖に通しても、彼女の気持ちが浮き立つことはなかった。 早く大人になりたい。 大人になって、あの島を取り返す。 私の故郷でまた暮らす。 そう決意し、彼女は日々を過ごした。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:10:58
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

姉の梓は、学校に通う道を捨ててそのまま仕事を始めだし、妹の面倒見は桜へと委譲された。 妹がアイドルになりたいという姿は彼女の心の癒やしとなっていた。 世情はどんどん暗くなり、九州海域はほぼ深海棲艦群に埋め尽くされ、空路以外使えなくなったと聞く。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:15:47
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

不思議なことに深海棲艦は、空を飛ぶ対象を攻撃対象にしなかった。 さらに、侵攻についても気まぐれで、1月おきに来ることがあるかと思えば、1年過ぎても姿を見せないことがあった。 ただ、すでに日本の半分ほどの海域で、連中の住処が確認された。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:19:04
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

自衛隊も解体、再編され新たに日本軍として再建されていた。 軍採用年齢も引き下げられ、中学卒業後には軍学校に入れるようになった。 桜はそこを目指し、いつかは海を取り返すと決め──。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:21:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、クラスメイトから耳にした。 深海棲艦と対等に戦える新兵器の話を。 どうやらそれを扱うには一定基準をクリアする必要があるらしい。 また、人体改造を行うともあり、半ば都市伝説にすら感じるうさんくさい話だった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:30:24
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ただ、それは軍が開発してる新兵器らしい。 軍に入り、その一定基準とやらをパスすれば──故郷を取り返せる。 うさんくさい話であろうとも、彼女に取ってそれは希望だった。 その日からあらゆる情報を探しだし、苦手だったネットの世界にも足を伸ばした。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:32:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その間にも軍は様々な作戦を展開し、そして敗北を繰り返した。 新兵器の話が出て飛びつくも、既存の兵器の改良型か無為なものばかりで、友人から聞いた情報は皆無だった。 だが、その中である写真が彼女の目を止めた。 兵頭一也。瀕死だった彼が戦線に復帰してる姿。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:40:22
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

名前は出ていないし小さな写真だが、彼女にはわかった。 後方支援の船、そして前線の船。 彼は何度も敗北する作戦に挑んでいた。 あれだけの目に遭って。 それでも宣誓を守るように。 あの時失望した彼は、また戦地に帰っていったのだ。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 17:44:04
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