國分功一郎氏:考えること・書くこと・話すこと

事件の熱の中で事件を考える―ジジェク
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KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

何か大きな出来事があると、ネット、特にSNSはそれについての発言で溢れかえるので、そういう時には、「俺も何か一言言いたい」という気持ちに流されずむしろ黙っているべきというのが自分のこれまでのスタンスだったのだが、最近この件についてジジェクの興味深い発言を目にした。

2016-01-12 09:21:19
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

シャルリ・エブド事件についての文章(Trouble in paradiseに再録)なのだが、ジジェクはそこで、事件を考えるべき時というのは、多少の時間が経って事件に対する距離をとって熟考できる時ではなくて、事件にうちひしがれてショック状態にあるその時であると言っている。

2016-01-12 09:25:56
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

時間が経った冷めた雰囲気の中で考えても、よりバランスのとれた真理が出てくるわけじゃない。それでは真理の鋭い部分を逃してしまう、と(Zizek, Trouble..., p.216)。ジジェクの言っている通りだと思うんだが、ここで、ほんのちょっとしたことを指摘する必要があるかと。

2016-01-12 09:30:03
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ジジェクが言っているのは、事件について"考える"べき時のことであって、事件について"発言する"べき時のことじゃない。発言はしていても、考えていると呼ぶにふさわしい行為がそこに見いだせない場合は数多くあろう。もちろん、考えてもいるし発言もしている場合もあろうが。

2016-01-12 09:31:55
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ロラン・バルトが講演Leçonの中で、ファシズムというのは発言を妨げるんじゃなくて、発言するよう強いるんだと言っている。Le fascisime, ce n'est pas empêcher de dire, mais obliger à dire.

2016-01-12 09:35:06
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

「発言を強いる」というのは、要するに、考えさせない、考えないでいい状態に置く、ということですよね。人々が何も考えないで、二つか三つの紋切り型のうちから一つを選んでそれを口にする、と。

2016-01-12 09:36:55
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

バルトのこの一文を大学生の頃に読んだ時、本当にビビビと来ました。というか、「ああ、これ、俺のことだな」って思った。

2016-01-12 09:37:58
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ここから考えれば、ドゥルーズがなぜ立て板に水を流すように喋る知識人を嫌い、どもること(喋っている途中で止まってしまい、「え?あれ?」となること)の重要性を解いたことの理由もよく分かる。それは考えることが始まるきっかけかもしれないんですね。

2016-01-12 09:40:16
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ここでジジェクに戻ると、俺も、事件が起こった時、まさしく我々はそのショックの中で、熱の中で考えるべきだと思います。特に(ジジェクはそういう話はしていないけど)そのショックの手触りを記憶しておくために、事件のことを徹底的に考えるべきです。うちひしがれた状態の中で。

2016-01-12 09:42:09
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

しかし考えることと発言することは違う。何らかの重大事件の直後に「軽々しく発言するべきでない」のかどうかは俺は知らない。それは分からない。が、事件の直後にこそそれについて考えるべきであるということ、そして、考えることと発言することは違うということ、これだけははっきり言える。

2016-01-12 09:44:30
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

「何らかの重大事件の直後に軽々しく発言するべきでない」という格言は割と多くの人が採用している(と思うが…)。それを採用するかどうかは個人の自由。しかし、この格言を採用することによって、「事件の直後にこそ徹底的に考えねばならない」という命題が退けられることがあってはならない。

2016-01-12 09:46:52
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

その意味で、ジジェクの指摘は非常に教育的だと思った。この連ツイで補足したような諸点が明確化されていればもっと分かりやすくてよかったとは思うが。

2016-01-12 09:47:51
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

多分すぐに邦訳されると思いますが、ジジェクのTrouble in Paradiseはおもしろかったです。2013年に彼は韓国の大学で授業をしていたんですが、そのときのノートが元になってるらしい。タイトルはルビッチの映画から。あと巻末のバットマン論が最高におもしろかった。

2016-01-12 09:50:35
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ジジェクに付け加えることがあるとすれば、事件直後の熱とショックの中で考えることと同じぐらい、そうして考えたことを反復することも重要ということだろうか。ただ、意外と、一度考えたことを反復するのは難しいという事実がある。

2016-01-12 10:15:20
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ただ俺の感覚では、物を書いていると一度考えたことの反復はしょっちゅう起こる。そうすると前に考えていたことが反復されて、そこにどんどん差異が付け加わる。要するに少しずつ考えが進む。しかし、物を書かないでこれをやるのはなかなか難しいし、誰もが物を書く時間があるわけでもない。

2016-01-12 10:16:33
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

やはり誰かと話をするというのが手っ取り早いと思う。俺は同じ話を何度もするのは重要だと思っている(言い訳ではない笑)。相手がいつも同じでも違っていても、反復するだけで差異が付け加わる。自分で気付いたり、相手から指摘されたり、あるいは相手のちょっとした表情がこれまでとは違ったり。

2016-01-12 10:18:20
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

同じ話をすることを恐れてはいけない。

2016-01-12 10:19:02
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

それを証明しているのは、何と言ってもジジェクだ!

2016-01-12 10:19:40
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

さっきのバルトの一節ももうこの20年ぐらい周囲に何度も話しているんだよね。だからフランス語原文も暗記してる。でもあの一節と「事件直後にこそ考えるべき」って話をつなげて考えたことはなかったし。

2016-01-12 10:22:09
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ドゥルーズが『差異と反復』で詩はやっぱり暗記しないとダメって言ってるけど、そうだよなぁって思う。暗記するから反復があって、反復があるから差異が出てくるんだよなぁ。

2016-01-12 10:24:38