「石田三成の青春」第9話 「友よ!~佐和山から関ヶ原へ~」
「それはよい。背負ってでも連れて行くが……。天守へ行ってどうする」 「見たいのだ。琵琶湖に沈む夕日が」 「見たいというて、おぬし……」 「まだ辛うじて、光の色はわかるのだ。長浜にいた頃、よく二人で眺めた夕日、全く見えぬようになる前に、見ておきたい」 「わかった」 #友よ
2016-01-10 19:03:37二人は屋敷を出た。 駆け寄る、三成の近習を 「よい」 吉継の従者を 「お任せあれ」 と抑え、三成は吉継を背負って、佐和山城の天守へと登っていく。 三成の息が上がっている。 「大事ないか」 吉継が訊く。 #友よ
2016-01-10 19:04:34「なんの。おぬしこそ、大丈夫か」 「わしは楽ちんじゃ」 「こやつめ」 二人して、軽口を言いあいながら、天守をめざす。 山道を登るほどに、季節は進む。暦の上では既に秋。ときおり吹く涼やかな風が、疲れ切った二人の身体を癒した。 #友よ
2016-01-10 19:05:15(九) 天守へ着いた。 二人、西の廊下に出て、ドスンと腰を下ろした。 目の前に琵琶湖が広がる。 今、まさに、太陽が一日の仕事を終えて、比良の山に沈もうとしていた。 太陽が黄金に輝き、湖面が虹色に染まる。 #友よ
2016-01-10 19:06:15きれいだ。 三成の目から涙が溢れた。 なぜ涙が出るのか自分でも解らない。 「見えるか、紀之介」 隣にいる吉継に、大声で訊いた。 「ああ、見える。見えるぞ、佐吉」 吉継も大声で答えた。 吉継も泣いている。 #友よ
2016-01-10 19:06:57おそらく吉継には、琵琶湖や太陽など個々のものは見えてはいまい。しかし、この美しさは感じているに違いない。 それから二人は、太陽が沈みきってしまうまで、無言でその場に座っていた。 #友よ
2016-01-10 19:07:38「石田三成の青春」 これにて全編終了です。 長い間お付き合いくださり、どうも有難うございました。 #友よ
2016-01-10 19:11:09