ブラインド・ボトムズ #1

秋イベ回。
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-01-14 21:20:29
劉度 @arther456

「はぁ……はぁ……ッ!」荒天、緊張、暗闇。全くのゼロ視界。頼みの綱の探照灯も、深夜の豪雨に飲み込まれる。この暗闇の中で、いつ敵の弾が飛んで来るかわからない。息を吐いた次の瞬間、魚雷で吹き飛んでしまうかもしれない死線の只中に、彼女は陥っていた。 1

2016-01-14 21:21:33
劉度 @arther456

「萩風!嵐!聞こえますか!」僚艦の名前を呼ぶが、返事はない。「少佐!こちら神通!応答して下さい、少佐!」通信にはノイズが入るばかり。それでも彼女は必死に叫ぶ。見えない敵に居場所を晒す愚を冒していることに、彼女は気付かない。 2

2016-01-14 21:24:44
劉度 @arther456

不意に、探照灯の先を何かが横切った気がした。「ッ!?」思わず神通は、魚雷の引き金を引いてしまう。5本の航跡が夜闇に消える。彼女はすぐに気付く。今見たのは、少し大きくうねっただけの波だと。無駄弾を撃ってしまった彼女は落胆する。だが、彼女の魚雷は無駄弾にはならなかった。 3

2016-01-14 21:27:59
劉度 @arther456

突如、暗闇の中に赤々と輝く火柱が立ち昇る。閃光に神通の目が眩む。光に目を慣らした神通が、改めて火柱を見る。「そん……な……!?」爆炎の中、真っ二つに折れて沈んでいくのは、彼女の上官が乗るイージス艦。彼女が守るべきはずの船が沈んでいく。 4

2016-01-14 21:31:05
劉度 @arther456

優秀な神通は気付いてしまう。先ほど自分が放った雷撃は、丁度あの方角へ行ったことに。そして、少佐をよく知る神通は、彼が船を退避することがないと知っている。例え全ての部下と通信が途切れても。「そんな……少佐、少佐ッ!?」通信機に向かって叫ぶが、返事は帰ってこない。 5

2016-01-14 21:34:19
劉度 @arther456

艦が沈む。帰るべき場所が炎に飲まれていく。そして、敬愛する彼が死んでしまう。それを引き起こしたのは、全て自分の放った魚雷のせい。厳然たる事実は、言い訳すら与えない。「……ッ!」重すぎる現実に、神通はただ目を瞑ることしかできなかった。固く、固く、二度と開かないように。 6

2016-01-14 21:37:41
劉度 @arther456

【ブラインド・ボトムズ】

2016-01-14 21:38:33
劉度 @arther456

ソロモン諸島西部、コロネハイカラ島。小さな島々が迷路のような水道を形作るこの海域を、艦娘たちは慎重に進んでいた。座礁に注意しているのではない。彼女たちを待ち伏せている敵に対してだ。輸送部隊の隊長を任されている矢矧は、ジャングルの向こうの水路に目を凝らし、警戒する。 7

2016-01-14 21:40:58
劉度 @arther456

「待ち伏せされてるのに、輸送作戦を強行するなんてね」矢矧は出発前の提督のボヤきを思い出していた。ガダルカナル島の基地建設は急務。ここが完成すれば、前線を悩ませる敵の待ち伏せも解決できる。その為に待ち伏せの中を突破して物資を輸送するジレンマが立ちはだかっている。 8

2016-01-14 21:44:09
劉度 @arther456

本当なら、この輸送作戦に提督は関わっていなかった。だが、先日輸送を行ったトラック泊地の艦隊が撃沈され、急遽提督が上層部から指名されたのだ。提督を海上護衛のプロだと見込んでのことか。それとも、厄介な人間を死地に送り込もうとする思惑か。 9

2016-01-14 21:47:17
劉度 @arther456

「提督、他と仲良くするのはいいけど、海軍から嫌われてるのはどうなのかしら……」矢矧は思う。提督は陸軍やら外国の要人、果ては一部深海棲艦とも仲が良いが、肝心の日本海軍内での立場はあまり良くない。前線で戦わずに、親の七光りで出世したという印象が、事実以上に広がっている。 10

2016-01-14 21:50:28
劉度 @arther456

「いや、いや。しっかりしなさい矢矧。ここがメインヒロインの踏ん張りどころよ。この難しい作戦を成功させれば、提督にいい印象を……」「矢矧、敵が来たよ」「ホアッ!?」ヴェールヌイの声に、矢矧は変な悲鳴を上げた。見れば、水路の出口の辺りに、深海棲艦の水雷戦隊が待ち構えていた。 11

2016-01-14 21:53:32
劉度 @arther456

「き、来たわね!全艦反転!来た道を戻りなさい!」矢矧とヴェールヌイ以外の駆逐艦は、輸送のために武装していない。踵を返して逃げる。「こちら矢矧!敵艦隊と遭遇!F地点に移動するわ!」《OK!》殿となった矢矧とヴェールヌイは、敵を牽制しながら細い水道を駆ける。 12

2016-01-14 21:56:42
劉度 @arther456

二人の動きは早いが、後には足の遅い輸送部隊がいる。敵の水雷戦隊は徐々に距離を詰めていて、矢矧たちの周りにも水柱が立ち始めた。「F地点に突入!敵との距離、およそ9000m!」《十分よ。流れ弾には気をつけてね》いよいよ、敵の水雷戦隊が間近に近づいてきた。 13

2016-01-14 21:59:55
劉度 @arther456

敵軽巡が魚雷を構えた。狭い水道では避ける場所がない。だが、魚雷を放つ前に、軽巡の上半身が砲撃によって吹き飛んだ。驚く駆逐イ級たちの頭上にも砲弾が降り注ぐ。瞬く間に待ち伏せ部隊は壊滅してしまった。「今よ!」かろうじて生き残った艦に矢矧とヴェールヌイが掃討射撃をかける。 14

2016-01-14 22:03:10
劉度 @arther456

ほんの数分で、待ち伏せ部隊は跡形もなく沈没した。「こちら矢矧。敵の殲滅を確認。ありがとうね、陸奥さん」《これぐらいならどうってことはないわ》通信機から聞こえるのは陸奥の声だ。彼女はコロネハイカラ島のはるか南方、ニュージョージア島を挟んで向こう側の海にいる。 15

2016-01-14 22:06:17
劉度 @arther456

この水道に戦艦は入れない。曲がりくねっているせいで戦艦砲の長射程が活かせないどころが、着弾の余波で味方が損害を受けることすらある。そこで提督は、水道の外側から支援射撃を行わせることにした。陸奥の砲弾は島の上空を飛び越え、誘い込んだ敵艦隊に落ちる。 16

2016-01-14 22:09:35
劉度 @arther456

待ち伏せしている敵の火力を、強引に上回る。南方の待ち伏せはこれで打ち破った。「じゃあ、これからブラッケット海峡に入るわ。不知火たちは大丈夫?」そして北方、彼女らの指揮艦『蔵王』の露払いを務めるのは、もう一つの水雷戦隊だ。 17

2016-01-14 22:18:59
劉度 @arther456

《まだ提督は動いてないみたい》「そう。なら大丈夫ね。予定通り、ブラッケット海峡を抜けた後はクラ湾に出て、ガダルカナルを目指すわ」引き返してきた輸送部隊も戻ってきた。彼女らに手を振ってから矢矧とヴェールヌイは目的地を目指すのであった。 18

2016-01-14 22:19:12
劉度 @arther456

@char819 何も大丈夫じゃないです。ご指摘ありがとうございます。

2016-01-14 22:19:42
劉度 @arther456

ニュージョージア島北部。ガダルカナル島に続くこの海峡を、不知火たちは東へ進んでいた。「敵影、見当たりません。あと30分でバングヌ島へ到着します」《そっか、ようやくか……ご苦労様》「いえ、これも龍驤たちの航空支援のお陰です」そういう不知火の頬は、煤に汚れている。 20

2016-01-14 22:22:30
劉度 @arther456

構成は標準的な水雷戦隊。おまけに背中にドラム缶を背負っていれば、無防備な輸送部隊にしか見えない。だがここにいるのは夕張、北上、島風、時雨、電、そして不知火。戦艦すら屠る33地区の精鋭たちだ。迂闊に近づいてきた妨害部隊を逆襲するのが、彼女たちの役目である。 21

2016-01-14 22:26:11