ブラインド・ボトムズ #1

秋イベ回。
0
劉度 @arther456

この撒き餌作戦は非常に上手くいった。戦艦まで出てきた時は提督も肝を冷やしたが、龍驤と隼鷹の的確な航空支援で事なきを得た。矢矧の輸送本隊も、上手く敵を陸奥の支援砲撃に巻き込んでいる。作戦は極めて順調だ。時間がかかりすぎていることを除けば。 22

2016-01-14 22:29:23
劉度 @arther456

不知火は西の空を見た。日が落ち始めている。予定ではすでにガダルカナルに到着している時間だが、敵の数は予想以上に多かった。日没までに間に合うだろうか。「提督、急ぎましょう」《そうしよう。連戦の後に急かすのは、悪いけど》「この装備のまま夜戦を行うのは危険ですから」 23

2016-01-14 22:32:39
劉度 @arther456

不知火たちは今、電探やソナーを積むスペースにドラム缶を積んでいる。つまり、敵を確認するには目視しかない。この状態での夜戦は、余りにも危険だ。《全員、ペースを上げよう。矢矧たちにも伝えておく》「はーい、提督!私が一番だからね!」先頭を進む島風が加速し、隊から飛び出した。 24

2016-01-14 22:36:00
劉度 @arther456

直後、彼女の真後ろで爆発が起きた。「おうっ!?」爆風を受け、島風の細い体が宙に浮く。「島風ちゃんっ!?」叫ぶ電の前で島風は海面に無事着水する。「何!?今の何!?」「足を止めないで、島風!」孤立した島風に容赦なく砲撃が降り注ぐ。「9時方向!敵影!」時雨が叫んだ。 25

2016-01-14 22:39:11
劉度 @arther456

夕闇の暗いところから湧き出すように、敵の一群が姿を現していた。イ級よりも小さな深海棲艦と、それらを率いる人型の深海棲艦。どちらも見たことがない。新種だ。「総員、迎撃用意」《どうした、不知火!》「敵です」《このタイミングで!?》射程内に入った敵に向け、不知火は引き金を引く。 26

2016-01-14 22:42:22
劉度 @arther456

敵の小型艦は、駆逐艦の砲撃でも十分なダメージを与えられた。だが数が多い。接近してきた小鬼群が、不知火たちに向け雷撃を放つ!「くっ!」「はわわ!?」白い軌跡を残す雷撃を、不知火たちは必死に避け、あるいは砲で撃ち落とす。だが、数十本もの雷撃を避けきれるわけがない。 27

2016-01-14 22:45:34
劉度 @arther456

「痛ッ!」夕張の直ぐ側で、大きな水柱が上がった。「夕張、大丈夫!?」「ド、ドラム缶が……!」夕張の持っていた4つのドラム缶のうち1つが、爆発により破壊されてしまった。「提督。時雨と電を護衛につけて、夕張をそちらに向かわせます」《何する気!?》「残り3人で、殿を務めます」 28

2016-01-14 22:48:48
劉度 @arther456

武装のない夕張を連れたまま戦闘を続けるのは危険だ。それに、今のままではどの道、数で負けている。《なら『蔵王』ですぐにそっちに向かう!急ぐから、死なないでよ!》「ご命令とあらば」不知火は通信を切った。「北上さん。日が暮れる前に、ありったけの魚雷を撒いて下さい」 29

2016-01-14 22:59:09
劉度 @arther456

「んー?出し惜しみしなくていいの?」「まず数を減らす必要があります」魚雷艇は30隻以上。仮に全てが夜戦の最中に魚雷を撃ってくれば、ここにいる全員が海の藻屑となるだろう。「夕張さんは急ぎ撤退を」「気をつけてね、不知火!」ドラム缶を投棄し、夕張たちは退却を始めた。 30

2016-01-14 22:59:16
劉度 @arther456

離脱しようとする夕張を、数匹の小鬼が追う。それを電と時雨の砲撃が食い止める。更に大勢の小鬼たちが、追撃に加わろうとする。その様子を見ながら、北上は魚雷発射管を構えた。「うーん、あれはちょっとなってないわねー」小鬼たちはやたらめったら魚雷を撃ちまくっている。 31

2016-01-14 22:59:25
劉度 @arther456

重雷装巡洋艦の北上としては、眉をひそめる雷撃である。「手本を見せてあげましょうかね」魚雷は誘導弾ではない。だからこそ、盲撃ちではなく技術を使って当てなければいけない。発射角を広く取ると、北上は小鬼集団の進む先に魚雷を放った。扇状の航跡を残し、酸素魚雷が海中を進む。 32

2016-01-14 23:02:35
劉度 @arther456

完璧なタイミングだった。先頭の小鬼が魚雷に接触した瞬間、小鬼群は魚雷群のまっただ中にいた。魚雷の爆風を受け、群れが丸ごと吹き飛んだ。「雑魚の群れは片付け……いたたっ!?」ガッツポーズを取ろうとした北上に、砲弾が降り注ぐ。群れを指揮する、人型の深海棲艦からだ。 33

2016-01-14 23:05:47
劉度 @arther456

「口径を見るに、軽巡の深海棲艦のようですね。軽巡棲姫、といったところでしょうか」「退避していい?」「いえ。もう遅いです」不知火が告げた瞬間、西の水平線の残光が消えた。空が赤みがかった紫から、群青に変わっていく。夜だ。迂闊に敵に背を向ければ、闇に紛れた敵に討たれる。 34

2016-01-14 23:08:49
劉度 @arther456

「水雷艇の数は減りました。北上さん、島風、私の3人で360度を警戒しながら後退……ッ!?」作戦を伝えようとした不知火は、突如差し込んだ眩しい光に目を瞑った。腕を掲げて光の方を見れば、軽巡棲姫から強烈なスポットライトが浴びせられていた。探照灯だ。 35

2016-01-14 23:11:53
劉度 @arther456

不知火の目つきが、一段と険しくなった。確かに探照灯は、夜戦において敵艦隊を照らし、味方艦隊が射撃しやすい有利な状況を作る。だが同時に、自分も集中砲火を受ける。それを艦隊指揮を執る棲姫が使うということは。「……舐められたものね」舌打ちし、不知火はナイフを抜いた。 36

2016-01-14 23:14:56
劉度 @arther456

「北上さん、島風、5分保たせて下さい」「何するの?」「あの的を討ち果たしてきます」「あー、そっちの方が早いねー」北上は提督の到着まで時間を稼ぐつもりだったが、相手が位置を晒しているのなら話は別だ。「では、後はお任せします」不知火が白刃を片手に、夜闇へと消えた。 37

2016-01-14 23:18:09
劉度 @arther456

【ブラインド・ボトムズ】#1おわり#2に続く

2016-01-14 23:18:25