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古代ギリシア人と雪

「酒を飲むならあたたかいのがいいなんて奴は誰もいないだろうからね。それどころか正反対に、井戸の中できりっと冷やして雪を混ぜたやつを飲むんだ」 ――ストラッティス『プシュカスタイ』より(『ギリシア喜劇全集(9)』岩波書店 2012, 361頁) 古典文献をもとに、古代ギリシア世界における雪の利用方法について解説いたします。
歴史 古代ギリシア アテナイオス
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
雪に関する史料・図像を紹介するツイートをちらほらと見かけたので、ワタクシも一つやってみますね。
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それにしても今週末はまた雪が降るそうで、なんともイヤになっちゃうわけですが、古代ギリシア人も雪によってしんどい思いをしたようです。雪によって凍傷になった人、雪からの日光で目を傷めた人を描写している作品もあります。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
…かと思えば、雪を食べ物のために利用していたりなんかもしています。食べ物を美味しくするために、もしくは楽しむために、使えるものはなんでも使っていたようです。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
そんなわけで、「古代ギリシア人と雪」について、例によって連続ツイートをしていきます。全部で30ツイートくらいを予定しています。それではひとつよろしくおねがいします。 pic.twitter.com/YX75RPXfSX
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
(1)まず、「雪」は古代ギリシア語で「キオン(χιών)」と呼ばれていました。この言葉が古代世界でどういう使われ方をしたのかを調べるとなると、古代ギリシア語で書かれた文学作品をひとつひとつ読んで、雪に関わる文章をノートに取っていくのがよさそうです。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(2)古代ギリシア語の文学作品と一言で言っても、古くは紀元前8世紀ごろのホメロスの叙事詩から、その後成立した悲劇・喜劇・哲学書・歴史書、そして紀元後のローマの時代に生きたプルタルコスの伝記、さらにはキリスト教徒が書いた文章まで、その時代・扱っている対象は幅広いものです。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(3)今回のツイートでは、 ホメロス(前8世紀) ヘシオドス(前7世紀) ヘロドトス(前484頃~前420頃) プラトン(前429頃~前347) クセノフォン(前427頃~前354頃)
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(4) アリストテレス(前384~前322) テオフラストス(前370頃~前285頃) ディオドロス(前1世紀) アッリアノス(1世紀~2世紀) パウサニアス(2世紀) ロンゴス(2世紀~3世紀) などなど…といった人物の作品を扱います。
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(5)年表にするとこんな感じになるでしょうか。 pic.twitter.com/LECjkzuT2U
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
あ。なんか(5)の年表の年代がヘンだな。急いで作るもんではないな…。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(6)ではでは、時代順にホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』から始めましょう。彼は「雪よりも白い馬」という表現や、涙を雪解け水に譬えるなどして雪を詩の中に用いています(Hom. Il. 10.412; Hom. Od. 19.205)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(7)またホメロスは、アガメムノン王の不安な心を描写するにあたり、大神ゼウスが引き起こす荒天を引合いに出していますが、雪もまたゼウスが降らせるものだと理解していたようです。(Hom. Il. 10.1ff) pic.twitter.com/TGQwSN3dNK
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
(8)ヘシオドスは教訓詩『仕事と日』において「雪」という単語は使いませんでしたが、厳しい冬の乗り越え方を説明しています(Hes. Op. 493-563) pic.twitter.com/ppZKxmmsN6
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 これと関連して、ヘシオドスは航海の時期について「いいか、秋から先の季節は海が荒れるから航海するなよ、絶対するなよ」と冬の航海の危険性を述べ、冬季の船の手入れの仕方まで解説します(Hes. Op. 617-630)。また、前4世紀に書かれたデモステネスの『ディオニュソドロス弾劾』を読むと、ギリシア人は冬場には航海しなかったようにも思えます(Dem. 56.30)。ルージェという人はこうした古典史料をもとにして、古代における航海には季節の制約があったと考えました(ルージェ, J.『古代の船と航海』法政大学出版局 1982, 15~18頁)。
 では古代の人たちが絶対にそうしなかったのかというと、どうもそうとは言いきれないようです。例えば最近、ベレスフォードという人が、古代世界においても冬の間の航海が可能だったのではないかとする研究書を刊行しました(Beresford, J., The Ancient Sailing Season (Mnemosyne: Bibliotheca Classica Batava, Supplements 351), Leiden, 2013. )。

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(9)やや時代は下り、アナクシメネスやアナクサゴラスのように、雪がどうやって生成するのかを考えた哲学者もいたようです(DK13 A17; 59 A85; Diod.1.38.4.) pic.twitter.com/JYXksJcWc9
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(10)各地の雪に関する情報も蓄積されてきたようです。ヘロドトスはエチオピアの雪解け水や黒海北岸の降雪について、シゲイオンのダマステスも極北の記述をしています(Hdt. 2.22; 4.31; 4.50; FGrH 5 F1) pic.twitter.com/vqKUjgF0qc
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
(11)時代が前後しますが、ドラクロワの絵画で有名なキオス島については、ヘカタイオスなどがその名前の由来に「雪(キオン)」があるのではないかとしています(FGrH 1 F141; Paus. 7.4.8.)
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(12)他方で、雪とは何かをアレコレと分類して考えた人もいました。例えばプラトンは『ティマイオス』で水がどこでどうやって固まったかによって霰・氷・雪・霜を分類しました(Plato Tim. 59e) pic.twitter.com/GL7Xl2vyL8
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(13)プラトンの弟子、アリストテレスも『気象論』という著作の中で雨・雪・雹・霜を分類し、それらがどうやって生成するのかを整理しています(Arist.Mete. 1.11-12.) pic.twitter.com/3ubACSslfa
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(14)同じく、プラトンの弟子のテオフラストスは霜が植物に及ぼす害について述べています。関連して雪の観察もしたようです(Thphr.HP. 4.14.11-14) pic.twitter.com/SCODH94lV0
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(15)雪の厳しさはクセノフォンが伝えています。雪中行軍のせいで凍傷や雪目になった者、さらには凍死した者もいたようです(Xen.Anab. 4.5.4-16; 7.4.3; Diod. 14.28) pic.twitter.com/o5DiJNmR4g
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(16)アレクサンドロス大王の東方遠征においても寒い冬や雪が立ちはだかりました。マケドニア軍は真冬のザグロス山脈や中央アジアでの豪雪の中を進んだこともあったようです(Arr.Anab. 3.28; 4.18-9; Diod.17.68; Ael. VH 12.37)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(17)なお、ザグロス山脈におけるアレクサンドロスの進軍経路については、森谷公俊先生による実地踏査をふまえた新説もご参照ください(森谷公俊「イラン旅行記(1~3)」『帝京史学(27-9)』2011-3; 『図説 アレクサンドロス大王』河出書房新社 2013 71~93頁)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(18)ポリュビオスも、ハンニバルやマケドニアのフィリッポス5世が雪の中で苦労しながらも行軍する様子を記録しています(Plb. 3.54-5; 4.70) pic.twitter.com/Tqc9KPAffR
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コメント

今日が終わりの始まりの日 @__blind_side 2016年1月29日
オカルト的に捉える一方、二千数百年前から想像以上に雪を科学的に捉えようとしている人もいて面白いね。あと、本線からはずれた話になってしまいますが、⑤の年表を見るとわりと集まっている時期とガラガラの時期とに分かれている点が興味深いと。
かりんは共感性羞恥 @AnjuIrodori 2016年1月30日
古代ギリシャの雪は実用的だね!琉球は琉歌にあるくらいだよ
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