タマネギの形をした涙#1 変態とのコネクション◆2
_変態が土下座している。すぐさま追いかけたエンジェとミェルヒに捕まったのだ。一般人が冒険者の身体能力にかなうはずもない。 ミェルヒが木刀をもって睨みつけると、変態は加齢の呪文でも使ったのか急によぼよぼのおじいさんになり咳き込む。 11
2016-02-04 17:24:13「このようなジジイをいたぶるとは、人の心が……」 ミェルヒは目の前で、こぶし大の石を甲冑の小手で握りつぶして見せる。 「とりあえず、お前はどこの誰だ」 「へへぇ、魔法札写本業の者です」 変態はすらすらと自分の名前、身分を話す。身体は青年に戻っている。 12
2016-02-04 17:28:56_魔法札とは、紙に魔力をこめて書くことで、特定の効能を持った魔法商品を生み出すものである。身体にインプラントしたり鎧に組み込んだりしたシリンダーに魔法札を消費して魔法を封入すれば、魔法使いでなくとも魔法を使える。これを売る魔法店が街中に存在していた。 13
2016-02-04 17:32:31_魔法商品は消耗品であり、需要も高いため、様々な客に対して、それぞれのニーズを叶える多種多様な魔法商品が日々生み出されている。 魔法札は長期保存も可能で、紙幣と変わらない大きさのため、巨大な市場となって世界中に普及していた。 14
2016-02-04 17:37:04「魔法札写本師ってことは、何かいま魔法持っているの?」 「へへぇ、加齢の呪文のほかは、日用魔法を少々……」 「お湯の魔法はある?」 変態は鞄からしわだらけの魔法札を差し出す。お湯の魔法だ。 「これでご勘弁を……」 15
2016-02-04 17:42:12_エンジェはむっとした顔で正座する変態を見下ろす。 「言っておくけどね、自警団に差し出さないのは、慈善じゃないの。私も魔法をよく使うから、ちょっと便宜図ってもらおうってだけ。示談ってやつ。裁かれたときの罰金分は、しっかり魔法札で払ってもらうからね」 16
2016-02-04 17:48:02_こういう所は、エンジェは抜け目がない。魔法は消耗品のため、経費が意外とかさむのだ。お湯の魔法は安いので、叩けばまだ絞れそうだ……そこまで考えたとき、リビングの電信がカチカチと受信音を発した。パンチカードをするすると吐き出す。 「あっ、仕事だ」 17
2016-02-04 17:52:20「今日は帰っていいよ。また覗いたらどうなるか分かってるでしょうね」 「へへっ……ありがてぇ……失礼いたしやす……」 へりくだるあまり口調が変になっている変態を家の外に放り出し、エンジェは電信のパンチカードを見る。 「緊急……いいお金になりそう」 18
2016-02-04 17:56:52_エンジェはお湯の魔法を、身体に埋め込んだシリンダーに封入する。これなら水道が止まっていても、暖かいお湯を全身に浴びて楽しむことができる。 「ミェルヒ、私お湯浴びてくる!」 さっきまでの不機嫌はどこへやら、エンジェはぴょんぴょん跳ねながら風呂場へと向かっていった。 19
2016-02-04 18:02:40「水道が詰まっている……か。こりゃ大ごとだな」 ミェルヒはパンチカードを見ながら、錆びた鎧をギシギシ軋ませて準備を始めたのだった。 20
2016-02-04 18:08:29【用語解説】 【操齢の呪文】 加齢の呪文、若齢の呪文、還齢の呪文が有名。好き好んで歳を取りたいものは少ないので、加齢の呪文は高く流通数が少ない。若返りができる若齢の呪文は需要が高く品薄である。操作した年齢を本来の年齢に近づける還齢の呪文は、恋人に使ってがっかりする魔法ナンバーワン
2016-02-04 18:15:27