モーニング編集長・島田英二郎氏「物語が本来の力を取り戻すには、時代ごとにバージョンアップがいる」
アルク出版の「柴田元幸と9人の作家たち」。柴田氏による村上春樹さんインタビュー、まだまだ面白い話があります。「かえるくん、東京を救う」という作品を例に出して、柴田さんはこんなこといってます。
2011-01-26 18:25:10「物語が本来の力を取り戻すには、時代ごとにバージョンアップがいる」。男がアパートに帰るとかえるくんがいて「東京を救うためにみみずくんと戦うのを手伝って」みたいなことを言うわけですが、こういうそれまでの文学ではなかったしつらえをつくることを言ってるようです。
2011-01-26 18:25:19バージョンアップにも大小あって、細かいバージョンアップできる人だって天才だけど、村上春樹みたいな大バージョンアップできる人は、数十年に一人出るかでないかで、出てこなければそのジャンルは終わっていってしまうのかもしれない。
2011-01-26 18:25:30村上春樹がそうだったように、バージョンアップの兆候は、その人の処女作の段階で現れてることが多いんだろうけど、当然そういう作品にはなかなか出会えません。むしろ多くの作品が今までのバージョンに過度にとらわれてる印象が強いです。
2011-01-26 18:25:39ちょっと不思議な生き物(半魚人とか河童とか)が出てきて、それが実は誰かの生まれ変わりだったり、気がつくと砂漠の廃墟にいて、そこで不思議な少女と出会ったりとか。そういうなぜか”新人賞特有のしつらえ”ってのがあります。
2011-01-26 18:25:48一昔前までよくあったのが「シルクハットもの」ってジャンル?で、まず冒頭にシルクハットかぶった紳士が出てきて「みなさんを不思議な世界にご招待しましょう」っていってちょっとフシギな短編が始まるってやつ。これはなぜか最近はすっかり見なくなりました。
2011-01-26 18:26:01そういうしつらえにのっかった作品はダメだというわけではありません。実際、賞をとる作品の半分はいってみれば「最近よくあるパターン」の話ではあります。でも、多くの作品が若干そこにしばられすぎな感じはします。
2011-01-26 18:26:10もちろんあたらしいものって意識的にはできなくて、村上春樹も「かえるくんみたいな設定は自然に出てくるだけでなにも考えてない」と言ってます。
2011-01-26 18:26:19「マンガでいえばコマ割りを先に作って書くというよりも、とにかく流れのままに自由にコマを使って書いていって…」って書き方なんだそうです。要するにネーム切らないで書くってことですね(そのあとで10回以上全体を推敲するそうだけど)。
2011-01-26 18:26:26前に「こんなの漫画じゃない」って言われる漫画がいいって言いましたが、それはつまり漫画全体に決定的なバージョンアップをもたらす才能と出会いたいってことです。そういう作品を送っても、編集部が評価できないんじゃしょうがないけど、本物ならちゃんと評価されると思う。
2011-01-26 18:26:38「風の歌を聴け」だって酷評もあったが、ちゃんと評価する人がいたから「群像」で受賞したわけです。つまり「天才が理解されない」ってことは実はあんまない、と私は思います。少なくとも複数の編集部に応募して全滅だったら、やっぱ自分が描いてるものを疑うべきでは。
2011-01-26 18:26:50ちゃんと才能があれば受賞からデビューくらいまではまずいくはずです。問題はその後。編集者は理解してくれても、不特定多数の読者の支持を獲得するまでがほんとに大変。作家にとっても編集者にとっても出版社にとってもそっから先こそが試練。
2011-01-26 18:27:03それでも売れなきゃこっちが間違ってるのかなあ、とも思うし、確かにそう思うべき局面もあるし、そこでそう思っちゃいけない局面もあるしで実にむつかしい。でもなにはともあれ新人賞に応募して、それを商売にしている複数の編集者の目にさらすってことには意味があるはず。
2011-01-26 18:27:29