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黄昏のブッシャリオン▲プロローグ~第一章▲

リブート版ブッシャリオンのプロローグ~第一章(実況なし版)です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳ジェネレータは、生身の人間から徳エネルギーを抽出することも想定した設計だ。故にその動作そのものに危険は無い。 「……不味い」 問題なのは、今の徳ジェネレータが高僧二人の徳エネルギー抽出を一挙に行っているという事実。そして、それが『人々の役に立つ』、徳として還元されるという事実。

2016-01-10 21:28:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「このままでは……徳エネルギー密度が飽和し……」 老人は、徳ジェネレータから脱出しようと藻掻く。だが慌てたことが災いし、転倒してしまう。 「あの時と……同じだ。『あの時』と」 尚もあがく老人。徳エネルギー流量が臨界を超える。 「まだ……成仏するには、早すぎるというのに!」 そして

2016-01-10 21:32:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

老人とソクシンブツの周囲に輝く蓮の花が咲き乱れ、光の柱がジェネレータを突き破り、天へと伸びる。徳エネルギーの奔流が引き起こす、徳ジェネレータのオーバーロード。『強制成仏現象』。一定以上の徳を積んだ人間は、徳エネルギーと共にこの世の法則から解き放たれ、仏となる。

2016-01-10 21:36:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……あの、光は」 ガンジーは路地裏で嘔吐しながら、光を見上げた。街外れから立ち上る虹色の光の柱。忘れもしない、両親を奪った光。徳カリプスの輝き。嘔吐した端から、更に吐き気が込み上げた。 「超高密度の、徳の光だ」 誰かが仏になろうとしている。誰が?それはあの老人の他に有り得まい。

2016-01-10 21:40:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

二人は駆け出した。光の柱の下へ。 --だが、その夜。チベットの高僧にして、徳エネルギー研究の権威、人類の至宝ラマ・ミラルパ20世は輪廻より解き放たれ、仏となった。

2016-01-10 21:44:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第六話へ続く

2016-01-10 21:48:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳エネルギー(Lv 1)(1/2) 徳(物理)の流れを形而下のエネルギーとして取り出したもの。電磁波または微小粒子に近い振る舞いをし、扱うことが困難。そのため、得られた徳エネルギーでマニタービンを回転させ、他のエネルギーへと変換することで消費される。

2016-01-10 21:52:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳エネルギー(Lv 1)(2/2) 人類が存在し続ける限り半永久的に生産され続けるエネルギー源は、もはや永久機関に近い。徳エネルギーは登場後数百年で、他のエネルギー源の殆どを駆逐した。ちなみに、高僧一人から得られる発電量は商用原子炉一基に相当する。

2016-01-10 21:56:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第六話「得度の行方」

2016-01-11 21:00:13
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

……翌日。街では、しめやかに祭儀が行われていた。人々の顔は暗い。それは祭りであり、葬儀でもある。嘗ての高僧と、ソクシンブツ。二人分の葬儀だ。本来ならば、街が生き延びられることを祝う祭りの筈だった。だが、昨夜の出来事によってその意味は大きく変じてしまった。

2016-01-11 21:04:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

本来、仏教的価値観に基づくなら解脱、悟りの境地はその到達点である。或いは、寿がれるべき事柄であるのかもしれない。しかし、人々の顔は暗い。強制成仏現象は、実に高僧二人分の徳力場を一瞬にして解放せしめ……徳ジェネレータを破壊した。現世に残されたのは、徳の大半が失われた亡骸のみ。

2016-01-11 21:08:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳エネルギーについて無知な採掘屋の街の人々でも、何が起こったのか察することはできた。彼等の大半は、徳カリプスをその眼で目撃した者達である。彼等は、徳エネルギー技術者、ソクシンブツというエネルギー源、そして徳ジェネレータという生命線。その全てを一夜にして失ったのだ。

2016-01-11 21:12:19
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……これから、どうなるんだろうな」 「言うな」 ガンジーとクーカイは密かに溜息を吐く。 「俺達が、ソクシンブツを見つけさえしなければ……」 「街はどのみち、干上がっていたさ」 彼等も、理解してはいるのだ。自分達は、間違ったことはしなかった。それでも割り切れるものではない

2016-01-11 21:16:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

まして、昨晩の惨状を最初に発見したのがこの二人であるならば。それともこれは、徳を積むことを諦めたガンジー達……そして、徳無き街の人々への罰なのだろうか? 「少しでも早く、次の獲物を探すしかない。水素の備蓄が尽きる前に、だ」 少なくとも街の人々は、まだ生きることを諦めてはいない。

2016-01-11 21:20:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ある者はガンジー達同様徳の遺物を探し、ある者は原始的な水力発電設備を復旧させ……またある者は、写経と念仏、マニ車などによって僅かでも徳を積もうと試みている。 「昨晩、お前が言っていた通りだ。あれだけのものを見つけられた。だから今度も出来る、だろ?」 「……そうか、そうだよな」

2016-01-11 21:24:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「どうせなら、理想の徳エネルギー源とやらを探す心積りで行こう」 「ああ!」 やる気を取り戻したガンジーは、クーカイと拳を合わせる。彼等は地図データ解析に取り掛かった。 だが、問題は徳遺物だけではない。代わりの徳ジェネレータ、そして徳エネルギー技術者も探さねばならないのだ。

2016-01-11 21:28:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

今までになく厳しい旅となろう。 「……こりゃどうしても、得度兵器の活動領域を越える必要があるな」 「無理は承知の上だろう」 数十分の間地図を眺め、二人が得た結論はそれであった。徳カリプス以前の地図は当てにならない。人口密集地ほど徳カリプスの爪痕が深いからだ。

2016-01-11 21:32:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

十年がかりの探索の結果、既知範囲に集落は存在しないことが判明している。既知範囲とは言っても、街から半径数十キロがやっとだ。 その探索を阻む者こそが、得度兵器。無人の荒野に蠢く狂った機械。彼等は人を襲い、その徳を貪ると言われている。

2016-01-11 21:36:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳の低さのためか、この街が標的となったことこそ無いが……採掘屋の中には『犠牲者』が幾人も出ている。地上の得度兵器は、今やオーバー徳テクノロジーを占有する人類の天敵だ。遭遇した場合は全速力で逃げる他無い。 「迂回コースを取るか……」 「駄目だ、先に街の備蓄が尽きる可能性がある」

2016-01-11 21:40:10
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

しかし、選択の余地は無い。 「……まぁ、こっちが徳を持ってなきゃわざわざ襲ってこないだろ」 ガンジーは精一杯の強がりを口にする。 「それも一理あるかもしれんが……一部には、人間を浚って徳を生産させる集団もあると聞く」 「無理矢理坊主にされるのか……それは嫌だな、でも噂だろ」

2016-01-11 21:44:10
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

得度兵器について、判明していることは僅かだ。生きて帰った目撃者がそもそも少ないからだ。得度兵器という名称すら、誰かがそう呼び始めたに過ぎない。何故、『それ』がそう呼ばれるのか。理由を知る者は、既にこの街には居ない。 それでも、彼等の遠征準備は着々と進められていく。

2016-01-11 21:48:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

”神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」” 旧約聖書 創世記第一章二十六節より

2016-01-11 21:56:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

『それ(It)』は思考を続けていた。自らの目的について。 与えられた命令内容はただ一つ。『人類の生活質の向上』。そんな曖昧な指示を噛み砕き、実行するだけの『知性』が『それ(It)』には備わっていた。生活質とは、即ち幸福であるか否かである、と『それ(It)』は解釈した。

2016-01-11 22:00:16
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

……故に、『それ(It)』は考え続けていた。何が人類にとってであるのかを。 徳という基準によって人類の価値観は統一されていた。故に、徳豊かな人生こそが幸福である、と『それ(It)』は結論した。だからこそ、人類が徳を蓄えられるよう、『それ(It)』は機能した。

2016-01-11 22:04:08
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