黄昏のブッシャリオン▲プロローグ~第一章▲

リブート版ブッシャリオンのプロローグ~第一章(実況なし版)です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

------ 「よう、お二人さん。お手柄だったじゃないか」 入店したガンジーとクーカイに、初老の男がカウンターの内側から声をかける。店のマスターである。 「なんだ、マスター。奢ってくれるのか?」 「奢りはせんが……取っておきがある」 マスターは一本の酒瓶をカウンターの上へ取出す。

2016-01-09 21:24:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……マスター、この酒は」 「徳カリプスから14年。その酒も、こいつが最後だ」 「い、いいのか……?」 「気持ちだ、受け取りな」 街が、彼等を生かしている。食料面の不自由は今のところ無い。だが、それでも足りない物は出てくる。

2016-01-09 21:28:16
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「まぁ、あんたらみたいな採掘屋が別のコミュニティまで行ってくれるなら、また飲めるかもしれんがね」 事実今回も、エネルギー不足で街は干からびかけたのだ。他の人里と交流できれば、それに越したことは無いのだが…… 「今の装備では、リスクが高すぎる。得度兵器の密集地帯を抜けねばならん」

2016-01-09 21:32:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

クーカイはいつにもまして険しい表情で応える。『得度兵器』。徳カリプスと時期を同じくして、人の手より離れ野生化した機械生命体。彼らは人を襲って徳を食い荒らし、糧とする存在だ。今やそれが、無人となった荒野に犇めいている。 「でもよクーカイ。どうせ何時かは、あそこを超えなきゃならねぇ」

2016-01-09 21:36:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「それはそうだが……」 「……いや、変な話を振って悪かった。だが、あんたらなら出来そうな気がしたんだ。その年で街一番の採掘屋の、あんたらなら」 クーカイが反論しようとしたところで、マスターは口を挟んだ。 「んじゃ、酒は何時か取ってくるから、今日のぶんはマスターの奢りってことで」

2016-01-09 21:40:10
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……その酒の分は、出世払いにしてやるよ」 「聞いたかクーカイ、今日は飲むぞ」 「いや……俺は、酒はちょっと」 若人達は勝利の美酒を浴び、夜は静かに更けて行く。

2016-01-09 21:44:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第四話へ続く

2016-01-09 21:45:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第四話「仏舎利・2」

2016-01-09 21:53:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「風力、太陽光、バイオマス、地熱、化石燃料、原子力。果ては縮退炉や次元階差機関に至るまで……人類は様々なエネルギー源を利用してきた。それでも尚、社会が徳エネルギーを用いるようになった理由。それは『再生率が極めて高い』という点にある」  徳ジェネレータの前で、ミラルパは呟く。

2016-01-09 21:57:14
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「例えばある者が徳を積み、それがエネルギーとなる」 老人は、ソクシンブツを見つめる。ミイラは何も応えない。 「だが彼は、徳エネルギーを人々を助けるために使うことで……更に徳を高めることができるのだ。徳エネルギーが徳を生み、徳が徳エネルギーを生み出す。故に再生可能。そして……」

2016-01-09 22:01:20
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

老人は言葉を切る。 「もしも仮に、徳と徳エネルギーの変換効率を100%に近付けることができれば。それは、『徳エネルギーによって人々が救われる限り、徳が積まれ、徳エネルギーが供給される』ことを意味する」 人類社会そのものを炉心とした連鎖反応(チェイン・リアクション)。徳の無限連鎖。

2016-01-09 22:05:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

それは遠い人類の夢。第二種永久機関に限りなく近い。 「だが……そんなものの存在を、この宇宙の法則は本当に許すのだろうか?」 ソクシンブツはやはり、何も答えはしない。 「いや、許しはしなかった」 その結果が、あの惨劇だ。人類全体の徳が『高まり過ぎた』が故の、徳カリプスだというのに。

2016-01-09 22:09:10
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

----- 「ヒクッ……やっぱり俺は、思ったね。ヒクッ、今回のソクシンブツは、天啓に違いないって」 「……また、その話か」 クーカイは酔ったガンジーの肩を支えながら歩く。帰りの道中でも、ガンジーは同じ話を何度もしていた。 「あれほどのブツが見つけられたんだってぇ……いけるっての」

2016-01-09 22:13:11
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「しかし、有るかどうかも怪しい代物だろう……無限の徳エネルギーなんてな」 内なる徳に見切りを付けた彼等は、徳エネルギーをそのまま扱うことはできない。徳ジェネレータで徳からエネルギーを取り出し、マニタービンを回して発電、或いは更に電気から水素を作り、それを利用する他ない。

2016-01-09 22:17:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

だからこそ高レベルの徳を保持するソクシンブツなどの徳遺物は貴重であり、『無限の徳エネルギー』は夢なのだ。 「よく知ってんなぁ……」 「お前が言ったんだろう。正体無くすまで飲むな」 「ヒック……でもよぉ、あの爺さん……ありえるって言ってたぜ」

2016-01-09 22:21:14
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「『有り得る』と『見つかる』は別問題だろう。道端で吐く前に帰るぞ」 「ヒクッ……」 クーカイはガンジーを抱え直し、家路を急ぐ。徳エネルギーの歴史を解しない彼らには知り得ぬことだが……確かにそれは、『有り得る』ことなのだ。徳連鎖反応によらず、単体で無限の徳を生む伝説の徳遺物。

2016-01-09 22:25:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

人はそれを、『仏舎利』と呼ぶ。

2016-01-09 22:29:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第五話へ続く

2016-01-09 22:33:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第五話「強制成仏」

2016-01-10 21:00:19
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……良し」 深夜、ラマ・ミラルパ20世は人知れず徳ジェネレータの復旧に取り組んでいた。自身が徳エネルギーに精通する人間であることを隠すため、彼は人目につかぬこの時間帯に作業を行っているのである。

2016-01-10 21:04:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「『マニタービン』は問題なし、か」 自身の産んだ、徳カリプスの一因たる忌まわしき技術。一方で今それは、皮肉にも徳を持たぬ人々の命を繋いでいる。 「……いや」 技術そのものに、善悪は無い。と老ミラルパは思い直す。観音菩薩めいて幾つもの顔を持つのが、技術というものの本質なのだろう。

2016-01-10 21:08:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「後は徳ジェネレータ本体を稼働させれば……」  老人は傍らに安置されたソクシンブツを見やる。骨と皮ばかりになったその顔に、表情は無い。だが……このソクシンブツもまた、信ずる宗派は違えど衆生救済を願いながら入定していったことは間違いない筈だ。

2016-01-10 21:12:11
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……有り難く、使わせて貰う」 そう呟き、ラマ・ミラルパ20世は徳ジェネレータの中へソクシンブツの搬入を開始する。徳ジェネレータの内部には、曼荼羅めいたシンプルな空間が広がっている。それは形而上と形而下とを繋ぐ場……即ち禅の思想に通づるところがあるためだ。

2016-01-10 21:16:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「試運転を……」 内部点検を終了した高僧が、試運転プログラムを実行するためジェネレータの内部から出ようとした、その時。 「……馬鹿な!」 徳ジェネレータの曼荼羅模様が突如光り始めたではないか。 「起動しているだと」 徳ジェネレータが、起動している。

2016-01-10 21:20:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

それは高齢の徹夜作業によるミスか、或いは機械の故障によるものか定かではない。だが、事実としてジェネレータは起動していた。ソクシンブツがコロナめいた発光を纏う。 「ぐっ……」 そして、老人……ラマ・ミラルパ20世もまた。

2016-01-10 21:24:03
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