黄昏のブッシャリオン▲プロローグ~第一章▲

リブート版ブッシャリオンのプロローグ~第一章(実況なし版)です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二話へ続く

2016-01-07 21:30:32
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips 『徳ネーム』(1/2) 徳エネルギー社会黎明期以来、我が子に少しでも徳を積ませようという考えから、「ブッダ」「イエス」「シッダルタ」「ムハンマド」等の聖人・偉人由来の名前を付けることが横行した。

2016-01-07 21:33:34
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips 『徳ネーム』(2/2) ある国では新生児の約50%がブッダと命名されたため、法律で使用が禁止されるまでに至ったという。「徳ネーム」と呼ばれるこの命名傾向は、形を多少変えつつも徳カリプス前夜まで続いていた。

2016-01-07 21:34:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第二話「徳無き街」

2016-01-08 21:00:21
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「徳とは何か。それを徳エネルギーと切り離して語ることは最早できない。仏教のみならず、功徳に近い概念……『善行に報いる』という信仰は既に人類に普遍的なものだ」 埃っぽい本だらけの部屋。大きな机の上には、既に動かぬ情報端末。その前には、皺だらけの頭の禿げ上がった老人が座っている。

2016-01-08 21:04:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「即ち、元来人類が形而上作用として持っていた法則を強化し、物理現象として作用するようにしたもの……それが徳エネルギーの正体だ」 ぶつぶつと呟きながら、禿げ頭の老人は机の端で書き物をしている。横脇には紙資料の束。記されているのは難解な数式と曼荼羅めいた図、『覚醒者』のタイトル。

2016-01-08 21:08:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「間違っては、いなかった筈だ。だが儂は後悔しいている。徳エネルギーを通常動力へ変換する『マニタービン』。あれさえ発明しなければ、少なくとも徳カリプスの発生は……っ!」 「おじいちゃん、体に毒ですよ」 興奮し立ち上がろうとした老人に、孫娘が駆け寄って諌める。

2016-01-08 21:12:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……いつもすまんのぅ」 互いの気遣い。実に美しく、徳の高い光景だ。だが既に齡80を数えるこの老人こそ、徳エネルギーの権威にしてチベット仏教の高僧、ラマ・ミラルパ20世である。 「それは言わない約束でしょ」 そう言って孫娘は微笑む。この高僧は彼女のただ一人の縁者であった。

2016-01-08 21:16:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「爺さん、爺さん!まだボケてるか!」 「邪魔するぞ」 そこへ慌ただしくドアが開き、入ってくる男が二人。クーカイとガンジーである。 「ソクシンブツを見つけてきた。これで三ヶ月は持つぞ!」 「……そうか。良かった」 老人の皺だらけの目元が微かに綻ぶ。

2016-01-08 21:20:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「徳ジェネレータを動かしてくれ。爺さんじゃないとダメなんだ」 捲し立てるガンジーと老人の間に、娘が割り込む。 「ガンジーさん、お爺ちゃんは疲れてるのよ」 「……いや、ジェネレータの所へ搬入しておいてくれ。今晩にでも見てみよう」 だが、老人はそれを更に制した。

2016-01-08 21:24:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「よろしく頼むぞ」 老人はこうして、身分も名前も隠してこの街に身を寄せ、徳ジェネレータのメンテナンスをして暮らしている。 「しかし、爺さんくらい徳があれば、自給自足だってできるだろうに。有り難いのは確かだが、なんで採掘屋の街なんぞにいるんだか……まぁ、有り難いのは確かだけどよ」

2016-01-08 21:28:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「年寄りには、色々とあるんじゃよ。それに、自分のためにしか使わぬ徳は、錆び付く」 「ガンジー」 「……そうかい。じゃあ、ぽっくり成仏しないようせいぜい気を付けてな」 老人は、嘘を言った訳ではない。何故彼が、小さな街で埃を被っているのか。それには、様々な理由がある。

2016-01-08 21:32:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

-------- 二人の若者が立ち去り、『孫娘』も自分の部屋に戻った後。 「……徳カリプス。ポテンシャルとして蓄積された徳雪崩による、連鎖的集団解脱現象」 老人は再び机に向かい、誰に聞かせるともなく呟く。彼の隠遁は、決して徳カリプスを引き起こした負い目のみによるものではなかった。

2016-01-08 21:36:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「衆生は、行き詰まりつつあるのやもしれぬ。だが……それでも。取り残された1人として、あやつを許すわけには、いかぬ」 老人……ミラルパ20世は、何事かを書き留め、机の中に仕舞う。彼の同胞の多くは徳カリプスにより成仏し、この世界から消え去った。

2016-01-08 21:40:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

彼に残された時間は少ない。だが、成仏するには未だ、早すぎる。

2016-01-08 21:44:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三話へ続く

2016-01-08 21:48:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳(物理)(Lv 1)(1/3) 徳エネルギーの源となるもの。嘗ては「エーテル」「マナ」「ジン」「妖精」と呼称されたこともあるが、徳物理学の黎明から百年以上経過した現在では「徳」で統一されている。名称はその性質と、研究拠点がアジア圏に存在したことに由来。

2016-01-08 21:52:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳(物理)(Lv 1)(2/3) 物理的な存在としての徳は単体では観測不能の位相であり、徳の位相差から発生する徳の流れを徳エネルギーとして形而下へ取り出すことで初めて観測することができる。

2016-01-08 21:56:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips  徳(物理)(Lv 1)(3/3) 徳位相の宇宙的偏在がダークエネルギーの正体と目されている他、現在のところ徳を積めるのは生命体に限ると考えられている。未だ謎は多いが、少なくとも「徳」という概念そのものは人類社会の隅々まで行き渡っていた。あの日までは。

2016-01-08 22:00:20
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三話「仏舎利」

2016-01-09 21:00:19
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

舗装の剥がれたメインストリートにはバラックが立ち並び、所々建物の前には得体のしれない機械パーツや経文、仏像などが広げられている。埃っぽい、雑然とした街。旧タティカワ実験都市。徳カリプス以前は最先端の技術実証に用いられる模擬都市であったそこは、今や採掘屋が集う難民キャンプと化した。

2016-01-09 21:04:09
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……あの爺さんも謎が多いな」 「あまり詮索するな。あの爺さんが居るから、徳ジェネレータが動かせるんだ」 老人と別れたガンジーとクーカイは、ささやかな祝杯を上げんとメインストリートをうろついていた。ソクシンブツ発見報酬が手に入る前の、前祝いだ。

2016-01-09 21:08:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

実験都市の環境は、お世辞にも住みやすいとは言えない。形こそ街を模しているものの、人が住むことを想定していないからだ。言わば、魂の入らない仏像のようなもの。……だがそこには、使われていない徳ジェネレータがあった。そして街は、ほぼ無人であったが故に徳カリプスの災禍を免れた。

2016-01-09 21:12:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

十年で、形だけの都市は本物の街になった。徳エネルギーを奪い、貪る者達の街に。徳カリプスの生き残りの殆どは、徳の低い者、徳を信じられぬ者達だった。それを、あの老人が徳ジェネレータを盾に諌め、纏め上げた。徳カリプスで両親を失ったガンジーがこの街に流れ着いたのも、その頃だ。

2016-01-09 21:16:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……そうだな。昔の話をすると、辛気臭くなっていけねぇ」 「考えてたのか?昔のこと」 「考えてねぇ」 ガンジーは考えていた。己の両親を奪った徳エネルギーのことを。それに背を向けて尚、逃げ切れていない自分のことを。 「店、いつものとこでいいな」 「ああ」

2016-01-09 21:20:09
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