黄昏のブッシャリオン▲第三章▲

オリジナル徳パンク小説「黄昏のブッシャリオン」第三章です。
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黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

オリジナル徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』◆仏舎利唵◆ ◆第三章◆

2016-01-27 20:56:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三章・第二十一話「解体と戦果と」

2016-01-27 21:00:15
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

人類は善行により生まれる功徳をエネルギーに換え、史上最も豊かで幸福な文明を作り出した。 だがその文明は徳を積み過ぎた人類の連鎖的解脱と、一瞬にして解放されたエネルギーが齎す文明破壊の惨禍……徳カリプスによって一夜にして崩れ去った。 徳無き荒野の中、それでも人類は生き続けている。

2016-01-27 21:04:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「これ、何だろな?」 ガンジーは、小さな部品を弄ぶ。 「ガンジー、それ位にしておけ。珍しいのはわかるが、遊んでたら終わらんぞ」 「いや、すまねぇクーカイ……しっかし、壮観だな、こりゃあ」 二人の男と、一人の少女。その眼前にあるのは……半ば解体された、巨大人型機械の上半身である。

2016-01-27 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

得度兵器。徳カリプスによって全人類を出家・解脱させる使命に目覚めた機械知性体。 人類最大の脅威であると共にアフター徳カリプス時代の支配者であるそれは今、二人の手により無惨な姿を野に晒していた。 「……意外となんとかなるんもんだな」 クーカイは呟く。

2016-01-27 21:12:08
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

機能停止から既に数時。時刻は夜明け前。 「そろそろ、里の奴らが起きちまう頃だな」 「かといって、ここへは来れまい」 外装を発破の残りで吹き飛ばし、二人は得度兵器の解体を進めていた。内部構造を剥き出しにするところまでは力技で何とかなったが、ここからはそうも行かない。

2016-01-27 21:16:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「ガンジー、光っている部分は、恐らく徳エネルギーのバイパスだ。気を付けろ」 得度兵器はロストテクノロジーの産物である。仕留めた話はおろか、遭遇情報すら希少。内部構造に関する情報はゼロに近い。加えて、二人に専門知識は無い。 「ばいぱすって……触るとどうなんだ?」 「わからん」

2016-01-27 21:20:05
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

少女は、その様子を目を輝かせながら見つめている。 「なぁ、あいつなら何か知ってんじゃねぇか?この街の人間だろ」 「ガラシャというそうだ。流石に何も知らんとは思うが」 「そうかよ。しっかし、何で身体張ってまであんな娘……」 そこで、ガンジーは何かに気付いたかのように言葉を切る。

2016-01-27 21:24:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「まさか……お前……あのくらいの子が好みなのか!?」 「違う。いや、何故そうなる」 「わかる。お前、女の話とか全然しねぇもんな」 茶化しあってこそいるが、二人は正直少女を扱いあぐねていた。 「あの……」 そこへ、少女が恐る恐る口を開く。

2016-01-27 21:28:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「ああ、安心してくれ。さっきの話は、事実無根だ。このバカの妄想だ」 「いてっ!」 クーカイはガンジーの頭を一発叩き、少女の方へ向く。 「たすけてくれて、ありがとうございます」 その言葉に、どことなくバツの悪い顔をするガンジー。一度見捨てる選択をした少女を前に厚顔では居られない。

2016-01-27 21:32:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「うんまぁ……どっちかというと、助けたのはクーカイだしな」 「当然のことをしたまでだ」 当然。それがどれ程得難いものであるのか。少女はそれを、よく知っていた。 「それで、その」 「ん?」 「すまんな。コイツの解体を終わらせないとならん、家まで送るのはその後に……」

2016-01-27 21:36:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

クーカイの言葉に少女は首を振る。 「……わたしを、つれてって」 少女は手をぎゅっと握り、言葉を継ぐ。 「だから、家には……」 「わたしを……この街から、連れ出してくれませんか」 クーカイの返答を遮り。そう、少女はゆっくりと言い直した。

2016-01-27 21:40:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「駄目だ」 ガンジーが即答する。これ以上、厄介種を抱え込むわけには行かない。そして彼女が居れば……クーカイは、また無茶をしかねない。当然の判断だ。 「でも、わたしを家に返すの……無理、ですよ」 しかし、少女は確信していた。これは『通せる』要求だと。

2016-01-27 21:44:04
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

少女は遠い斜面を見遣る。徳エネルギー兵器の傷跡が残る、直線の『道』。一軒の民家を貫通し、解脱エネルギーによって木々を薙ぎ払った破壊の痕跡。 「……わたしの家、あそこ、ですから」 彼女の家族は、正にその家に住んでいた。

2016-01-27 21:48:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三章・第二十ニ話へ続く

2016-01-27 21:52:00
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

ブッシャリオンTips ガラシャ 徳溢れる街に住まう少女。名前は徳ネームである。年齢は10代前半。徳を積み、得度兵器の力で解脱に至るという半ば新興宗教化した徳至上主義の中で生きてきたが、その『教義』に疑問を抱く。しかし彼女自身は決して悪人ではないため、それなりに徳を積んでいる。

2016-01-27 21:56:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

◆黄昏のブッシャリオン◆第三章・第二十ニ話「別れと沈黙」

2016-01-28 21:00:14
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「おい……なんだよ。まさか、お前、連れてく気じゃあ」 「ガンジー、考えてみろ。俺達は、徳ジェネレータを手に入れようとしている」 二人は少女を待たせ、ひそひそ声で相談しあう。 「そうだぜ。だから、あれをバラして、とっとと帰ろう。この里の方がどう考えたって安全だろ」

2016-01-28 21:04:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「だが、問題がまだある。『燃料』だ」 「……」 徳ジェネレータで徳エネルギーを生産するには、徳が必要だ。徳の源は徳をの高い人間、或いはその遺物である。 ソクシンブツは既に無く、ガンジー達に徳は無い。 「彼女はこの街の住人だ。徳をそれなりには積んでいる筈」

2016-01-28 21:08:03
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……俺達が負い目に感じることじゃねぇぞ、クーカイ」 「……」 だが、ガンジーの反応は冷ややかだった。彼は、相棒の心の負い目を見抜いていた。 「その調子じゃあ、この先また厄介をしょい込むことになる」 少女を連れて荒野を突破するならば、リスクは否応なく上がる。

2016-01-28 21:12:07
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

「……そうか」 クーカイは絞り出すように応える。 「まずは、あのデカ仏を解体する。後のことはそれから考える。いいな?」 「ああ」 「どうしたんだよ、らしくねぇぞ。徳にあてられでもしたのか」 どこか上の空になりつつある相棒を気遣いながらも、ガンジーは工具を片手に作業へ戻る。

2016-01-28 21:16:06
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

オーバー徳テクノロジーをその身に実装した巨大自律機械・得度兵器。徳エネルギーにより稼働する小宇宙は、人体に勝るとも劣らぬ緻密な構造物だ。如何なる知性が、或いは科学がそれを作り出したのか。 ……そんなことには一切関心を抱かず、ガンジーの無慈悲なグラインダーがその内部構造を削り取る。

2016-01-28 21:20:02
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

更に作業を進めること、一時間。徳エネルギーバイパスを慎重に避けつつも内部構造を力づくで破壊しながら、二人は遂に見覚えのある形状の物体を得度兵器の胎内に見出す。得度兵器の中心部。人間で言えば心臓の真下付近の、奥深く。柔らかな光を放つ花の蕾、あるいはフラスコめいた器官。

2016-01-28 21:24:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

徳ジェネレータ。嘗ての徳エネルギー文明を支えた中枢。その表面には曼荼羅めいた模様が浮かび上がり、脈動している。 「……あったぞ」 「でかした!」 その瞬間、二人は思わず歓声を上げた。 「こいつを持って帰れば、俺達のミッションは完了だ」 これで、彼等の街は救われる。

2016-01-28 21:28:01
黄昏のブッシャリオン @tsbsrion

それだけではない。今後、仮に徳ジェネレータが破損したとしても……得度兵器を仕留めればジェネレータが手に入ることが分かった。困難ではあるが、不可能ではない方法だ。エネルギー事情は大きく改善するだろう。 「持って帰れれば、だがな」 「そうなんだよなぁ……」 ガンジーは溜息をつく。

2016-01-28 21:32:02
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