「エグジステンス・プルーフ」

「咆哮系提督の吹雪」第6章 「世界は生きている奴の物だ!」 「これが、私のエゴだ!」
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はザンシンした。そこにはもう何も残っていなかった。ヴァンガードという存在が居た痕跡は、何一つ残ってはいなかった。だが、吹雪はその存在をしかと魂に刻み付けた。海は静かに揺れた。戦いは終わった。 29

2016-02-22 22:22:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「よほろ」医務室。開け放たれたドアから差し込む夕日が吹雪が眠り続けるベッドを茜色に染め上げる。「で」その傍の椅子に座り込んだリカルドは隼鷹に問う。「コイツは、どうなっちまったんだ」「どう、ねぇ」隼鷹は後頭部を掻いた。その全身は痛々しく包帯に覆われている。 31

2016-02-22 22:26:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「まず、第一に」隼鷹は指を立て、言った。「嬢ちゃんが死ぬことは無くなった」「と言うと?」「嬢ちゃんの自我を蝕んでた船魂の力が、感じ取れねぇんだ」「…どういう事だ」リカルドが訝しむ。「船魂ってのはそう簡単に出したり入れたりできねぇモンなんだろ?」「ああ。本来は、ね」 32

2016-02-22 22:28:18
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「本来艦娘に宿した船魂を入れたり出したりするには、高度な霊的技術が必要なのさ。普通なら専門の施設だ必要な事さ」隼鷹は吹雪を一瞬横目で見、言葉を続けた。「だが、この嬢ちゃんから船魂を感じ取れない…けど同時に、嬢ちゃんの魂そのものもおかしくなってた」 33

2016-02-22 22:31:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」「何て言えばいいのかな…もう嬢ちゃんの魂は人間の形をしてない。かと言って船魂に魂を飲み込まれた痕跡もない…見たこともない魂の形さ」「つまり」「今の嬢ちゃんは魂のレベルで人間じゃない。けど旧い時代の軍艦の代役でもない。もっと別の何かになっちまったのさ」 34

2016-02-22 22:33:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

リカルドは吹雪を見た。吹雪は穏やかに寝息を立てていた。「…人間じゃない、か」「今の世は、正義の超人は艦娘。正体不明の化物は深海棲艦って時代だ」隼鷹は苛立たしげに後頭部を掻き続けた。「この嬢ちゃんは、何になるんだろうね」「何にもならんさ」リカルドは笑った。「コイツはコイツだ」 35

2016-02-22 22:42:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」隼鷹はリカルドを数秒見つめ、溜息を吐いた。「そういう心持ちの話じゃないんだけどねぇ」「自分が何者かなんて、心持ちで決まるもんだ」リカルドは自身に満ちた表情で言った。「それがカラテだ」「そうかい」隼鷹はそう言い、医務室から退出しようとする。そして、扉の傍で止まった。 36

2016-02-22 22:45:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「?」「一応、まぁ」隼鷹はポリポリと頬を掻いた。「あたしは、その嬢ちゃんの味方のつもりさ。その嬢ちゃんが何になろうともね」「そうか」「だから、何かあったらあたしに言ってくれよ…役には立つぜ」「憶えておくさ」「そうかい」そう言い、隼鷹は退出した。 37

2016-02-22 22:51:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」リカルドは隼鷹が遠ざかるのを確認し「いい奴だな、アイツ」と吹雪に語りかけた。ややあって、吹雪はもぞもぞと起き上がり、答えた。「そうですね」「お前、何時から起きてたよ」「最初からですかね」「そうか」しばしの沈黙。「私は」口火を切ったのは吹雪だった。「後悔していません」 38

2016-02-22 22:55:41
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「私は…私自身の選択でこうなりました。だから、後悔なんてありません。これっぽちも」「…そうかい」リカルドはただ吹雪の頭を撫でた。「見つかったんだな、エゴが」「はい」「そうか」リカルドは微笑み、一つ問うた。「これからどうする?」「戦います」吹雪は決然と宣言した。 39

2016-02-22 23:00:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そうか」リカルドはそれ以上聞かなかった。目を見ればわかった。目の前の弟子は確固たるエゴを獲得し、自らの意志で戦うと決めたのだ。ならば、師としてそれを尊重するのみ。「なら、俺も頑張らねぇとな」リカルドは獣めいて笑った。「俺は、お前の提督だからな」 40

2016-02-22 23:07:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ですね」吹雪はリカルドに拳を突き出した。「付き合ってください。私の戦いに」「おうよ」リカルドは拳に拳を突き当てた。「付き合ってやるよ。この世界の戦いに」二人は笑った。日が沈み行く。新しい夜明けを告げるために。 41

2016-02-22 23:11:05
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「エグジステンス・プルーフ」おわり

2016-02-22 23:11:22
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