『３月の戦い と 春のシチュー』　【clum】

clum @clum_memo

「どうして？ 」できるだけやさしい声で言う。「どうして謝るの？ 」叱られた子どもみたいな顔で、折館くんがわたしを見る。「わたしに謝ることないのに。とにかくお疲れさま。がんばったんだよね」そっと、抱きしめる。わたしがすると、抱きついてるようにしか見えないけれど。 #twnovel

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「ただ、話して欲しかっただけなの」玲が声を絞り出すように話す。「他所の高校に行くことなんて怒ってない。折館くんがずっと黙ってたこと、話してくれなかったこと、それが」そこまで言われて初めて、自分の勘違いに気付いた。「……さみしかった。一緒に考えたかった。それだけ」 #twnovel

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「言いたくないなら、何も話さなくていいからね」背中をさすりながら言う。「そんなことで怒るわけないじゃない。折館くんがずっとがんばってること、考えてること、それが」そこまで言って初めて、自分の本音に気付く。「……うれしいよ。一緒に考えられる。それだけで」 #twnovel

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晩飯の用意を手伝いながら、玲と話をした。他所の高校を受験する理由。その結論に至るまでの過程。父親の会社の経営が苦しいこと。これからどうしたいかということ。そして。一番気になってたことを訊いてみた。「もし高校が別になっても、玲はまだ俺と付き合ってくれるのか？ 」 #twnovel

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晩ご飯の用意を手伝いながら、折館くんが話をしてくれた。もう何社も面接に行ったのにどこの内定も取れてないこと。お父さんの再婚後の生活は順調だけど、それが逆にプレッシャーだということ。「もし、このまま就職……いや、何でもない」折館くんが、何かを言おうとして辞める。 #twnovel

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シチューの皿の湯気の向こう。玲が、少しだけ哀しそうな顔をして、微笑んだ。「……そんなこと、気にしてたの？ 」だって、絶対に今より会える時間は減ってしまう。それでもいいのか、確認しておきたかった。「関係ないよ。高校が別になるくらい」そう言われて、やっと安心した。 #twnovel

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シチューをついだお皿の湯気の向こう。折館くんが、目をそらしてつぶやく。「……そういうのは、まだ先の話だ。とにかく目の前のことに集中しないと」先の話ってなぁに？ なんのこと？「ま、まだ関係ない。というか、何でもない」そう言われちゃうと、逆に気になるのに。 #twnovel

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「ま、そこでダメになるなら、お前たちもその程度の関係ってことだよな」もっともらしい顔で頷きながら、樹が自分の椅子に座っていた。いきなり話に加わってきた樹に、玲が文句を言いながらシチュー皿を配る。書斎から出てきたこの二人の父親に挨拶して、四人で食卓を囲んだ。 #twnovel

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「ま、そういうことはちゃんと仕事に就いてからだよなー」にやにや顔で頷きながら、樹がいつの間にか自分の椅子に座っている。いきなり話に加わってこないで！ そう言いながらシチュー皿を配る。仕事が一段落したお父さんと帰ってきたばかりのお母さんと、五人で食卓を囲む。 #twnovel

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冷え切った身体が三杯のシチューで温まる頃には、いつもの玲に戻っていた。俺の中の妙な焦りも消えていた。そんな俺たちを見ながら、樹がまた呆れて言った。「腹ヘリなときって、まともに話し合う体力ゼロだからさ。食べてからゆっくり話せばよかったのに」確かにそうかもしれない。 #twnovel

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折館くんに四杯目のシチューをよそう頃には、いつもの彼に戻っていた。わたしもほっとする。そんなわたしたちを見ながら、樹がぽつりと言った。「満腹なときって、妙に度胸や勇気が出ちゃうからさ。食べる前に話が終わってよかったかも」……？ 食べ終わったらまたゆっくり話そう。 #twnovel