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shiroboshi2
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ジュセー
@shiroboshi2
父はいつも死人のような顔で帰ってきていた。ただいまの一言も言わず、栄養剤を飲みながらゾンビーめいてフラフラと家の中に入り、フートンに入っていく。そうまでして得たカネも、借金の返済に消えていく。いつか父はカロウシするだろう、という少女の憶測は見事に的中した。1 #S57Ninja
2016-02-21 22:39:45
ジュセー
@shiroboshi2
「ザッケンナコラー！」「居るのは分かってんだぞッコラー！」玄関扉の前で、借金取りが喚き散らしている。母は少女を抱き寄せ、涙を流す。謝罪の言葉を呟きながら。少女は無感動に天井を見つめる。チャメシ・インシデントというべき光景に、一々感情を動かす労力など無い。2 #S57Ninja
2016-02-21 22:43:34
ジュセー
@shiroboshi2
マケグミ・サラリマンの父がカロウシしたことで、ただでさえ厳しかった生活が、より苦しくなった。母は明け方頃に帰宅し、またすぐに家を出る。母が何の仕事をしているか、少女は知らない。さしたる興味も無い。薄汚れた冷たいタタミに寝転がりながら、少女は目を閉じた。3 #S57Ninja
2016-02-21 22:54:45
ジュセー
@shiroboshi2
「……」何度も寝返りを打つ。瞼を閉じれど、眠りは訪れない。これもまた、チャメシ・インシデント。少女は無造作に立ち上がり、玄関に向かった。扉を開ける。ネオサイタマの夜風が彼女を迎えた。チャメシ・インシデント。今にも崩れそうな錆びた階段を降りていく少女。4 #S57Ninja
2016-02-21 23:02:09
ジュセー
@shiroboshi2
なんということはない、ただの気分転換の散歩だ。彼女が昔本で読んだことが……或いは凡俗なテレビ番組で観たのだったか……ともかく、何らかの媒体から得たことのある知識。曰く、気分が優れぬ時は何らかの行動をせよ、とのこと。少女は散歩を選んだ。特に理由は無い。5 #S57Ninja
2016-02-21 23:08:12
ジュセー
@shiroboshi2
少女は歩く。ネコネコカワイイの曲を口ずさみながら。ネコネコカワイイが好きというわけではないし、歌詞もよく知らない。ただキャッチーなメロディだったので、自然と覚えてしまった。少女は歩く。気まぐれに、いつもと違う道を歩いてみる。6 #S57Ninja
2016-02-21 23:14:00
ジュセー
@shiroboshi2
少し広いところに出た。知らない道だ。取り敢えず足を進めてみる。交差点に出た。薄暗い車道を、電灯の灯りが微かに照らしている。ボーッと突っ立ていると、車が彼女の前を通り過ぎて行った。車道なのだから当然だ。ただ、交通の量は多くない。「……車……」少女は独りごちた。7 #S57Ninja
2016-02-21 23:20:48
ジュセー
@shiroboshi2
「……保険金ってどういう仕組みなのかな」少女は突っ立ったまま、考え込んだ。彼女のぼんやりとした考えでは、保険金というものは死傷を負った場合に振り払われるもの、という認識しかない。「……カネ……カネがあったら、たくさんあったら、いいのにな」8 #S57Ninja
2016-02-21 23:26:45
ジュセー
@shiroboshi2
カネ。カネさえあれば、父がカロウシすることはなかっただろうし、母が病に侵されながら労働に赴くこともなかっただろう。薄汚れた冷たいタタミの上で眠り、惨めな思いで朝を迎える毎日も訪れなかったはずだ。「……少し……当たってみて……慰謝料とか、そういうの……」9 #S57Ninja
2016-02-21 23:31:40
ジュセー
@shiroboshi2
少女はぼんやりとした眼で、次に来る車を見つめる。当てた側の立場など考えていない。その発想に至っていない。ただカネが欲しかった。「……」フラッ、と車道に出る。けたたましいクラクションが鳴り響く。少女の小柄な身体が跳ね飛んだ。「……ッ！？ア、バッ……」10 #S57Ninja
2016-02-21 23:37:36
ジュセー
@shiroboshi2
一瞬のうちに、彼女の身体を痛みが支配した。同時に湧き上がる恐怖。(((い……痛い……！痛い、痛い、痛い！)))先程までの虚脱感が嘘のようだった。地を転がり、大きく咳き込む。「アバッ、ゲホ、ゲホーッ！……アイエッ」そこに先の車が突っ込んできた。11 #S57Ninja
2016-02-21 23:44:36