編集部イチオシ

稚内の消防長の話

46
オッカム @oxomckoe

実家に消防長時代の父の制服があった。長く勤めた市役所から消防に出向してここでキャリア終了。稚内は星一つ。帯広くらいの人口だと星二つになる。当時消防長は市役所職員の指定席だったが、彼は消防生え抜きが消防長になるキャリアパスを構築した。 pic.twitter.com/ijzgaU4dAr

2016-02-26 00:01:43
拡大
オッカム @oxomckoe

(承前)父より後の時代は、退職とともに制服は返納することになった。国民の税金がどうしたとか会計がどうしたとかオンブズマンみたいな人々が言ったらしい。制服はオーダーメイドなので返納しても誰も着られないから結局処分される。父は身長155センチだったので誰も着られなかっただろう。

2016-02-26 00:09:42
オッカム @oxomckoe

(承前)市の事務官が消防のトップになった理由は、「火消しのお兄さんたち」は全然実務が出来なかったから。例えば防火服を買い替えるための予算書も作れなかったし、市との交渉も議員への根回しも監査対策もできなかったから。それで父は、見どころのある消防士を市役所に出向させ実務を経験させた。

2016-02-26 00:18:36
オッカム @oxomckoe

(承前)父が消防長になると、消防職員がボロボロの機材をごまかしごまかし使っているのをみた。「金がないから仕方ない」という。父は「必用なのか」と問うた。消防士は「必用ですが」という。じゃあ購入しようと瞬く間に予算を通し2000万引っ張って備品を一新した。事務屋さんの知恵なんだね。

2016-02-26 00:23:43
オッカム @oxomckoe

(承前)じゃあ父はただ感謝されていたのかというと微妙だった。消防庁として父が鎮圧を指揮したのは、平成14年6月に稚内中心街で起こった大火事。父は郵便局ニ階を独断で本部として借り受け指揮したが、火消しと価値観が違う。消防士はとにかく周辺建物を破壊する。とりあえず見たもの破壊する。

2016-02-26 00:28:55
オッカム @oxomckoe

(承前)事務官の父はそれ本当に必要なのかと疑念を抱いた。たぶん熱狂的に建物を破壊するのに違和感が酷かったので、破壊許可を自分に取るように言った。これは火消しにはうざかったかもしれない。また実務能力ゼロの消防士を登用するために市役所に出向させたのも、それを迷惑と考える専門職もいた。

2016-02-26 00:33:53
オッカム @oxomckoe

(承前)消防士は、訓練や火事がないときは黙って腕組みをして椅子に座っている。極めて体育会的な専門集団なので、市役所で実務研修に行ってノイローゼになる消防士も1人いたらしい。ともかく消防長は生え抜きからなれるようになったのは確かだった。

2016-02-26 00:40:57
オッカム @oxomckoe

(承前)僕は政治学者なので、トップが外部の上級部所から来るのと、生え抜きが立つのではだいぶ違うだろうと思っていたが、消防士の彼は、「まあ、トップは色々だから、その人その人に合わせるだけだ」と言う。別に生え抜きだから誇らしいとか、他所から来たから屈辱とかはないらしい。少し拍子抜け。

2016-02-26 00:48:50
オッカム @oxomckoe

(承前)父の葬儀の時、焼き場へのバスが消防署の前を通ると、消防士たちがずらっと並んで敬礼してくれた。僕は不覚に落涙。ただ、後日談がある。消防士の一人に僕の高校時代の同級生がいた。僕が感謝を述べると、「おやじさんには本当にお世話になった。でもあれは誰にでもやるから気にするな」と。

2016-02-26 00:45:22
オッカム @oxomckoe

(おまけ)僕が「素人の父が君らの仕事の邪魔にならなかったかい」と尋ねると、「ああ、家事は延焼しないようにとにかく壊すんだ。それは外部の人には不安だろう、仕方ないよ」という。僕は「その後の街の復興も考慮しないと」というと、彼は、「それは俺らには関係のないことだ」と。父は苦労した。

2016-02-26 00:52:02