- laurassuoh
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死にたくないならしおいさまが話しかけてくるのを無視し続ければええよ 帰り際に「ごめんね」って小さい声で言いながら雨の中に消えていくから
2016-02-26 12:39:56「……貴女が、しおいさま。ですか」 「さま?わたしはしおい。あなたは?」 「不知火」 「しらぬいちゃんっていうんだ!よろしくね!ねー、しおいと遊ぼ!」 「……いえ。不知火は貴女を殺しに来ました」
2016-02-26 12:49:09怪異殺し不知火のナイフがしおいの喉を裂く。土砂降りのアスファルトに倒れた日焼け少女の死体。 「……終わりですか?」 周囲に人の気配はない。しかし巷を賑わせる怪異がこれほど簡単に倒せるものなのか、不知火の怪異殺しとしての経験が「まだ終わっていない」と告げる。 「蛙?」
2016-02-26 12:53:38しおいの死体と不知火の間に一匹の蝦蟇蛙。いつからそこにいたのか、森に囲まれたこのバス停の近くに池はなかったはずだ。巨大な蝦蟇のまだら模様の背中はしおいの肌の色ととてもよく似ている。何を見つめているかも分からない虚無の目をした蝦蟇蛙がその口を開けて濁った鳴き声を上げる 「なっ……」
2016-02-26 13:02:13巨大蝦蟇の呼びかけに応じるかのように周囲から蛙たちの鳴き声が響き始めた。アスファルトを埋めるようにどこからともなく湧き出した大量の蛙が、不知火を中心に見据えだみ声で唸る 「しまったッ」 不知火は唇を噛む。蛙たちに気を取られている内にあろうことかしおいの死体が綺麗さっぱり消えたのだ
2016-02-26 13:05:37「しおいと遊ぼう?」 不知火の頭蓋骨に直接響くしおいの声。蛙たちの音響が平衡感覚を狂わせる。 不知火のナイフの特製は「断絶」、本人の小指の骨を粉末にして刃に融け込ませた明石工房特別製だ。怪異の下を絶てば不可逆の断絶が怪異の全存在を無に還す必殺の一閃。しおいの喉は確かに割いた。
2016-02-26 13:13:27不知火程の達人が切っ先から伝わる感触を間違えるはずはない。あれは本物の少女の喉だった。やはりしおいの本体はこの場にはいないのだ。少なくともあの少女の姿は仮初。夏の雨に降られてこのバス停に逃げ込んだ少年だけを攫う怪異が身に着けた疑似餌。 「ねぇ、どうしてしおいと遊んでくれないの?」
2016-02-26 13:41:25不知火を囲う蛙たちから立ち昇る靄、それは土砂降りの中空にしおいの形となってゆらゆらと揺れる。ノイズの激しい雨敷きのスクリーンに映った少女たちの幻影。その口元は一様に微笑んでいる――否、歪んでいる。 「面妖な」 襲うでも逃げるでもなくしおいたちはそこに浮かんで笑う。
2016-02-26 13:45:20「「「ねぇ」」」 しおいの腕が、無数に存在する小枝のように細いその腕が、一斉に不知火を指さした。 寒気、この場所に立って「居て」はいけないと直感が告げる。 「「「遊ぼうよ」」」 しおいの言葉と同時に不知火は思い切り上空へ飛びのいた。 「何ですか、あれはッ!」
2016-02-26 13:51:44軽く10メートルは跳ねた不知火は地上の光景に目を疑った。先ほどまで不知火がいた個所には水で作った人型が「居た」。降りしきる雨粒はその軌道を歪に歪め不知火の人型を構成するために集合している。 「「「楽しいね!」」」 地上にある全てのしおいの首が「ぐるり」と曲がって不知火を見上げる
2016-02-26 13:56:49「チッ!」 不知火は空中を「蹴った」。空気の面を靴底で捉え落下に加速を乗せる、と同時に身体を回転させ衝撃を殺しながら蛙の絨毯に着地した。不知火がさきほど浮かんでいた宙にはやはり雨粒が殺到して人型を作っている。 しおいの怪異としての特性は神隠し、発見される死体は一様に水死体だ。
2016-02-26 14:00:42その図書館の最奥に迷い込んだ人は無類の『本好き』になってしまい、寝食を忘れて本を読み続け衰弱死してしまう――怪異殺しの不知火はその噂を確かめに赴く。隠し扉の奥、秘密の集積書架には無数の本が納められ、水道管の故障で一面に水が溜まっていた。
2016-02-26 14:12:43水に潜む怪異に苦しめられる不知火だがバキュームカーで排水し勝利を確信する。しかしそこに響く声――「『書物のなかに海がある』……寺山修司の一節よ」。怪異の本体ハチは水ではなく、文字の海を泳ぐ特性を持っていたのだった……!《以下次号》
2016-02-26 14:12:58水場のないバス停、なるほど男たちは溺れたのだろう。過去の記憶を集積した夏の形をした少女、大人たちは自らの胸に抱いた幻影によって溺死したのだ。では少年たちはどこへ行ったのか。不知火にはおぼろげながら彼らの行方の察しがついていた。恐らく彼らはまだ生きている。生きたまま喰われている!
2016-02-26 14:12:58不知火の着地によって数十匹の蛙が内臓を押し出して潰れた。不知火は走り出す。 「「「あははははは」」」 しおいの指に操られた巨大な水流が蛙を踏み殺しながら疾走する不知火を呑み込もうとその背を追う。 「切がないッ」 蛙は潰しても潰しても湧いてくる。やはり本体を殺さなければ埒が明かない
2016-02-26 14:20:21「ファンタジーはお好き? 『オズの魔法使い』なんておすすめよ。臆病者のライオンのようにその牙(ナイフ)と腕を失いたい? おつむの足りないブリキの木こりのように頭を丸ごと失いたい? 感情の無いかかしのようにその心臓を失いたい?」
2016-02-26 14:20:53怪異殺しの初風、「相手に自らと同じ傷を負わせる呪い」と「ほとんど千切れかけた首を持つ死体」の特性を持つ。相手の前に立って「残念ね、あなたはここで死ぬのよ」と首の包帯を解いてナイフを自らの首にめり込ませる。相手の首も裂けていき必ず息絶えるわけだが、初風は死なない。もう死んでいるから
2016-02-26 14:24:27