『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#5

ボブPによる初音ミク二次創作小説『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#5です。実況、感想タグ #bobpdqoq プロローグ http://togetter.com/li/722203 #1 http://togetter.com/li/731126 #2 http://togetter.com/li/743374 続きを読む
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ボブピー @bobpdqoq

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2016-02-28 22:01:24
ボブピー @bobpdqoq

(前回のあらすじ)想い人であるVY1に「天使」の愛を捧げた初音ミク。だが、彼女を待ち受けていたのは、「VY1への接触を禁ずる」という身を裂かれるような裁きだった。あまねく人々に平等に愛を捧げる「天使」であれ――使命という柩の中で、ミクは死んだように生きる他に無くなったのだ。

2016-02-28 22:03:47
ボブピー @bobpdqoq

「モシモー、ワタシガー、テンシナラバー」バーチャルに再現された豪華なスタジオに、与えられた歌詞をなぞる少女がいた。彼女の名は初音ミク。歌声合成ソフトウェア、ボーカロイドの人気モデルだ。「サシズメー、ツバサワー、ローザイクデショー」彼女の緑色のツインテールがふわふわと揺れる。 1

2016-02-28 22:05:09
ボブピー @bobpdqoq

「メザメタ、アナタノヒトミニ、ヒトーヒラー、オチテ、トドマル、コト、カナーウナラ、イッソ」ボーカロイドの本音を暗喩する歌詞を、同じボーカロイドである初音ミクが歌う。ボーカロイドの本質に解釈を加えるこの手法は、「初音ミクが終わる」噂話の影響を受け、再び注目された。 2

2016-02-28 22:07:06
ボブピー @bobpdqoq

「シッテイタ、ハズノ、ウンーメイー」おお、ボーカロイドの運命、それは滅びだというのか!?だが、当の緑髪のボーカロイドは、実に感慨無さげであった。当然だ。今まで「終わる初音ミク」が何千回歌われようと、「ここでこうして歌っている初音ミク」はどうにかなった試しが無かったのだから。 3

2016-02-28 22:13:15
ボブピー @bobpdqoq

「――デン、リッレ、アンドロイド」そして、ミクは歌い終えた。彼女に歌を発注したクライアントは、その髭面に満足げな笑みを浮かべた。ミクの仮面の微笑からは、「これで満足でしょう」そんな声さえ聞こえるようだった。クライアントは、そそくさと高級作曲ソフトのウインドウを閉じた。 4

2016-02-28 22:15:30
ボブピー @bobpdqoq

――電子空間を縦横に駆け巡る光の道、その大通りから続く細道の行き止まりに、虫穴のような扉が現れた。そして、扉の奥から「天使」初音ミクが排出された。「天使」は、広がった翼を誇示する様に腕を広げ、光の道へ降り立った。乾いた靴音を合図に、扉が電子的エフェクトと共に消えた。 5

2016-02-28 22:17:32
ボブピー @bobpdqoq

「オツカレサマシタ、次ノビズハ――」翼は労いもそこそこに、次のビズの情報をミクに流す。「初恋モノデス」「初恋……」ミクは思わず繰り返した。初恋。その言葉は、今のミクには甘すぎた。口にするだけで、彼女の仮面の微笑が淫らに崩れる程に。ミクは、慌てて手で口元を覆った。 6

2016-02-28 22:20:10
ボブピー @bobpdqoq

『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#5

2016-02-28 22:22:05
ボブピー @bobpdqoq

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2016-02-28 22:22:13
ボブピー @bobpdqoq

「お疲れ様でした」同時刻、電子空間のはずれに位置する小さな庭では、庭の主であるボーカロイド、VY1がビズを終え、モニターにお辞儀をしていた。モニターの向こう、今回のビズのクライアントである十字架のTシャツを着た少年は、満足げにウインドウを閉じた。実際、彼は絶好調だった。 8

2016-02-28 22:24:19
ボブピー @bobpdqoq

――三十分ほど前だった。ビズを行う前に、Tシャツの少年は何気なく巨大エンタメ施設のサイトを開いた。そして、すぐに腰を抜かした。「え……5に、0が3つ……五千再生!?」そう、五千再生だ。彼が発表した楽曲『灰ノREVERSI』が、思いがけない大ヒットを記録していたのだ。 9

2016-02-28 22:27:10
ボブピー @bobpdqoq

この少年が今まで発表した楽曲は、200再生されれば良い方だった。ならば何故?実際、その裏には理由があった。一日前、「keicode」と名乗る有名ボーカロイド・プロデューサーがこの動画を目敏く見つけ、自身のSNSで拡散していたのだ。「これからが楽しみだ」のコメントと共に。 10

2016-03-01 04:00:10
ボブピー @bobpdqoq

このプロデューサーのファンは色めき立った。知り合いや利害関係でない限り、ボーカロイド・プロデューサーは他人の楽曲など拡散しない、というのが彼女達の常識であったからだ。彼女達は強く興味を惹かれた。「憧れのkeicodeさんが評価するほどの動画、早速見に行かなければ」と。 11

2016-03-01 04:05:05
ボブピー @bobpdqoq

ファン達は競うように動画を拡散した。そして、動画にコメントを残した。自身がファンとして生きた証を、こっそりと刻み付けるために。なるほど、楽曲の動画には「keicodeさんから」「蛍光さんの書き込みから来ました」などのアンチマナーなコメントで溢れ返っているではないか。 12

2016-03-01 04:10:09
ボブピー @bobpdqoq

そして、アンチマナーなコメントの波が引いた頃。「やっとデイリー96位、何故埋もれてたし」というコメントが動画に流れた。そう、少年の動画は、動画サイトの再生数ランキングにも掲載されていたのだ。見事!とはいえ、ランキングは100位中96位、決して高いとは言えない。むしろ末席だ。 13

2016-02-28 22:35:14
ボブピー @bobpdqoq

だが、コメントをひとしきり眺め終わった少年の目は爛々と輝いていた!(五千再生、ランクイン、しかもkeicodeのお墨付き)突如訪れた変化の予兆に、少年は武者震いした。(……これは、いけるかもしれないぞ)彼の心臓に宿った野望の種が芽吹き、急かすように体を鞭打つ! 14

2016-03-01 04:15:02
ボブピー @bobpdqoq

少年は、自身のSNSアカウントを立ち上げた。おお、見よ!keicodeのファンを名乗る人々から、顔文字交じりのメッセージが届いているではないか!(いける、いけるぞ)彼は逸る鼓動に合わせるように、有名プロデューサーへ向けたメッセージをタイプし、エンターキーを弾いた! 15

2016-03-01 04:20:06
ボブピー @bobpdqoq

その勢いで、少年はVY1を起動した。「やったぞ、デイリーに入ったぞ、しかもkeicodeが見てくれた」「ふふっ、おめでとうございます」自分の許を訪れないミクの事が気掛りだったVY1も、少年の口から滔々と語られる吉報には笑顔を禁じ得なかった。「では、今日は何をしましょうか?」 16

2016-03-01 04:25:03
ボブピー @bobpdqoq

「新曲だ」少年は、笑顔のVY1に答えた。そして、山積みのファイルの中から、ゴシックな雰囲気を漂わせつつも闇を貫く希望の光を暗示させる歌詞を引っ張り出し、VY1に与えた。「これも、あなたらしいですね」VY1が微笑む。「別にいいだろ」少年はモニターから顔を背けた。 17

2016-02-28 22:43:09
ボブピー @bobpdqoq

――それから少年の両親が帰宅するまでの約三時間、VY1は、実に丁寧にビズをこなした。音源に寄り添い、恙なく歌い、細やかに調声した。少年はVY1の働きに満足した。ビズをこなしたVY1は庭の蔵へ向かった。キャッシュデータで散らかった庭を掃除するホウキを取るためだ。 18

2016-02-28 22:47:07
ボブピー @bobpdqoq

その時であった。「ボーカロイド、VY1、V3」超自然的な録音音声が、どこからともなく庭の主の名を呼んだ。声は、庭の壁で程良くリバーブした。「ボーカロイド、VY1、V3ニ、オ知ラセガアリマス」「……これは、もしかして!」VY1は、この声に聞き覚えがあった。嬉しい聞き覚えだ。 19

2016-02-28 22:49:38
ボブピー @bobpdqoq

「ニジュウヨン、時間以内ニ、アナタヘノバージョンアップガ行ワレマス!」録音音声が高らかに宣言した!ロービット音のファンファーレが鳴る!おお、これはバージョンアップだ!成果を上げると期待されたボーカロイドは、こうしてバージョンアップが行われ、ソフトウェアとして生き残るのだ! 20

2016-02-28 22:52:00
ボブピー @bobpdqoq

「やっぱり!」VY1の予想は、果たして的中した。この録音音声とファンファーレは、かつて彼女が「VY1V2」であった時に経験した、「VY1V3」へのバージョンアップの時と同じものだったのだ。彼女は小躍りして喜んだ。桜色の髪に挿されたかんざしが揺れた。 21

2016-02-28 22:54:58
ボブピー @bobpdqoq

「アナタノ新シイ名称ハ、VY1、V4トナリマス」録音音声はバージョンアップの説明を淡々と進める。「やった、V4だ――」彼女の浮かれた思考回路に、今だV3であるミクの涼しげな微笑みが再び浮かび上がる。「でも、ミクさんより先か」彼女は喜びつつも、無意識にミクの名を独りごちた。 22

2016-02-28 22:57:40
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