【艦これリレーSS】朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

「お楽しみは後だ。仕事の時間だぜカンムスさんよ」 スライドを引くジャキンッという音が響く。朝潮とて艦娘であり軍に属する人間……いや艦娘である。銃の扱いに関して一通りの訓練は受けたし、月に一度は射撃訓練もしていた。だが……。 「し、仕事？！」 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

自分は確か畑泥棒を撃退するのが仕事内容ではなかったか？　それに対して今両手に抱える木製ストックの鉄の塊は余りにも過剰すぎる道具に見えた。 「言っただろ、ここらは物騒だってな！」 予備マガジンをチェストリグに押し込みながらカルロは答える。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

「おっと！それからこいつだ！こうなりゃここは使えないからな！」 銃に続いてカルロが投げ渡してきたのは、折りたたまれた紙片だった。 「奴らを適当にあしらったらそこで集合だ！いいか！つけられるなよ！」 そう言ってカルロは駆け出し、そして死んだ。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

古典的コメディのバナナの皮ですっ転ぶ男のように。カルロはステンと尻もちをついて。そして動かない。 それがコメディで無い証拠に。拍手に代わり鳴り響くのは銃声。 その光景を見て。銃声を聞いて。硝煙の香りを嗅いで。朝潮はあらゆる疑問を棚上げした。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

光が瞳に飛び込むまでは待った。音が耳朶を叩くまでは動けなかった。硝煙の微粒子が鼻の粘膜を刺激したらば。次に来るのは？ 弾丸が己の身に食い込むまで待つつもりは、朝潮には無かった。 灼熱の陽光が降り注ぎ砂塵舞う地の上で、水を得た魚のように朝潮は振る舞った。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

危機に際して体が動く。艦娘はそういう風に出来ていた。そういう風に出来ていたから。背負ってしまった罪の事を。一時忘れて朝潮は駆ける。 低く低く軽やかに。 ああ心も体と同じように。軽やかにあれればどんなに良いか！ コンマの嘆きを自覚すらせず。朝潮はトリガーを引いた。#朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

カルロを殺した者たちは、混乱のうちに死んでいった。 彼らは朝潮を殺すべき対象か、一瞬だけ迷ったようだった。一瞬だけだった。彼らが子供を殺すのは、はじめてではない。 しかし。低く速く地を這い。無造作なようで正確に弾丸を叩き込んでくる相手を殺したことは無かった。 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

コカノキ畑の中を縫うように、あちこちで乾いた破裂音が連続する。それは収穫の音。7・６２×３９mmの鎌が命の実を刈り取る音だ。やがて予備のマガジンも使いきった朝潮だったがその動きは止まらない。BOPE(特殊警察作戦大隊)の隊員からＭ４を奪い取り再び銃声を響かせる #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

こういう時、真っ先に逃げ出すのはより立場が上の者と決まっている。悪党ならば尚更のことだ。 BOPEのヘリが到着する遥か以前にその地を離れていたボスは、新しいセーフハウスでジンを開けていた。目の前には血まみれで震える男、それに銃をつきつける部下がいた。 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

男は畑の場所を警察に売っていた言わば裏切り者であった。ボスはぐびりと喉を鳴らすとショットグラスを裏切り者の顔に投げつける。砕けたガラスが男に降り注いだ。 「お前のせいで一つ畑が駄目になった。いくらの損害だと思う？」 ガチガチと歯を鳴らす男の顔は青ざめている。 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

「それにカルロが死んだ。女癖は悪かったが使える優秀な奴だった……」 顔の前で軽く十字を切りながら小さくアーメンと呟く。 「報いは、受けてもらうぞ。おい」 顎で合図をすると両脇を二人の部下が抱え引きずっていく。 「思い付く限りの苦痛を与えて……殺せ」 #朝潮バレンタイン

大渡　鴉@ピクシブリクエスト募集中 @oowatarikarasu

裏切り者が悲鳴と命乞いを叫びながらドアの向こうに消える。 ボスは新しいグラスに再びジンを注ぎながらモニターを覗き込んだ。視線の先には件の畑でBOPEの隊員を次々に屍に変える朝潮が映っている。畑の監視カメラの映像だ。 「カルロは死んだが……」 ニヤリと口角を上げ #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

酒を一気に飲み干す。酒精がもたらす以上の興奮にボスは包まれていた。監視カメラが映すのは最高のショウだった。更にその主役が自分のモノとなれば、興奮せずにいられようか？ 「さて」 彼は腰をあげた。ショウの主役を迎えるために。それを使って、己がこの地の主役となる為に。#朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

逃げ去るヘリを、朝潮は追わなかった。 自分を追う意思が無いとさえ分かればそれで良かった。尾行を警戒しつつ、山を下る。カルロから渡された紙に記された集合地点へと。 駆ける間に、興奮が引いてきた。 AKの反動をもろともしない強靭な体の奥で、心が悲鳴をあげる。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

殺した。殺した！殺してよかった？ 戦いの間は棚上げしていた疑問が逡巡が。一気に押し寄せてくる。 良かったのだ！自分は用心棒なのだから！彼らが撃ってきたのだから！ 本当に？彼らは悪人だったの？殺してよかったの？ あの死体の襟章は。この国の政府所属を示すものでは？ #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

気温は三十度に近いはずだった。なのに、寒気が止まらなかった。 鎮守府にいた間は、すべて、お父様が示してくれた、背負ってくれた。行動とその責任。 視界が狭まる。歯の根が合わない。今は駆けろ。自分が知りうる次の目標に向けて。集合地点へ。 光が。朝潮を照らした。 #朝潮バレンタイン

オナカタルミ @onakatarumi

警戒に朝潮の体がこわばる。光の元は、車のヘッドライトだった。 気がつけば朝潮は集合地点へとたどり着いていた。 そして、車の傍らにいるのは、ボスと呼ばれていた男。自分が殺した少年の、父を名乗った男。 「よくやった」 その唇から放たれた、優しい響きに。 「お父様」 #朝潮バレンタイン