- entry_yahhoo
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「イヤーッ!」ZANK!ZANK!KABOOOM!若葉は体を右舷に捌き、主砲で撃ち抜いて魚雷を爆発させた。砲撃反動により僅かに滞空しながら右舷へ移動する。若葉は油断なく周囲を索敵し、そして目を見開いた。着地場所へ雷軌が迫って来ているではないか! 34
2016-03-07 21:25:17((こちらの回避を読み、未来位置へ魚雷を放ったか…ならば!))「イヤーッ!」若葉は進行方向へ向けて砲撃!ZANK!ZANK!反動が若葉の体を軋ませ、僅かに後退させた。魚雷の近接信管が若葉を捉える。KABOOOM!「グワーッ!」 35
2016-03-07 21:26:32「マズハ一撃」ディスタントサンダーは雷撃により巻き上げられた海水を眺めながらそう呟いた。脚部のフロートユニットに搭載された魚雷発射管が魚雷を補充する。「生憎狙撃バカリガ能デハナイノデナ」スコープ越しに、濃い水煙越しに敵影を探る。「倒レタカ?艤装ガ損傷シテイレバ僥倖ダガ」 35
2016-03-07 21:32:48ガシャン!ガシャン!ディスタントサンダーの耳に、金属と金属がぶつかり合う音が聞こえた。「耳障リナ…」ディスタントサンダーは眉を顰める。「一体何ノ音」一瞬、水煙の奥に、鈍い光が瞬いた。次の瞬間。KADOOM!「グワーッ!」ディスタントサンダーは顔に強い衝撃を受け、仰け反った! 36
2016-03-07 21:36:52ディスタントサンダーは左側頭部から激痛を感じた。血が流れる感触を感じる。恐らく何かが左側頭部を抉ったのだろう。水煙が晴れる。「アレハ」ディスタントサンダーは若葉の姿を捉えた。若葉は二丁のピストル型主砲ではなく、一丁のスナイパーライフル型主砲を構えていた。 37
2016-03-07 21:40:41「アレ程ノ大物、何処ニ持ッテイタ」ディスタントサンダーはそのスナイパーライフルを観察し、呟く。水煙に姿を消すまで、若葉はあのような大型の主砲を持ってはいなかった。一体どこからあのような……「ン?」ディスタントサンダーは気付いた。あのスナイパーライフルの形に見覚えがあった。 38
2016-03-07 21:46:16変形こそしているが、あれは若葉の持っていたピストル型の連装砲と単装砲に他ならぬ!「成程、合体シタノカ」ZZTTTT…ディスタントサンダーは納得し、砲身内に魚雷を装填した。次弾を装填し終えたのか、若葉もまた構える。静寂が二者の間に奔った。両者とも動かない。 39
2016-03-07 21:51:56((動ケナイカ…ソウダロウナ))ディスタントサンダーはほくそ笑んでいた。((先程ハ視認シテナカッタ故不覚ヲ取ッタガ、コノ距離デノ狙撃戦デ私ニ敗北ハアリエナイ!))ZZTTTT…ZZTTTT…電気エネルギーが砲身内に満ちる。((何故ナラ、私ノ魚雷ノ方ガ圧倒的ニ速イカラダ!)) 40
2016-03-07 21:55:46((例エ貴様ガ私ヨリ速ク引鉄ヲ引コウトモ、砲撃ガ吐キ出サレルヨリモ速ク私ノ魚雷ハ飛翔シ、貴様ヲ爆死サセルダロウ!))ディスタントサンダーは敵意に満ちた目で若葉を睨み、((サァ私ノ魚雷ヨ!殺セ!敵ヲ殺セ!私ヲ狂ワセル音ヲ根コソギ滅ボセ!))引鉄を引いた! 41
2016-03-07 22:01:40ZZTTTT!最大電磁加速を受けた魚雷は飛翔し、瞬く間に20キロの距離を詰め、若葉へと迫る!「サァ、ヤレ!」ディスタントサンダーは吼えた。彼の者の脳裏には爆発四散する艦娘の姿が映っていた。……だが、現実はそうはならなかった。「イヤーッ!」ZANK!ZANK!KABOOOM! 42
2016-03-07 22:05:13「エッ?」ディスタントサンダーは耳を疑った。砲撃音が2発聞こえた。2発?連射したのか?だが弾はこちらに届いていない。何の砲撃だ?やがて、爆炎が消える。そこには誰もいなかった。ディスタントサンダーはスコープ機構を解除し、構えを解いた。「考エ過ギ…カ?」 43
2016-03-07 22:08:55ディスタントサンダーは安堵の溜息を突こうとしたその時、視界の端に何かを捉えた。ディスタントサンダーは上空を見上げ、そして絶句した。「馬鹿ナ」そこには空中で落下しながら、ディスタントサンダーに砲口を向ける若葉の姿があった。「馬鹿ナ…避ケラレタ?ドウヤッテ!?」 44
2016-03-07 22:11:33ディスタントサンダーの混乱をしかし、若葉は待ちはしなかった。ZANK!砲撃が放たれた。ディスタントサンダーが逃げる時間は、ありはしなかった。砲撃は寸分違わず、ディスタントサンダーの眉間を撃ち抜いた。「アバーッ!?」 45
2016-03-07 22:13:47ディスタントサンダーはゆっくりと背後へ倒れ込み、最後の思案をした。((馬鹿ナ、私ガ…狙撃デ負ケルダト!何故ダ!何ヲ間違エタトイウノダ!))憎悪の嵐が壊れたニューロンの中に吹き荒れる。しかしてその時、ディスタントサンダーは気付いた。最早何も聞こえないことに。 46
2016-03-07 22:17:03砲撃が脳を破壊したことによる偶然なのだろうか?ディスタントサンダーはその理由を求めず、只享受した。((嗚呼、静カダ…静寂ダ…ヤット訪レタ…))ディスタントサンダーは、目を閉じた。((ヤット、眠ル事…ガ……出来ル………)) 47
2016-03-07 22:19:34ディスタントサンダーは海面に倒れた。「サヨナラ!」そして、爆発四散した。その断末魔は、何処か穏やかですらあった。 48
2016-03-07 22:20:30「イヤーッ!」若葉は海上に着水した。そして若葉はフラフラと前進を始めた。((爆風で足を痛めたか…面倒だが、勝てたんだ))「悪くない」若葉はそう呟き、ディスタントサンダーが爆発した場所へと到達した。そこにはいくつかの残骸が浮かぶばかりであった。若葉は敵の死を確認した。 49
2016-03-07 22:24:05読者の皆様は、何故若葉が無事なのかを目撃しているはずだ。若葉は魚雷が放たれた瞬間、一瞬でスナイパーライフルの連結を解除。二丁の主砲に持ち替え、跳躍と同時に真下の魚雷を撃ち抜き、反動と爆風の衝撃を相乗して空中へと飛んだのだ。何たる艦娘でしか成し遂げられぬ無謀な飛翔だろうか! 50
2016-03-07 22:27:19((やはりこの体は良い…出来ないことができる))若葉がもし軍艦のままであったら、拘束で飛翔する魚雷を回避することなど叶わなかっただろう。ましてや反撃し仕留めるなど。若葉は自分の体に、そして身に宿るカラテに感謝した。((カラテと、この海技研の艤装…これで、若葉は戦える)) 51
2016-03-07 22:30:35((この力があれば…))若葉の脳裏に、初霜の姿が過った。嘗て一人、遺してしまった妹の姿が。((もうお前を一人ぼっちにはしない。必ずだ))若葉はそう決心を固め、リンガ泊地へと去ろうとして、気付いた。「アイサツ、していないな」 52
2016-03-07 22:32:41アイサツとはイクサにおける神聖不可侵の作法であり、カラテを修める者にとって絶対の礼儀である。だが、互いの声が届かぬ状況でアイサツする義理はない。これは狙撃手のイクサだ。カラテ強者同士のイクサではない。だが若葉にはどうもそれが引っ掛かった。 53
2016-03-07 22:35:52若葉は主砲を主機艤装に備えられたハンガーラックに掛け、両手を合わせ、残骸へ向けてアイサツした。「ドーモ、初春型3番艦・若葉です」無論、返答は返らない。だが若葉は暫く目を閉じ、両手を合わせたままであった。その姿は、まるで祈りめいていた。 54
2016-03-07 22:38:50暫くして、若葉はアイサツを止め、リンガ泊地へと踵を返した。残骸はもう全て沈んでいった。ディスタントサンダーの残骸はやがて海の底に辿り着き、そこで悠久の静寂に微睡むのだろう。若葉は傷を癒し、また戦うだろう。ただ一人を守るために。 55
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