稲川淳二の『つぶやき怪談』(2016.02.29)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「今夜は、妙に、見学者、多いんですよねえ」 って、言ったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そう言えば、そうだよねえ。 普通なら、この時間だと、チラホラぐらいしか、いないのにねえ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、私も答えて、 草ムラ、川べりなどにいる、見学者を見回しました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「でも、あの人たちねえ、 人数に割には、ムダ口きく人も、いないから、 そっちはいいんだけど、神出鬼没って、あるじゃないですか。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その感じで、確かに、さっきはいなかったと、思った場所に、 登場してくれるから、まいっちゃうんすよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って、ＡＤクンが、舌打ちしたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、また、監督が手を振って、ＡＤクンを呼んでいるので、 彼、急いで走り戻っていきました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あれで、給料が安いんだから、 ＡＤなんて好きでなきゃ、できないよなあ） なんて、私、変に感心してましたよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

監督に指示されたＡＤクン、 橋の下の橋を支える、石柱の方に走って行きました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこにいる、見学者が、今度は撮影の、ジャマになったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その夜は、満月とは言えないけど、かなり明るい月夜で、 それほど寒くもなかったですから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

待ってて、震えるなんてことは、なかったんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こう中断が多いと、 （撮影が長引くなあ） って、正直なところ、私も、少々、うんざりしてました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時ね、背後に、気配みたいのを感じて、 私、振り返ったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

するとそこに、三十くらいの男と女の人が、立っていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その人たち、妙に無表情で、遠くの撮影を、あまり光のない目で、 ボーッという感じで見ていました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あれ、いつ来たんだろうなあ？） って、私が思ったのは、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

さっき、タバコを吸おうと風をよけるために、後ろを見た時は、 そこには、誰もいなかったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（なるほど、神出鬼没だな） って、ＡＤクンの言葉を思い出しました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、 （本当、それにしても、静かだなあ） って、思いましたよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

普通ね、見学者ってのは、ＡＤクンも、言ってた通り、 こんな風に、静かなもんじゃないんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

おしゃべりしたり、煙草を吸ったり、 しかも、若い女の子たちになると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ファンの俳優が出てくると、撮影中だってのに、大きい歓声を上げて、 サインをねだる場合だってあるんですからね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「稲川さん、お願いします｣ って、スタッフに呼ばれて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

覚え切ってあるはずのセリフを、頭ん中に思い浮かべて、