イクストリーム・フライト・イン・ネオサイタマ 後半

SUMIYU(@SUMIYU1987)=サンのテキストカラテ 前半はこちら(http://togetter.com/li/946982)
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SUMIYU @SUMIYU1987

それは挑発的なペイントを施した、湾岸警備隊の新鋭戦闘機であった。戦闘機は猛スピードで突っ込んでくる。すれ違う一瞬、ほんの一瞬であったがヘルカイトのニンジャ視力はこの狂ったパイロットの顔をしっかりと捉えた。 四拾弐

2016-03-07 20:53:24
SUMIYU @SUMIYU1987

幾本もの直結LANケーブルの伸びるヘルメットには「破壊者」の赤文字。そして、パイロットも彼を見た。笑顔。彼は笑いかけていた。このフライトが楽しくて、愉快でたまらないというような、子供のような笑顔。 戦闘機は凄まじい速度で背後へ消えた。ヘルカイトもまた、笑顔になっていた。 四拾参

2016-03-07 20:57:03
SUMIYU @SUMIYU1987

(この狂った空に、狂ったバカが二人)戦闘機の排した凄まじい轟音に包まれながら、彼はこの愚かな出会いを笑った。(あのパイロット、まるで遊びだな。モータルだろうがとんでもない奴もいたものだ)彼は肩の力がすっと抜けた感覚を味わい、己の身内に湧き上がる新たな力を感じた。 四拾四

2016-03-07 21:05:45
SUMIYU @SUMIYU1987

刹那!冷酷なソウカイ・ニンジャに似合わぬそのかすかな感傷をあざ笑うかのように前方より高速飛来する極太「おマミ」カンバン! だがヘルカイトはわずかな動作でこれを回避! 直後!大きな数本のボルトが散弾めいて飛来!これも難なく避ける! 突風だ!!!だが風をいなす!!! 四拾伍

2016-03-07 21:11:42
SUMIYU @SUMIYU1987

ノー間髪!愚かな凧乗りを打ち落とさんと図るかのように前方より高速飛来するサイバー自転車! だがヘルカイトはわずかな動作でこれを回避! 直後!大量の食器が散弾めいて飛来!これも難なく避ける! 突風だ!!!だが風をいなす!!! 四拾六

2016-03-07 21:14:55
SUMIYU @SUMIYU1987

彼が痛烈な西風をいなし、「ネコネコ服飾健康」カンバンを避けたちょうどその時、後方の黒雲が切れ間を作りドクロめいた月が広大なプランテーション施設をギラギラと照らし出した。目標は見えた! ヘルカイトはその顔から不敵な笑いを消し、最も困難な着陸に向けてカラテをみなぎらせた。 四拾七

2016-03-07 21:22:26
SUMIYU @SUMIYU1987

標識LEDの消えた施設滑走路を視認。施設指令センターからは未だIRC応答なし。事故か? 滑走路約1.7km先。高度約1km。北東からの風。西より突風!こらえよ! Booooow! 進路維持!約1.5km。 南風!降下開始! 姿勢制御!制御!制御!こらえよ! 四拾八

2016-03-07 21:30:40
SUMIYU @SUMIYU1987

姿勢制御!こらえよ!こらえよ!こらえよ! Bow! Bow! Boooow! 着陸!ギャギャギャギャギャ! ヘルカイトのテック・ブーツのローラー機構が展開、滑走路を舐める! 内蔵ショック・アブゾーバーが起動してなお凄まじい着地の衝撃を彼のニンジャ・脚力が受け止める! 四拾九

2016-03-07 21:34:53
SUMIYU @SUMIYU1987

この狂ったニンジャは滑走路上を1500mほど滑りながら凧をたたみ、ブーツのローラー機構を解除した。彼はメンポの奥で荒い息をつきながらしばらくドクロめいた月を眺めていた。 伍拾

2016-03-07 21:39:32
SUMIYU @SUMIYU1987

プランテーション施設内は無人だった。作業員や歩哨はみな非難したのであろうか? それにしてもIRC通信に返答がないのも不可解だ。 この施設は古い建造物群ではあるが、低層建築であることが幸いし、さしたる被害はなかった。ヘルカイトは防護扉を開け、サケ・ライス栽培ドームに入った。 伍拾壱

2016-03-07 21:44:01
SUMIYU @SUMIYU1987

ドーム内は外の暴風雨が嘘のように静かであり、オーガニック・サケ・ライスはすくすくと育っていた。これらのサケ・ライスはソウカイヤ首魁ラオモト=カンのみに献じられる最高級アーチ・ギンジョサケとしての将来が運命づけられているエリート中のエリートライスだ。 伍拾弐

2016-03-07 21:48:17
SUMIYU @SUMIYU1987

彼は栽培ドームの無事を確認すると、地下のサケ工場へとつづく鉄骨階段を降りた。ここにラオモト=サンのサケがある。これを運んで帰らなければならない。案の定工場内の作業員は一時退避しているようであった。人気がない。彼は倉庫に続く廊下を進み、「関係者のみ」と書かれた扉を開けた。 伍拾参

2016-03-07 21:53:56
SUMIYU @SUMIYU1987

天井3mほどの薄暗い室内には所狭しと最高級サケが並ぶ。その中でも醸造過程での出来不出来によってさらにランク付けがなされ、ラオモトの口に入るのはその最も優れたものだけだ。ヘルカイトは全身から雨滴を垂らしながら 棚の一角に歩み寄り、最高級品を探した。 伍拾四

2016-03-07 21:59:52
SUMIYU @SUMIYU1987

彼はサケ・ビンをあらため、その中に「天下無双」と仰々しくショドーされた黄金ラベルのものを認めると、室内にあった保冷ケースに入るだけ詰め込んだ。 サケ工場を出ようとした彼は暗い廊下の片隅で異様な気配を感じ、暗闇の中を凝視した。死体だ。いつも見ている顔。クローンヤクザだ。 伍拾伍

2016-03-07 22:04:53
SUMIYU @SUMIYU1987

クローンヤクザは胸をむごたらしく貫かれており、そのバイオ血液はすでに赤くなっていた。(襲撃か?)ヘルカイトの顔に緊張が走る。指令センターからの返信も依然ない。彼はドス・ダガーを抜くと周囲を警戒しつつ無言で敷地内の中心部にある指令センターへ向かった。暴風雨が再び打ち付ける。 伍拾六

2016-03-07 22:09:18
SUMIYU @SUMIYU1987

指令センターのシャッターを開け、彼が見たものはまさにブッダ・デーモンの跋扈する地獄絵図そのままの光景であった。UNIXデッキや床を埋め尽くす大量の死体。破壊された調度類。そして、ニンジャの首。ゴウランガ!その首は恐怖に歪んだ表情のまま槍に突き刺され、屹立していた。 伍拾七

2016-03-07 22:15:08
SUMIYU @SUMIYU1987

このニンジャの名はペネトレイター。ソウカイ・ニンジャの手練れであり、ヤリを自在に操るカラテ強者だ。そしてクローンヤクザの軍勢が、まるで自然災害に押しつぶされたかのように無慈悲に殺されていた。ヘルカイトは身内から湧き上がるむかつくような寒気を押し殺そうとした。「死神...」 伍拾八

2016-03-07 22:19:38
SUMIYU @SUMIYU1987

彼は後ろを振り返った。首から緑のバイオ血液を流し、死にゆく一体のクローンヤクザが彼に訴えた。「死神」そして力尽き、血の海に沈んだ。(死神...まさか)ヘルカイトの顔が曇る。 「Wasshoi!!!」 遠くから彼の耳を聾する暴風の唸りは、確かにそう聞こえた。 伍拾九

2016-03-07 22:23:58
SUMIYU @SUMIYU1987

弾かれたように指令センターを出た彼が一瞬見たものは、ドクロめいた月に照らされた跳躍する赤黒のシルエットであった。その者はたけり狂う暴風めいて闇に姿を消した。やがて雲は月を隠し、全ては静かに暗闇に溶けたが、彼の心臓は不気味なほど大きく鼓動していた。彼はしばらく立ち尽くす。 六拾

2016-03-07 22:30:32
SUMIYU @SUMIYU1987

力なくブレーサーの通信機を起動した彼は、サケ運送ミッションの経過と、この極めて不可解な事件についての報告を素早く行った。 # 6GATES: GATEKEEPER: 襲撃の件は別動隊が調査する。ご苦労であった。即刻帰投せよ。 # 6GAETS: HELKITE: 了解。 六拾壱

2016-03-07 22:38:41
SUMIYU @SUMIYU1987

風雨はまったく収まる気配がなかったが、彼は大過なく帰還を果たした。大きな保冷ケースを抱えながら、巧みに凧を操り、突風に乗り、トコロザワ・ピラーへ。ただ、彼の表情は硬くこわばっていた。死神...赤黒の影... この暴風雨よりも恐ろしい災害の予感が彼の心を冷たくつかむ。 六拾弐

2016-03-07 22:46:59
SUMIYU @SUMIYU1987

トコロザワ・ピラーに帰投した彼はラオモト=カン直々に呼び出しを受け、サケの入ったケースを抱えてずぶ濡れのままはせ参じた。この大災害を利用したビジネスの手はずを早速整えたラオモトはいつになく上機嫌であり、両脇に一糸まとわぬ金髪のオイランを侍らせスシを口に運んでいた。 六拾参

2016-03-07 22:52:47
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトがケースを差し出しドゲザすると、ラオモトはすっくと立ちあがって吼えた。「遅いぞ!!!」そしてヘルカイトの肩をしたたか叩いた!吹き飛ぶヘルカイト!フスマを破って隣室へ!「ムッハッハッハ!よく飛んだ!褒美とオイランをとらせよ!」 六拾四

2016-03-07 22:55:51
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトはフスマの穴からラオモトの居室に這って戻ろうとしたが、それは怒号によって制された。「下がれ!一度の手柄に浮かれるでないぞ!ミヤモト・マサシも『勝ったらあえてヘルメットを2つかぶれ』とコトワザに詠んでおる!次の指令に備えよ!」ヘルカイトは再びドゲザし、退室した。 六拾伍

2016-03-07 23:00:25
SUMIYU @SUMIYU1987

彼は任務を終えた。目的も、手段も、狂ったミッションには違いない。だが彼は満足だった。(ラオモト=サンのために...)廊下を進む彼の後ろから哄笑が響く。退出の際に目に入った、二人のニンジャの燃えるような憎悪の目さえ、彼の喜びをかき乱すものではなかった。 六拾六

2016-03-07 23:04:32