桃【フルーツソングシリーズ④】

おくらくん×桃(槇原敬之)で、ちょっと切ないフルーツ(を目指した)
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かおり @orange_shake_

【桃・1】 うわ、たっか! この時期、贈答品しか置いてへんから当たり前っちゃ当たり前か。 思ってた以上の値段だった箱入りの桃を、驚きはしたけど躊躇うことはなく手に取る。 こんなもんで許してもらおうなんて思ってへんけど。 思ってへん…本当に? じゃあこれは、何のため?

2016-02-19 22:15:41
かおり @orange_shake_

【桃・2】 最後に彼女の笑顔が見たいから。 せめて、謝りたいから。 綺麗事の理由なんていくらでも並べられるけど、どれもしっくりこーへん。 結局、こんな物の力にすがってでも俺はやっぱり自分が救われることしか考えてへんのやと思う。情けないけど。 ***

2016-02-19 22:15:49
かおり @orange_shake_

【桃・3】 *** 「来年、留学するんだ」 眩しいほどの笑顔で彼女が俺に告げたのは、半年前。 出会ったときからいつかは留学したいっていう彼女の夢を聞いとったから、驚きはせんかった。 夢が叶って良かったなぁ、ぐらいにしか考えてへんかった。

2016-02-19 22:16:00
かおり @orange_shake_

【桃・4】 でも、その日が近づくにつれてちょっとずつ俺らの関係は変わっていった。 正確には、俺だけが。 短くて1年、もし向こうの生活や勉強が合えばそのまま向こうの大学院に進学する。いい就職先が見つかれば、そのまま海外で働くかもしれない。

2016-02-19 22:16:08
かおり @orange_shake_

【桃・5】 彼女が伝えたその事実が、彼女にはそんなつもりないのわかってるけど俺には別れ話を突きつけられてるように思えて。 だって俺は、追いかけられへん。 ほんまにほんまに好きやけど、そこまでの勇気がどうしても出んかった。

2016-02-19 22:16:18
かおり @orange_shake_

【桃・6】 夢に一生懸命手を伸ばそうとする彼女を助けるどころか、勉強や準備の邪魔をしたり、わざと傷つけるようなこと言ったり。 愛してるとか抱きしめたいとか。 そんな言葉は彼女に俺の不安や寂しさを押し付けて、俺に縛り付けるものにしかならなかった。

2016-02-19 22:16:28
かおり @orange_shake_

【桃・7】 いつも素直な気持ちを俺にまっすぐぶつけてくれる彼女。 俺も彼女みたいに愛したいって思ってたのに、俺は年上なのに頼りがいもなく情けない。 *** 『行かんといて』 ついに、先週。 我慢の限界を迎えた俺は、彼女に1番言ってはいけない言葉を言ってしまった。

2016-02-19 22:16:38
かおり @orange_shake_

【桃・8】 それまで俺がどんなにひどいこと言ってもいつも笑ってた彼女が、その時初めて俺の前で泣いた。 「ごめんね」 それが、全ての答えだったような気がした。 それから彼女からの連絡はなく、自分が生きてんのか死んでんのかもわからへんような1週間を過ごした。

2016-02-19 22:16:46
かおり @orange_shake_

【桃・9】 そんな俺はあっさりとギブアップして彼女に連絡をとった。 会いたい、と。 何を伝えたいのかわからへん。 俺も、 「私も会いたい」 と返信を送ってきた彼女も。 *** 『…久しぶり』 着々と引越しの準備が進んで、段ボールの山と殺風景な彼女の部屋。

2016-02-19 22:16:56
かおり @orange_shake_

【桃・10】 「やだ、なんて顔してんの。イケメンが台無しじゃん!ちゃんとごはん食べてるの?」 何もなかったみたいな顔して近寄ってきたけど、彼女の声も、俺の頬に当てられた小さな手も、小さく震えてる。 『…食べられへん』 桃の箱をそっと床に置いて、小さな身体にしがみついた。

2016-02-19 22:17:06
かおり @orange_shake_

【桃・11】 『お前おらな、食べられへん。笑われへん。こんなん情けないしかっこ悪いし、困らすだけってわかってんのに俺、』 「…もぉ、困ったなあ」 冷たい手が、俺の頭を撫でた。 「年上なんだから、行ってこいよってどーんと構えといてよね。だいたいさ、不安なのは私の方だよ?」

2016-02-24 23:05:44
かおり @orange_shake_

【桃・12】 「知らない街で、どんなことが待ってるかわからない。そりゃあ自分が行きたくて行くわけだけど、こんな寂しがりな彼氏じゃいつ日本で浮気されるか不安でしょうがない!」 『…?』 浮気? 誰が?俺が? え、それは、 てことは、 『別れへんの…?』 「え、別れるの?」

2016-02-24 23:05:49
かおり @orange_shake_

【桃・13】 今度は彼女の瞳が揺らいだ。 そんな顔させたくなくて、めちゃくちゃに唇を塞いだ。 『別れへん。絶対別れたない。でも…ええの?待ってても』 「ぷっ…(笑)。まるで女の子のセリフだね!私は、待っててほしいなって思ってるよ」 俺の大好きな笑顔で、そう言った。

2016-02-24 23:05:55
かおり @orange_shake_

【桃・14】 『ええの、ほんまに?俺、お前の夢より自分が寂しいとかそんなんばっかり言うてたし、かっこよくどっしり構える余裕なんかないし、なんかもう…女々しいし、』 「ふふっ。ヘタレだしぐーたらだし可愛い女の子大好きだし?もう、ダメなとこばっかだよ(笑)。でもね?」

2016-02-24 23:06:00
かおり @orange_shake_

【桃・15】 俺の目に溜まった涙を柔らかいハンカチで拭いてくれて。 「そんなことで嫌いになれるわけがない」 そう言って、笑った。 「自分がその程度の気持ちしか持てない相手から好きって言われても、私は嫌だし」 ほんまに、年下の女の子とは思われへんぐらい大人で、男前。

2016-02-24 23:06:06
かおり @orange_shake_

【桃・16】 でもその言葉を聞いて、俺も覚悟ができた。 『…せやんな』 1人では感じられなかった気持ちが、君のおかげで、僕の中で実る。 『待ってるから。頑張ってこいよ』 心の底から、そう思えた。 最初からそう言えたら良かったのに。 「…ありがとう。」

2016-02-24 23:06:11
かおり @orange_shake_

【桃・17】 こんなに幸せなことやったなんて。 「あれ?何だこれ」 彼女が足元の紙袋に気づく。 『あ。桃、買ってきた』 「えー!嬉しい!高かったでしょ」 『いや、そんなでもないで。好きやろ?また好きなときにでも食うて』 「え、たーくんも一緒に食べようよ。好きでしょ?」

2016-02-24 23:06:17
かおり @orange_shake_

【桃・18】 「今剥くからさ、座ってて!」 『…(笑)』 大好物なんやから、独り占めしたらええのに。 彼女はいつもそうやって、俺に幸せを分けてくれる。 「お待たせしましたー!」 季節外れの桃は俺が思ってたよりずっとずっと、甘く香った。 【おしまい】

2016-02-24 23:06:22