真・マグロ ~地球最後の日~ #3

歴戦のオッサン元帥って王道ポジションはやっぱり欠かせないと思うの
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劉度 @arther456

オートロ島が沈み始めた。いびつな機動要塞は先程までの抵抗をやめ、大渦を引き起こしながら海の底へと沈んでいく。不幸にも島の周辺にいたマグロ、深海棲艦、イルカ、ペンギン、全て渦の中に飲み込まれていく。遠くにいた仲間たちは、その惨状を見て呆然とするか、逃げ出すかのどちらかであった。

2016-03-16 22:09:04
劉度 @arther456

「目標、沈黙」「追撃戦に移るぞ」大物を撃破しても、グロース・シュトラールのブリッジは『蔵王』のように大騒ぎしない。厳粛に、次の作戦行動へと移る。だが、そんな彼らの中にも、武勲への密かな興奮が宿っていることは、ホラニアの力強く握りしめた拳からも明らかだった。

2016-03-16 22:12:06
劉度 @arther456

飛行場姫2号こと14姫が、口にバームクーヘンを突っ込んで倒れていた。「先生、バナナはおやつに入りますか」チョロ姫は景品を手に提督に詰め寄っている。「まず遠足はもう終わったからね?作戦終了だから」「そこを何とか、ロスタイムを」「それはサッカー。今やってたのは野球でしょ?」

2016-03-16 22:15:06
劉度 @arther456

「ハムッ、ハムハムハフッ!」マグロヤブをホームランした1姫は、ボーナスポイントで1位になり、箱一杯のジャガイモを頬張っている。実に幸せそうだ。その横では、景品に不満なトゥッティがおそ姫を3秒に1回のペースで叩き続けていた。「何をするだぁー!」「このおにぎりが鮭だからちくしょう!」

2016-03-16 22:18:03
劉度 @arther456

「ちくわしか持ってねえ……」ビリっけつになったカラ姫は、ちくわを片手に途方に暮れている。そこに、揉み合ったトゥッティとおそ姫がぶつかってきた。「何すんねん」「よりによってこのにぎり飯がイクラだから……」「うるせぇ!」キレたカラ姫がトゥッティの顔に強烈なローキックを見舞った。

2016-03-16 22:21:02
劉度 @arther456

「お?ガチか?ガチなのかコノヤロー?」「うりうり」ちくわでトゥッティの顔をはたくカラ姫。それが乱闘の合図になった。たちまち、マンガのように砂埃が舞うケンカが始まる!「乱闘だー」「のりこめー」他の姫たちも食事の手を止め、騒ぎに乗じて砂埃に飛び込んだ。

2016-03-16 22:24:01
劉度 @arther456

「あーあーあー……全くもう」わちゃわちゃし始めた姫たちをまとめる事は諦め、提督は甲板の反対側に目を向ける。『蔵王』に横付けされたスクラップ漂流船。それを運転してきた集積地棲姫と龍驤、隼鷹、そして北方棲姫が、別れの挨拶を交わしていた。

2016-03-16 22:27:02
劉度 @arther456

「本当に行くん?」「うん。西方海域に行くよ」「別にウチに来たってええんやで?」「……いつまでも龍驤に迷惑はかけられねーし」「せやけどなあ」「あっちのガキどもの面倒も見ないといけないしな。深海棲艦が増え過ぎたら、いくらなんでも提督の立場がないだろ?」

2016-03-16 22:30:10
劉度 @arther456

「……分かった!しゃーない!ほっぽ、やなかった、しゅうちゃんが決めたことならしゃーない!けどな、あんまり夜更かししたらアカンで?」「はいはい」「朝ご飯も毎日食べるんやで?」「分かってるよ!……龍驤も、無茶しすぎて怪我すんじゃねえぞ」「なんや、ウチの事なら大丈夫や!」

2016-03-16 22:33:03
劉度 @arther456

「隼鷹もありがとう」「いいってことよ」提督が話を聞いた限りでは、隼鷹は勝手に家に上がり込んで酒を飲んだだけなのだが、あの姫には感じるところがあったらしい。挨拶を交わした姫は、リフトに乗って海に降りていった。下に停めてあるスクラップボートでは、魚雷艇群たちが待っていた。

2016-03-16 22:36:01
劉度 @arther456

スクラップボートが、ゆっくりと『蔵王』から離れていく。北方棲姫はそれをじっと見つめている。手にはゼロ戦のプラモデル。集積地棲姫が直してくれたそれは、継ぎ目一つ無く見事に直されていた。なぜ、集積地棲姫が家出した北方棲姫を拾ってそんなことをしたかは、わからない。

2016-03-16 22:39:01
劉度 @arther456

「結局何だったんだろうな……」提督が、ポツリと呟く。集積地棲姫は、最後まで自分の出自を語らなかった。未知の深海棲艦。彼女を見送ってよかったのだろうかと、今一度考える。しかしもう決めたことだ。後悔しても仕方がなかった。

2016-03-16 22:42:09
劉度 @arther456

「提督。こちらにいましたか」不知火が近づいてきた。「どうしたの?」「グロース・シュトラールの応急処置が完了しました。これで横須賀へ向かえます」「よしっ!それじゃ、横須賀に向かおう!」「了解しました」『蔵王』はゆっくりと動き始め、はるか北にある横須賀鎮守府を目指し始めた。

2016-03-16 22:45:04
劉度 @arther456

「……はっ」甲板では、飛行場姫たちの喧嘩がようやく終わり、マンガみたいな砂埃がようやく晴れたところだった。残ったのは一人。飛行場姫ではない。「……あれ?」しげしげと自分の姿を確かめるのは、いつもの港湾棲姫だった。

2016-03-16 22:48:04
劉度 @arther456

【真・マグロ ~地球最後の日~】#3おわり#4へ続く

2016-03-16 23:04:06