ストレイトロード:ルート140(18周目)
- Rista_Bakeya
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辿り着いた街は既に街の形を成していなかった。「まず人間同士が争って。みんなが疲れて弱った頃に、何かが要塞を横取りしに来た」藍は図書館で得た知識を読み上げながら瓦礫の上を歩いた。紛争の痕が侵略の跡に踏み荒らされ、元々の姿どころか何に襲われたかも判らない有り様を西日の下に晒している。
2016-02-15 21:16:34140文字で描く練習、878。紛争。 何かを作る争いと、何も作らず消耗するだけの争いは、意味も余波も違う。
2016-02-15 21:16:41例の怪物の多くが洞穴や建造物に潜り込み寝床を得る中、ある個体は岩盤を割って住処を造った。それが居着いた山は森を減らし、川を曲げ、やがて雨を洪水に変えた。付近の人間も動物も大きく数を減らした。「でもまだ完成じゃないみたい」藍が風の証言を伝える間にも、双眼鏡の中で一本の木が倒された。
2016-02-16 20:19:21藍は本来教室で学ぶ全科目を自習課題だけで済ませている。だが担任へ送った宿題の出来に問題があったようで、補習を課すとの通知が届いた。私も加わった説得の末、藍は宿の一室でモニター越しに担任と対面したが、開始早々「質問がある」と切り出した。「呼び出すためにわざと宿題難しくしたでしょ?」
2016-02-17 19:54:25140文字で描く練習、880。補習。 単純に考えると、素人よりは専門職から教わった方が良いという面はある。 もちろん他の側面もある。
2016-02-17 19:54:30今日も藍の表情はよく変わる。晴れた空を喜んでいたかと思えば、衣服の摩擦で発生した静電気に腹を立てている。「この電気って溜めておけないの?」ドアノブに放電した指先を撫でながら私に尋ねた藍は、何かを企む顔に見えた。「どうせなら誰かに押しつけたいじゃない」人との摩擦まで起こすつもりか。
2016-02-18 20:21:33私達の行く先に出没する黒服の集団は、意外に組織内の争いが深刻らしい。「わざと情報流してみたら」その相手が対立する派閥の密偵だったという。風の魔女が欲しいという目的が同じでも、その先に求めるものが違えば簡単に火花が散る。「予想以上に混乱してて面白い」笑っていられるのは藍本人だけだ。
2016-02-19 20:33:37140文字で描く練習、882。密偵。 藍の敵は大きく分けて二つ。 言葉が通じない相手と、通じるから面倒な相手だ。
2016-02-19 20:33:44「こっそり飛行機作って逮捕だって」藍が買った新聞の一面に、風の魔女より無謀な人間がいた。現政府は人類と怪物の衝突を避けるためにあらゆる飛行手段を禁じているが、いつの時代も上の決定に逆らう者は現れる。「問題はそれが本当に飛べたか…残念、書いてない」藍はつまらなさそうに新聞を畳んだ。
2016-02-20 19:55:38街を発った頃から一台の不審車が私達の後をつけてきた。何度か撒こうとするも失敗、やがてカーチェイスに発展し、終いには警察に止められた。「あんなのを振り切れないって」相手の連行を見送った後、藍の不満は私に向いた。「この免許本物なの?」警官に提示したはずの免許証を何故か藍が持っている。
2016-02-21 21:07:44ある町に数日滞在する間に、藍は宿の看板猫と仲良くなっていた。出発前夜、地図を広げて次の旅程を確認する時も、大人しく抱かれた猫の柔らかそうな腹を揉んでいた。「ここは必ず通る、と」「もちろん。だってそこに…っ!」藍は悲鳴を辛うじて堪えた。何が起きたかは手についた赤い歯形が示していた。
2016-02-22 19:46:05魔女の操る風が軍の攻撃を妨げた。作戦を仕切った隊長とその部下が藍に批判の矢を浴びせる。「何故風を呼んだ。何もするなと上から言われただろう」「あなたに指示されたからですけど」藍の携帯端末から隊長の怒声が流れた。青ざめた当人が非難の矢面に立たされる間に、藍は私の上着を引いて退室した。
2016-02-23 20:50:54信号待ちの間に、私の名の由来を問われた。藍が暇潰しで私に答えにくい話を振るのはいつもの事だ。「隠れたい人にわざわざ珍しい名前なんて選ばないでしょ。目立つし」藍は名を上書きした友人の意図に興味があるらしい。私は内心ほっとした。本当に由来を語るなら現代物理学の話から始める必要がある。
2016-02-24 20:07:25丘の上に旗を掲げる人がいた。私達に村の中を案内していた住民がそれを見て呟いた。「今日は収穫を急いだ方が良さそうだ」人間と怪物が農作物を巡り争うこと十年以上。この村では被害記録と日々の天候を元に、言わば襲撃予報を試みているという。「もっと詳しく教えて」藍の目がいつになく輝いている。
2016-02-25 20:39:09ある日訪れた街は議会の選挙中だった。だが街頭では候補者同士の罵倒合戦ばかり目立った。「誰が横暴だって?」「力でねじ伏せれば済むと思ってる。あの魔女みたいに!」叫んだ女がつむじ風に飲まれた。静まり返った聴衆の中で藍が一言。「堂々と悪口言うお仕事って楽しそうね」後にその女は落選した。
2016-02-26 19:09:18