アンヴェイル・ザ・トレイル #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アンヴェイル・ザ・トレイル】#1 続き

2016-03-17 22:29:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……10月10日は、スターゲイザーが滅び、キュアが斃れ、政府を私するアマクダリ・セクトの陰謀と「12人」の醜聞がバラ撒かれた決定的な一日だった。その夜が明けると、空には黄金の立方体が浮かび、01の風が吹く世界が待っていた。ハイジャック放送の狂騒は、世界の異常によって上書きされた。

2016-03-17 22:34:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアとの約束を果たしたニンジャスレイヤーは戻らなかった。彼自身のイクサを再開したのだ。それから約一週間、ニチョームは平穏だった。アマクダリは戦略的にも戦術的にも大きな損失を被り、マイノリティ・ヘイヴンを相手に消耗戦を継続する事は出来ない……それはある意味真実だった。

2016-03-17 22:39:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし、アマクダリが……システム・アルゴスが、「望ましいフラットなネオサイタマ」から外れる者達の砦を、そのまま見過ごす事はなかった。アルゴスはネットワークを制していた。一個の巨大なニューロンが、ヨロシサン製薬・オナタカミ・ネオサイタマのダイサン・セクタ企業の研究を完成させた。

2016-03-17 22:43:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは「ペイガン」と呼ばれていた。彼ら自身がそう呼称していた。つまり、あの異変から一週間経った頃に、再び制圧に現れた者達が。ペイガンはニンジャだった。だが、シルバーキーの曰く、「おかしな連中」だった。

2016-03-17 22:48:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

おかしな連中……おかしなニンジャソウルを宿した脳改造者。システム・アルゴスの演算能力によって電子的に生成された擬似的なニンジャソウルを憑依させた、いびつな戦士たち。雲をつかむような仮説の中で、比較的筋が通っていたのが、それだった。01の風は抵抗者達を嘲笑うように吹きすさんだ。

2016-03-17 22:52:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

壮絶で、不気味なイクサだった、当然ヤモトもカタナを手にとった、そして10月10日の包囲戦の噂を聞きつけ、加わった、何人かのニンジャ達も……彼らは襲い来るペイガン達に打って出た……イクサ……カラテ……カラテなんだ……「ヤモト=サン!戻れ!もう時間が……」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

2016-03-17 22:58:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ストーンコールド……アルデバラン……そして、ペイガン……ペイガン……ペイガン……まだ名前を与えられていない生まれたてのニンジャたち……「ヤモト=サン!」シルバーキーの叫び……ヤモトは二刀流……戦う……戦う……負けない為に……街の為に……「始まるぞ!」

2016-03-17 23:01:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「逃がさん」ストーンコールドはヤモトを遮る……カラテ……アルデバラン……ペイガン……ペイガン……「畜生!いいか!通信手段を確立しろ!」シルバーキーの声が届く……「通信手段だ!ああ、時間が!」「イヤーッ!」真っ直ぐに飛翔してきた梟頭の魔人が割って入り、ヤモトを掴んだ。

2016-03-17 23:06:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストーンコールドとアルデバランは1秒後に発生する異常事態をニンジャ第六感によって察知。攻撃を中断、バック転で後退した。梟頭のフィルギアはヤモトの首元のマフラーを掴んだまま、彼らとは違う方向へ跳んだ。その直後、ニチョームはノイズの中に消失した。ペイガン二体が呑まれ、腕や足が落ちた。

2016-03-17 23:08:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「通信手段……」「ああ。奴から多少聞いてる」ヤモトを掴んだまま、フィルギアはビル屋上を7つは飛び渡った。「手段」「ああ。手段」「確立」「そう」「確立しないと……」「ダイジョブだって」「しないと!ンアーッ!」ヤモトは跳ね起きた。フィルギアは生返事をしながら机で書きものをしている。

2016-03-17 23:13:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

床には白いチョークで線が引かれ、テント布で雨除けされた屋上空間を二分している。フィルギアは線の向こう側に壊れかけのデスクを置き、ネオサイタマの地域図に辛抱強く印をつけている。ボードに無数の写真やメモのスクラップ。ソファはヤモト側。フィルギアは彼女を気遣ってか、他所のどこかで寝る。

2016-03-17 23:16:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトはカロウシの鞘を反射的に掴んだ。ナンバンはあのとき失われた。あるいはニチョーム側に残されているのかもしれない。「寝てた?どのくらい?」「さあ……」フィルギアは生返事に付け加える。「長期戦だぜ、ヤモト=サン……気を張ってたら折れちまう……困ったセンセイだよなァ、用心深くてさ」

2016-03-17 23:20:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ヤモトは半壊の棚に並べられたオリガミを見た。今あらたな一枚がツルの形に折り上がり、そこに並んだ。悔しさから歯を食いしばり、奥歯がミシミシと音を立てた。10月10日から随分経った。ネオサイタマは驚くほどに様変わりしている。ヤモトはキョート出身だ。故郷ではない。だが、悔しい。

2016-03-17 23:29:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここはかつてフィルギアらが使っていたアジトの跡地。もぬけの殻だ。ヤモトは屋上の錆びた手すりに寄りかかり、ネオサイタマの風景を見渡す。攻撃を受けているのはニチョームだけではない。ネオサイタマがネオサイタマでなくなっていく。「俺の時代にUNIXは無くてさあ。信じないかもしれないけど」

2016-03-17 23:35:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

唐突に、フィルギアが伸びをしながら欠伸混じりに言い、ヤモトの思考を遮った。「紙とペン……いや、こんなペンもなくてさ……毛筆だったけど」指先でクルクルとペンを回し、「イヒヒ……アナログのあたたかみもいいぜ。古代のニンジャはさァ、こういう時に、こうやってアタリをつけていったのさァ」

2016-03-17 23:38:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネットワークはアルゴスに掌握されている。その凝視を逃れねばならない者が相互に連絡を取り合う術はない。UNIXの演算能力を用いることすらも危険だ。ネオサイタマのインフラを飲み込んだアルゴスがどれほどの力を持つのか、把握しきれていないのだから。「見てご覧よ」フィルギアが紙をひろげた。

2016-03-17 23:48:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あのオッサンの目撃情報を結んでいって、こういうものを作った」フィルギアは線と線の交差地点を指で示していった。「オッサン、逃げ足が速いね……もしかしたらステルスのたぐいを使うのかもしれない。トバリ・ジツなんてのもある……まあ、そんな大仰なものじゃなくてもさ……難儀したよ」

2016-03-17 23:51:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大々的な発言行為!大々的な発言行為!大々的!大々的な!」「イエイイエイウオー!」「女性器!」ギュオオー!ダーン!ダーン!ブレイクでは三人がてんでバラバラに楽器を弾き倒し、頭を振り、ギターを振り上げ、叩きつけるモーションんから、そっと下ろしてスタンドにおさめた。「最高だったぜ」

2016-03-17 23:58:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ボルタが神経質にギターの弦をクロスで拭きながら、他の2人を振り返った。「いい汗かいたナ!」ゴイはボトルに入れた私物のチャ・カクテル・サケを喉を鳴らして呑んだ。「アー……」ユウラギはドラムセットの椅子から転げ落ち、壁を背に放心した。「はは、ははは」部屋の対角で、奇妙な男が拍手した。

2016-03-18 00:02:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、そこはタタミ10枚程度の極めて狭い一室である。壁や天井には遮音材が貼り付けられ、ドアには「絶対禁煙」「置いたら戻す事」と書かれた張り紙がある。「あのさ、そろそろさ」ゴイがボルタに囁いた。「アイツ、マジで何なの?」「あのオッサン……?」「他にどいつがいるのヨ」「知らねえけど」

2016-03-18 00:06:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんかさァ……」「いいじゃねえか……オーディエンスがいると演奏にも身が入るぜ」「身を入れなくてもいいじゃんヨ。気になるよ……ヨーカイみたいで……変なタトゥーも入れてるし……」「あれタトゥーじゃねえよ……焼き入れてるよ」「もっとヤバイじゃんヨ……!」「いやあ、演奏だ」男は呟いた。

2016-03-18 00:08:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれ?ウミノ=サン来てる」放心状態から我に返ったユウラギが指差すと、ウミノは力なく笑った。「え?あいつの名前知ってんの?」「この前訊いた。だって、ユーレイとかニンジャだったら怖ええし」「だな」三人の若者は遮音ショウジ戸を開き、向かいの部屋に移動する。ウミノは自然に後に続く。

2016-03-18 00:13:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ボルタはボンボリのスイッチを入れ、真空管装置の電源を入れた。早速ゴイは蓄音機を動かした。一方、ボルタは部屋の奥にあるガラスで仕切られたブースの異変に気づいた。「あれ?誰が片付けたの?」そう、古機材コンテナの物置となっていたミキサー室である。「ああ、それは、私だ」ウミノが挙手した。

2016-03-18 00:18:30