山本七平botまとめ／【裏切者ヨセフスの役割③】キリスト教徒の始祖をアブラハムにしてしまったヨセフス

山本七平bot @yamamoto7hei

①「〔旧友〕『フラウィウス証言』か、私にはなつかしい思い出だな。そんな講義を聞いたのはもう四十年も前か。どれ、一つ読み返して若返るとするか」 「〔山本〕その本棚にある。私が読もう。」＜『禁忌の聖書学』

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②「〔山本〕『さてそのころ、イェースースという賢人――実際に、彼を人と呼ぶことが許されるならば、――があらわれた。彼は奇跡を行う者であり、また喜んで真理をうけ入れる人たちの教師であった。多くのユダヤ人と少なからざるギリシア人を帰依させた。彼こそクリーストスだったのである。』

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③『ピラトスは、彼がわれわれの指導者たちによって告発されると、十宇架刑の判決を下したが、最初に彼を愛するようになった者たちは、彼を見すてようとはしなかった。すると彼は三日目に復活して、彼らの中にその姿を見せた。』

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④『すでに神の預言者たちは、これらのことや、さらに、彼に関するその他無数の驚嘆すべき事柄を語っていたが、それが実現したのである。 なお、彼の名にちなんでクリスティアノイと呼ばれる族は、その後現在にいたるまで連綿として残っている』

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⑤「〔山本〕彼はパリサイ派だから『復活』は不思議ではない。問題にされるのは『実際に、彼を人と呼ぶことが許されるならば』だが、これを挿入として除いても別に大したことではない。また『奇跡を行う者』は『尋常でない仕事をする職人』と訳すべきだという人もいる。」

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⑥「〔山本〕ヨセフスは常に、こういうタイプの人間に警戒的で、好感を持たない人間だったからね。 …だがどう読もうと、イエスという人間がいて、それをキリストとして帰依するユダヤ人とギリシア人がおり、それが新しい『族』だとギリシア・ローマ世界に彼が紹介したことは否定できないだろう。」

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⑦「〔山本〕彼の著作活動はフラウィウス朝の庇護の下に行われ、その作品は帝国の全図書館に配布され、死後に銅像まで立てられたというから、一般人への影響は大きかったはずだ」 「〔旧友〕フラウィウス証言』がキリスト教徒の挿入ではないとユダヤ入学者が論じたのは面白い。」

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⑧「〔旧友〕またヨセフスの影響も大きかっただろう。それは認める。 しかし私はやはり、キリスト教がローマに浸透していったのは、ダマスコ回心後のパウロが、異邦人の使徒として命がけでローマ中を伝道したからだと思いたいね。」

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⑨「〔旧友〕ヨセフスについては正確な知識を持っているわけでないけど、部下をだまして自殺させ、自分だけ平然とローマ軍の捕虜になり、うまいこと言ってウェスパシアノスとティトスのお気に入りになって、同胞の苦しみを平然と眺めながら、宮廷貴族として悠々と著作にふけっていたはずだ。」

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⑩「〔旧友〕エウセビオスがどうであれ、『フラウィウス証言』がどうであれ、そんな最低人間とキリスト教は関係ない、といいたい気持になるね。 ところでユダヤ人は彼をどう見てるかね」

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⑪「〔山本〕学者は別で、ユダヤ人の『ヨセフス学者』は多いけど、普通のユダヤ人には許しがたいという感情はあるね。 確かに民族の裏切者だろう。 学者でさえ、部下を自殺させた話ね、 あれを『ユダヤ戦記』で読むと腹の底から怒りがこみ上げて来るという人もいる。 無理もないな。」

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⑫「〔山本〕さらに自分だけが生きのびたのは神の摂理だと平然といわれてはね。 だが余りに堂々とそういわれると、なるほど、こういうのを摂理と言うのかなあ、といった妙な気持になる。」

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⑬「〔山本〕彼がヘレニズム世界の人間を旧約聖書に案内し、クリスティアノイという新しい族に、自らの短い歴史を『ユダヤ古代誌』に接続させた。 いわばヨセフスは自覚せずに、教会史つまリキリスト教徒の歴史の前史を書いて、彼らの始祖をアブラハムにしてしまったのだから…」