アンヴェイル・ザ・トレイル #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンテナをどうするかな……」鉄板のカバーをどけると、近未来都市ミニチュアじみた内部基板があらわになった。埃が部屋に撒い、ユウラギが咳込んだ。「そいつをどうするんだ」「決まってる。そこの鉱石ラジオもバラして、こっちの受信機部分と置き換えて……」「まあいいや、好きにやってくれ」

2016-04-08 12:57:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

三人はミューラを置いてブースを出、小型冷蔵庫からケモビールを取り出してカンパイした。ウミノはブースに入り、ハンダ作業を開始したミューラを後ろから覗き込んだ。指示されるままあちらの機材、こちらの部品、とアシストするウミノをガラス越しに見ながら、ボルタは先程窓から見えた集団を思った。

2016-04-08 13:00:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さっき、下に赤い奴らが集まっててさ」「アナキスト?どうせいつものビラ配りだろ」ゴイはヤキトリ缶の蓋を開けた。「いや……なんか様子が違った」「どうして」ユウラギは早くも二本目のケモビール缶を開けた。「人数が多かったし、なんか……準備してるっていうか」「なんの準備だよ」「知るかよ」

2016-04-08 13:05:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大学のキャンパスには普段から「大進歩研究会」を名乗りヘルメットを被った若者が出入りし、DIYショドー看板で壁を作って撤去されたり、体育会の学生と乱闘騒ぎを起こすなど、緊迫した瞬間を作り出す事がしばしばあった。寮の人間はそれもチャメシ・インシデントとして特に関心を払ってこなかった。

2016-04-08 13:11:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一時期は過激武装組織イッキ・ウチコワシの活動も激しく、大学の試験会場がジャックされるなどの事件もあった。しかしキョートとの戦争が起こって以降、特別治安機構ハイデッカーが導入されてからは、運動も下火だった。ハイデッカーは単に疑わしいだけの人間も含め、ローラー作戦で一斉検挙する。

2016-04-08 13:20:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大学内に警察機構が入り込んでくることはまだなかった。だがそれも時間の問題だ。もしそうなっても特にそれでも構わないと、ボルタ達もぼんやり考えていた。ギターアンプに大進歩研究会の連中の拡声器の音が混線するのは嫌だったし、寮の前の庭でうるさいことをされるのも面倒だったからだ。

2016-04-08 13:28:26
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「この後どうする」ユウラギが問うた。「ウミノ=サンの機械を作ったら?なんか通信すんだろ?」ゴイは二本目の缶を開けた。「そうじゃなくて」ユウラギは少し遠い目をした。「どっか探したほうがいいのかなァ」「何がだ」「就職先だよ」「在校生の余裕だな」「親の仕送り止まったら終わりだしさあ」

2016-04-08 13:34:46
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「奴らが来る、奴らが来る、奴らが来る……クラゲめいたゴミ袋、風に揺られている……」カブラ・ノヴァの曲のクライマックスが陰鬱なアトモスフィアを倍化し、三人は自虐的な気持ちになった。「死にたいなあ」「死にてえよなあ」「死にたい」バチッ…ザザザ……音にノイズが混じった。「お、来たか?」

2016-04-08 13:39:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザリザリ……ザザザ……「こちらエート、センベイ、センベイからあなた方!」ウミノが配線むき出しの機材を押さえ、マイクに向かって大声を出した。「行っているのかね?声!」「多分ね」ミューラが腕組みしてタバコを一服した。「受信していればの話だし、今時そんな奴が……」ザザザ……ニチョーム!

2016-04-08 13:46:51
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「待った」ミューラは驚いてタバコの灰を膝に落とした。「熱ッち!今…」「私も聞いた」ウミノは頷いた。2人は顔を見合わせた。「何?進捗あった?」ゴイがブースに入った。ザリザリ……聞こえるのは再びノイズばかり。「ニチョームから応答があったかもしれない」とミューラ。「ニチョーム?マジ?」

2016-04-08 13:50:43
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「ニチョーム?ナンデ?」ユウラギも入ってきた。「何か今ヤバイ場所じゃない。なにそれ」「皆死んだんじゃないの?爆発事故か何かで。今も近づけないし」「やはりだ」ウミノは目を見開き、独り言じみて呟いた。「エーリアス=サンと導いた仮説に裏付けが……やはりカラテ鉱石……あれは副産物……」

2016-04-08 13:58:15
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ボルタはにわかに沸き立つブース内の様子を訝しみ、自分も立ち上がった。その時だ。部屋の防音ドアの取っ手が動き、グイと引き開けられた。廊下の喧騒が密閉された室内に流れ込んできた。「破壊!変革!徹底!」「エッ?」「当施設をォ!」先頭の人間がボルタを指差した。「接収する!」「エッ!?」

2016-04-08 14:04:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

外界の廊下からは破壊音と悲鳴、怒号と罵声が聞こえて来る。「我々はァ!進歩的破壊変革徹底組織!イッキ・ウチコワシである!」男が叫んだ。「破壊!」更に一人!「変革!」更に一人!「徹底!」更に一人!「なッ……勝手に入って来て何を」「徹底行使!」「グワーッ!」棒で殴られるボルタ!

2016-04-08 14:06:50
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「破壊なくして再生なし!」「殺戮なくして進歩なし!」「悲鳴なくして幸福なし!」徹底的スローガンを叫ぶ赤バンダナ・サングラス姿の戦闘員が、床に倒れたボルタに更なる打擲を試みる。「何やってんだお前ら!」「ヤメロ!」ユウラギとゴイがブースから飛び出し、戦闘員と押し合いになる!

2016-04-08 14:12:34
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「シグナル・ノイズ比が酷いが方法は間違っていないな……」ミューラは気づかず、ヘッドフォンをつけて苦闘している。ブースに入り込んだ戦闘員がいきなり彼の腕を掴み、グイと引っ張った。「退廃学生の無関心を断固徹底断罪!」「ヤメロ!」ミューラは振り払い、ハンダごてで打った。「グワーッ!」

2016-04-08 14:18:08
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「ちょっとやめないか!試験をさせなさい!」何らかの記憶混濁の叫びを発し、ウミノは怯んだ戦闘員を押し返した。「グワーッ!」思いがけぬ腕力で押された戦闘員は反対側の壁まで吹っ飛び、「ムン」防音壁に叩きつけられて気絶した。「やめないか!」「グワーッ!」ゴイ達と押し合う戦闘員を殴り倒す!

2016-04-08 14:22:24
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「やっちまえ!」勢いを取り戻したゴイとユウラギは巻き返して他の戦闘員を殴り倒した。「大丈夫かボルタ=サン」「いきなりワケわからねえ」廊下からは引き続き悲鳴と騒乱の音。先程外に集まっていた連中が学生寮に侵入して来たのか?「イッキ・ウチコワシって言ってたな?」「何なんだ」

2016-04-08 14:26:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「施設を接収とか言ってたけど……」ボルタは折れた奥歯を吐き捨て、気絶した戦闘員を見下ろした。「ウオオーッ!徹底革命!」更に一人、棒を持って飛び込んでくる!「ヤメテ!」ウミノが押し返した。「グワーッ!」そして防音扉を閉め、ロックをかける!「ハアーッ!ハアーッ!」「どうすんだこれ!」

2016-04-08 14:30:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

静寂が戻ってきた。しかし何の根本的解決にもなっていない。彼らは顔を見合わせ、戦闘員の持っていた棒やギタースタンド等で武装した。「つまり……」誰かが言いかけたその瞬間!「イヤーッ!」KRAAASH!ロックが破砕!蹴り開けられるドア!現れたのは戦闘員とは明らかに様相の違う男であった!

2016-04-08 14:34:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無駄な抵抗である!」サイバーサングラスと赤いメンポを装着したその者はボルタ達に向かって威圧的に宣言した。「当通信施設は我々イッキ・ウチコワシの重要拠点と決議されている。ゆえに退廃学生は徹底的に排除の対象である!」「何だお前…」「ダマラッシェー!」「アイエエエ!」ウミノ以外失禁!

2016-04-08 14:37:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムサン!この怪人物の叫びの神秘的な威圧力がボルタ達の心を挫いたのだ。「何だね!暴力的です!」ウミノは抗議した。怪人物はウミノに自身と同じものを感じ取った。すなわちニンジャ性を。やや訝しみながら、彼はオジギをした。「ドーモはじめまして。モジュラーです」「ドーモ、ウミノ・スドです」

2016-04-08 14:41:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やはり……事前情報を裏付ける、否、それ以上の潤沢な設備」モジュラーは呟き、部屋と奥のブースを見渡した。彼が声を発するたび、サイバーサングラスの表示は棒グラフをせわしなく上下させている。彼の右腕には無数のツマミつきの何らかのハンドヘルド・マシンが装着されている。「真空管。戦前か」

2016-04-08 14:45:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

へたり込んだミューラやユウラギを荒っぽく足で押しのけ、モジュラーはブース内に侵入した。そしてむき出しのマシンに注目した。「これは……」屈み込み、2つの機材をつなぐシールド・ケーブルの縞模様の皮膜を指先でなぞった。棒グラフが激しく動いた。「少なくとも1930年代……何たる事だ」

2016-04-08 14:51:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いけない!それに触っては!」「イヤーッ!」「グワーッ!」振り向きざまの無造作なケリ・キックで、ウミノは吹き飛ばされた。モジュラーは機材を踏み壊さぬように注意しながら、ミキサー類を確かめた。「フウーム…非常にいい」フェーダーを上下させる。「状態がいい」「アバッ……何が目的ですか」

2016-04-08 14:53:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「決まっておろう。この設備は徹底革命闘争基地だ」モジュラーは冷たく言った。「私は音響と周波数のその先を知る。貴様にはどだい理解できぬだろうが、我がジツをもってすれば、この強大な設備そのものがミサイル基地に等しい。これをもって悪逆政府とそれを支持する堕落市民社会に無差別鉄槌を下す」

2016-04-08 14:59:45