ニンジャカタナLocation#225 Chapter15『空に道 海に光.01』

現在カクヨムにて連載している『ニンジャカタナ』Twitter連載分まとめです。 以前投稿していたLocation#93はプロト版となっており、現行連載とのつながりは一切ありません。 本編は下記より! 続きを読む
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りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

今からTLで公開するニンジャカタナは、カクヨム上で公開している作品の最新話部分になります。本編はURLはこちら! kakuyomu.jp/works/11773540… それでは、しばしTLをお借りします! pic.twitter.com/ADYWMCmxkg

2016-04-10 19:24:06
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りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

ニンジャカタナLocation#225 Chapter15 『空に道 海に光』

2016-04-10 19:25:24
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

耳に響く風の音と、体表を震わせる風圧が、モローの意識を覚醒させる。 実時間にして一瞬。モローが我に返ったとき、真っ先に飛び込んできたのは少年の蒼い瞳。まっすぐに自分を見つめる澄んだ瞳が、ただ変わらずにそこにあった。

2016-04-10 19:26:26
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「私に何かしたんですか!?」 モローは少年の直視に耐えられない。声を荒げ、ことさら醜く自らを演出し、その少年、カタナへとつばを飛ばす。それは、自身から目を背けさせるため。 「なあ、おっさん――」 カタナは笑う。それは、モローが数十年見ることのなかった笑み。屈託のない笑顔。

2016-04-10 19:28:32
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

モローがたった今想起した過去の出来事。彼にとって、それは既にただのきっかけとして処理されているはずだった。 つまらないプライドや憧れ、幻想に縛られていた自分を解き放ち、勝利と利益のためならば、どんなことでも可能となった、今の自分へと変化するきっかけ――。

2016-04-10 19:30:02
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

今の私は、利のためならば生まれ育った土地を滅ぼすことだってできる。 そうだ、全ては利益のため。決してこの土地に、人々に、裏切られたなどとは思ってはいない。ただひたすらに見ていた夢を、輝きを、失望で塗り込めたオールセルを憎んでいたわけではない――そのはずだ!

2016-04-10 19:31:36
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

モローは息をするのも忘れ、カタナに向かって意味不明な言葉を吐き続けた。だが、カタナはそれを制するでもなく。ただ一言、モローに言った。

2016-04-10 19:33:03
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「おっさんの好きな食い物、教えてくれよ!」 「――は?」 まるで、鼓膜を震わせる風がその一瞬だけ完全に止んだかのよう。カタナの声は、はっきりとモローに届いた。

2016-04-10 19:34:23
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「あなたは――何を言って」  オールセルは海と山。そのどちらの幸にも恵まれた土地だ。うまいものなど数え切れないほどある。だがモローは知っている。土地勘のない観光客相手ではない、オールセルで生まれ育ったモローだからこそ知る最高の美食。

2016-04-10 19:35:12
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

例えば魚だ。慣れない人間は常に火を通そうとするが、モローからすればそんなもの、とんだ下策だ。獲れたての新鮮な魚を港で直接さばき、そのぷりぷりの切り身を――。

2016-04-10 19:35:39
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「――それ、すげえうまそうだな!」 「あ? え?」 吹きすさぶ風と暗雲。閃光によってオールセルを切り裂いたフォートレスが、その巨体をゆっくりと引き起こす。狙いは着水したラピスⅦか。それともコロニーか。 「ちょっと、どうしたの!? さっきからなにやって――え!?」

2016-04-10 19:36:47
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

フォートレスの再起動を確認したリーゼは急かすように後部座席へと視線を向けようとする。だが、その時――。 「ママー! あれみて! おいしそうなおさかな!」 「こいつと酒さえあれば、他にもうなにもいらねえんだよなあ!」 「えぇ……私これ苦手なのよねぇ」 「おいしそう……」

2016-04-10 19:38:19
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

リーゼだけではない。今この時、オールセルに存在する全ての人々が、みな一様に同じ光景を幻視した。 それはオールセルの住人なら誰でも一度は口にしたことのある料理。当然、それを好きな者も嫌いな者もいるだろう。だがそれは紛れもなく、オールセルの人々にとって思い出深い、この土地の食――。

2016-04-10 19:39:51
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

フォートレスの攻撃によって渦巻いていた風が止む。 カタナの緑光が、力を増す。

2016-04-10 19:40:27
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「へえ――ここって、そんなとこもあるのか!?」 次にカタナが尋ねたのは寝るのに丁度良い場所だ。 現われた光景はオールセルを一望する山の中腹。高地でありながら海からも近いその場所は、ほどよく湿気を失った潮風が色づいた木々を揺らす。

2016-04-10 19:42:20
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

気温も平地より遙かに過ごしやすく、日々の疲れを癒すには正にうってつけ。なにも特別なことではない。オールセルで育った者ならば、誰でも知っている暑い夏の過ごし方――。

2016-04-10 19:42:51
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

厚く垂れ込める黒雲。火の手が上がる街。その下で、人々は幾たびも過ごしたオールセルの日々へと思いを馳せる。 それと同時。荒れ狂う波の奥。暗く深い海の底から、弱々しい光が一つ、また一つと海面めがけて昇っていく。 カタナの緑光が、力を増す。

2016-04-10 19:43:46
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「なぜだ、なぜこんなことが!? やめろ! 私は――」 モローは大粒の汗をだらだらと流し、狭い後部座席の中で少しでもカタナから離れようと身をよじる。 だがカタナは構わない。ある種、恐慌状態にも似たモローをただひたすらに見つめたまま、尋ねた。

2016-04-10 19:45:00
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「じゃあさ。おっさんがここで一番好きな場所、教えてくれよ」 モローは、カタナから目を背けることが出来なかった。

2016-04-10 19:46:21
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「きれい――」 脳裏に広がったその光景に、リーゼは思わず感嘆の声を上げた。 波間に沈む美しい夕焼け。まるで、黄金を敷き詰めたかのような砂浜。そして、どこまでも広がる果てのない海と、空の青――。

2016-04-10 19:47:10
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

それは、オールセルを訪れた者ならば誰しもが目にし、心に刻むこととなる原風景。根を張る者はその美しさを明日の糧に。過ぎゆく者はまたここに来ようと誓うだろう。 そう――。 すでに色あせ、記憶から消し去ったはずの、若き日のモローが通い続けたあの浜辺だった。

2016-04-10 19:48:46
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

今、オールセルに存在する全ての人々が、モローの記憶を通じて同じ光景を目にし、思い思いの感情を想起した。そしてこの現象こそ、カタナと、彼のミドリムシに残された最後の力。

2016-04-10 19:50:10
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「――ありがとなおっさん。この場所のこと、よくわかった」 「違う! 私は憎んでいる! 人も、島も! だからクランを引き込んだ! 全部壊そうとしたんです!」 涙を流し、鼻水すら垂らして叫ぶモロー。それを見たカタナは笑い、そっとモローの肩に手を添えて、『彼ら』の想いを伝えた。

2016-04-10 19:52:01
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「おっさんは、ここのことが嫌いかもしれないけど――」 モローはカタナのその瞳の中に、目の前の少年以外の、なにかの意思を見ていた。

2016-04-10 19:53:11
りゅーるー@ここのえ九護 @Fw009

「――ここのみんなは、おっさんのことが大好きなんだよ」 瞬間――。 暗く垂れ込めた空に閃光が奔った。

2016-04-10 19:53:58