サハリンで自殺することだけが夢だった男の独白

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アドリア海 @keizi80

「それでサハリンへ自殺へ行ったのですか?」  「そうとも」  「その行程を教えてください」  「夜7時過ぎになって僕はとある大都市へとたどり着いた。そこから空港へはまだ列車で1,2時間を要するのだが、ネットで調べたところその日の便はすでに仕舞いにまっていてね。

2016-04-14 07:00:08
アドリア海 @keizi80

仕方がないからこの一夜は人生最後の遊行に費やしてやろうと、僕は繁華街へ繰り出したわけだ」  「はあ」   「それで適度に街をぶらつき歩いたわけだが、そこは貧乏人の悲しさでね、日ごろの習慣からせっかく気を大きくしているというのに特に入るような店も思いつ かないのだよ。

2016-04-14 07:00:27
アドリア海 @keizi80

それで結局僕は映画館に流れ着いた。君、都会には、地方ではとても集客が見込めないような海外の低予算映画を細々と上映するマニアックなシ アターがあるのだ」  「はあ」

2016-04-14 07:00:40
アドリア海 @keizi80

「都会で人生最後の冒険をするならもうむしろここしかないと、その ときだけ僕は感情らしい感情を取り戻し、頬を染めて乗り込んだのだがね、追い返された。座席はもう埋まっているのだとね、無愛想な受付バイト嬢が、映画を 見たければあと2時間待てなどといってくるではないか」  「はあ」

2016-04-14 07:00:54
アドリア海 @keizi80

「それで僕は実にどうしようもなく惨めな気持ちになって、再び行く当てのない夜の裏路地に放りだされた。散発的に小雨が発生し、そのつど頭や肩を濡らしていったが僕はかまわず放浪したよ。自転車による通勤生活で雨に捕まるのは慣れっこになっていたからね。結局僕のような社会不適合社は、

2016-04-14 07:03:31
アドリア海 @keizi80

雨に降られれば成すすべもなく、ただ俯いたまま、濡れそぼって歩くしかないのだ。傘を差して歩く者や、屋根付きで完全防水の施された車に乗車する 者達の好奇の目、愉悦の視線に晒されながらね。子供のころからそうだったんだ。大人になればそんな性からも逃れられるものと信じていたんだが、

2016-04-14 07:03:58
アドリア海 @keizi80

結局実現し てはくれなかった。死地に赴く前の最後の夜だってそうだったんだ・・。まあその中でも、最初のうちは2時間くらいなら待ってやろう、二時間待てば人 生最後の饗宴が幕を開けるのだと、わずかに残った高揚感に必死に薪をくべながら、僕は雨粒に歪むネオン街をまっすぐ泳いでいた。

2016-04-14 07:04:31
アドリア海 @keizi80

だが最終的に僕は、その映画館には戻らなかった。いや戻ることができなかった。またあの受付嬢に顔をあわせるのが億劫でね。彼女ときたらまるで君みたいに客に対して毒のある小癪なバイトではないか。何が悲しくてあんな過疎映画館が満席になったりするものか。

2016-04-14 07:05:20
アドリア海 @keizi80

ああいうところは僕のように見識の高い少数の上級映画ファンを受け入れてどうにかこうにか経営が成り立つものなのだ。僕はあの手の類のシアター で、両隣に他の客を確認したことは終ぞないよ。要するに彼女は見てくれで人を選んだのだ。外見上のみすぼらしさ、覇気のなさ、情緒不安定性・・・・・

2016-04-14 07:05:48
アドリア海 @keizi80

それらの情報を総合しどうせ僕が借金を抱えた頭のおかしなの無職だと察して、退屈しのぎの差別を仕掛けて悦に浸っていたわけさ。実に残忍な女だ。君に近い色合 いを持つサディストだよ。僕は昔から一貫してそういうやからが大嫌いだ。人を痛めつけることでしか自らの心を満たすことのできない性悪は

2016-04-14 07:06:34
アドリア海 @keizi80

実際のところ本当 の意味でこの世の最下層だと思うよ。この僕よりすら問答無用で下なのだ。まあ概してそういうやか らに限って地位や年収は高いものなのだが・・・。君、僕はこういう人生を送ってきたものだから、人の悪意にだけは敏感なのだ。

2016-04-14 07:07:10
アドリア海 @keizi80

どんな巧妙な詐欺師であってもこの僕の目を前に内なる 毒 心を隠し切ることはできないのだよ。彼女からはその気配が、通りを跨いだ反対側の店の暖簾の下まで濃厚に漂ってきていた」  「はあ」

2016-04-14 07:09:04