第4話「序章」 パート3

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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ その時には 既に歪んでいたのかもしれない ___

2016-05-16 21:00:32
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4-3-1 日野原家の朝。早朝に悪夢で起きてしまってからは上手く寝付けず、綾香は最悪な気分のまま朝食をほおばる事になっていた。 「随分眠そうな顔をしてるのね」 余程酷い顔をしていたのか、母親にもあっさりと見抜かれる。 「ん゛~…ちょっとね…変な夢を見ちゃってさ」

2016-05-16 21:00:47
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4-3-2 そう言った途端、母親も、父親も、更には隣で食事をしていた兄までもが「え?」というような顔で綾香の方を見つめる。 「綾香もなの?」「父さんも?」「母さんもか」 どうやら夢を見たのは綾香だけではないらしく、皆驚いている。 「でも、そんなに寝覚めの悪い内容じゃなかったな」

2016-05-16 21:01:08
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4-3-3「私もそう。良く覚えてないけど、自分が水の上に立ってるようなそんな夢だったと思う」「あれ、母さんもそうか…?」 水の上。綾香の頭に今朝方見た夢の光景が俄によみがえる。 「ほ、他に何か見たものとかない!?」 「どしたの慌てて…他にって言われても、ホントにそれだけの夢よ」

2016-05-16 21:04:18
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4-3-4「俺のはちょっと違ったなぁ、同じく水の上には立ってたけど、自分の知らない色んな海を渡り歩いているような、そんな感じだったと思う」 両親の反応を聞いて、大智も続く。 「綾香はどんな夢?」 「…皆と同じ。水の上にいたよ 何か暗くて嫌な感じだったけど」 綾香は不服そうに言う。

2016-05-16 21:04:28
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4-3-5「皆同じような夢を見たのか?不思議な事もあるもんだな…」 皆が不思議そうな顔をする傍ら、綾香は食パンに噛みつきながら夢の内容に頭を巡らせる。 …皆も同じような夢を見たみたいだけど、私のは違う そんな気持ちのいいものじゃない。 もっと暗くて、熱くて…熱くて?

2016-05-16 21:08:22
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4-3-6「綾香?」どんな顔をしていたのだろう。ハッと気付くと、家族全員が心配そうに綾香の顔を覗き込んでいた。 「ううん、何でもない。大丈夫」 誤魔化すように手に残っていたパンをほおばると、話がそれ以上続かないうちに急いで部屋に戻った。 よく分からない、が、話を続けたくなかった。

2016-05-16 21:08:32
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4-3-7「…正月にをがみたてまつらむとて、小野にまうでたるに、比叡の山のふもとなれば…」 5時間目、古文の授業。そもそもに苦手な人間が多い課目なうえに午後という事もあり、 眠気でぼーっとした表情をしている生徒がとても多い。綾香も例に漏れずその一人だった。

2016-05-16 21:11:28
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4-3-8 (…一日中集中出来なかったな…) 朝荷物をまとめた時に一緒にポケットに突っ込んできた昨日の石のペンダントを指先でいじりながら、ぼんやりとした頭で授業を聞く。 結局今朝見た夢は何だったのだろう? 家族全員が似た夢を見た中で、私の見たものは何だったのだろう?

2016-05-16 21:11:43
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4-3-9 …そこは一寸先も見えない暗い黒い水の上。 それなのに周りは眩しくて、何かが迫ってくるようだった。 燃えている。 そう、煌々と海を照らしているのは、炎なのだ。 炎は、どんどん大きくなっていく。 大きく、大きく。 身体をなめるように火が這い回って。 今度は足先が冷たくて…

2016-05-16 21:14:43
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4-3-10 冷たい?何故だろう。 身体はこんなにも熱いのに。 足の指から 踵が 踝が 脛が そして膝が 冷たい どうして 何だかとても嫌な感じがする 気味の悪い感触が下から順番に 身体を包み込んでいくような気がして 恐怖が纏わりついてくる なんだろう こわい 怖い

2016-05-16 21:15:00
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4-3-11 「…か……あ…か…」 ふいに、視界が戻ってくる。さっきのような悍ましい光では無く、教室の蛍光灯の光だ。 同時に冷たさも感じる。これも、恐ろしさを帯びた冷たさではなくて…これは、教室の床の冷たさ。 「あや…か…」 教室の…床? 「綾香!!」

2016-05-16 21:15:12
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4-3-12 はっ、と 我に返ると、綾香は直ぐに自分が床に寝そべった状態になっているのに気付いた。 それだけではない、友人達、先生までもが今まで見たこともないような酷く心配した表情で綾香の顔を覗き込んでいるのだ。 「え…何これ…」 体を起こしてみるが、頭が割れるように痛い。

2016-05-16 21:17:54
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4-3-13「どうもこうもないよ!」仲の良い友人である美月が涙まじりに声を荒げる。 「突然床に倒れたと思ったら、綾香、頭を押さえて凄く辛そうな声で呻き出して…こっちの呼び掛けにも全然反応しないし!」 「…え…」 自分がそうなっていたという記憶も感覚も全く無い。

2016-05-16 21:18:04
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4-3-14「綾香さん、本当に大丈夫?」 …それから色々と大変だった。凄い勢いで保健の先生が駆け込んでくるし、古文の先生には付き添われっぱなしになってしまうし、家にもこの事が伝えられた。 気分は良くなり、救急車を呼ばれるところまでは流石に止めてもらったが、直ぐ早退が決まった。

2016-05-16 21:18:14
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4-3-15「気分が悪くなったら今度はすぐに病院に行くように。いいですね?」「はい…」 最後に念押しまでされると、綾香は足取り重く学校を出た。 目を覚ましたとき自分を見ていた美月やクラスメートの表情が忘れられない。ごく短い時間とはいえ、一体自分はどんな状態で倒れていたのだろうか。

2016-05-16 21:21:23
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4-3-16 そもそも、今朝から何かがおかしい。あの夢を発端に自分の身に何が起こってしまったのだろう。 「夢」で色々思い返していると、前に何の気なしにネットで読んでしまった「猿夢」の話など思い出し、ちょっと身震いした。 「ホントに病院に行った方が良いのかなぁ。でも原因不明じゃ…」

2016-05-16 21:21:36
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4-3-17「原因」 はた、と思い付き スカートのポケットを急いで探ると、昨日拾った石を取り出し、目線の高さまで上げる。 「昨日と今日とを比べて変わった事があったかって言ったら、このぐらいしか…いやいや、いくら何でもそんな訳ないかな…」

2016-05-16 21:29:30
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4-3-18 様々な可能性を妄想しながら歩いていたら、いつの間にか自分の家の近辺まで帰りついていた。 「結局何なんだろー、分かんない。私あと一回あの夢を見たら死んじゃうとかそゆことないよね?」 本気で不安になりながら自宅の横を通り過ぎようとした時… 「ん?」不自然さに気付いた。

2016-05-16 21:29:36
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4-3-19 家の前に、見慣れない黒い車が止まっている。それもどうも普通の車ではなさそうで…車そのものがそういう主張をしているかのように怪しさが伝わってくる。 「中も見えないし妙にゴツいし、何であんな車がウチの前に…」 と、ふと目線を生垣越しに窓に移すと、綾香は慌てて身を屈めた。

2016-05-16 21:29:44
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4-3-20 庭に面したその部屋は客間だ。そこに、母親と、何故かこの時間には家に居ないハズの父親、 更に見たことの無い男性達が何やら真剣そうな顔で話しているのが窓越しに見えた。 「…?」 別に隠れなくても良かったのだろうが、何となく気になってそのまま窓越しに様子を伺ってみる。

2016-05-16 21:33:46
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4-3-21 すると程なく…男の内の1人が母親と父親が何かを伝えた途端驚いた表情をすると…物凄い剣幕で拳を机に振り下ろすのが見えた! 「!?」 声までは届いてこないが只ならぬ雰囲気なのは見て取れる。怯える母親を見ると男は少し冷静さを取り戻し…何やら控えている男達に指示を出した。

2016-05-16 21:34:05
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4-3-22「え!?嘘…」男達が取り出したのは、明らかに銃と手錠に見える。まさか、本物だとでも言うのか。でも、一体何故こんな事に? 「で、こりゃ一体どういう事だ」 頭がパニックになったところに突然後ろから声を掛けられ、綾香は思わず叫びそうになったが声を強引に飲み込む。「兄さん!」

2016-05-16 21:34:17