第4話「序章」 パート2

2
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ 時間は更に 輸送機が海の藻屑となる半日程前に遡る… ___

2016-05-10 21:00:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-1「綾香ー、また明日ねー!」「うーん!美月ちゃんもー!」 日も暮れてきた頃合い。綾香は学校で美術の部活動を終えて友人と別れると、少しばかり急ぎ足になる。というのも、彼女には家に帰る前に寄りたい場所があるからだ。 「ちょっとばかり長居しすぎちゃったなぁー」

2016-05-10 21:01:35
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-2 綾香の住む町は海沿いに有り、家から学校までの通学路にもちょっとした浜辺に降りられる場所がある。 「よし…っと」 靴とソックスを脱いで慣れた調子で手持ちの袋の中に収めると、夕日の照らす砂浜に足を踏み入れる。素足をくすぐっていくサラサラした砂の感覚が心地よい。

2016-05-10 21:02:46
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-3 綾香はこうして下校の後帰宅の途中で砂浜を通っては、綺麗な漂流物を探すのをちょっとした日課としている。 こういった収集・観察は「ビーチコーミング」と呼ばれるもので、漂流物で造形や撮影を行う芸術家も居る位なのだが、綾香の両親には「ごみ拾い」と称されてしまっている。

2016-05-10 21:04:16
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-4 そんなんじゃない といつも反論しつつも、持ち帰るのが貝殻やビンなどではいつまでたってもイメージが払拭できそうもないので、 綾香は両親に「綺麗」と言わせられるような代物を毎日こうして探しているのである。 「んー、やっぱりこの時間になってくると少し暗くて見つけづらいな」

2016-05-10 21:05:09
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-5 ひとたび日が落ちてしまうと明かりの少ない浜辺では物を探すのが難しくなってしまうので、それまでには切り上げる。 今日も2, 3生き物の骨の一部や貝殻と幾ばくかのごみ(後でちゃんと捨てるのがマナーなのだ)を見つけたが、戦果としてはイマイチと言わざるを得なかった。

2016-05-10 21:06:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-6「今日もイマイチかなー…波打ち際を歩いたら帰ろっと」 綾香は波打ち際の辺りまで海に寄ると、足元へ向かってくる波を裸足で蹴上げながら家の方角へと歩みを進めた。 「ん?」 ふと、沈みかけた夕日で照らされた水面に不釣り合いな色合いが見えたような気がして、綾香は足を止める。

2016-05-10 21:08:38
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-7 黄色のようなオレンジのような、それとも緑色のような…?何とも言えない奇妙な模様が、歪んで見える水の下に沈んでいるのが前後する波でちらちらと視界に入った気がした。 最初はウミウシのような色味のキツい生き物でも水面下に居るのかと思ったが、どうやらそうではない。

2016-05-10 21:09:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-8 袖をまくると、綾香は少し深い水底へ手を突っ込んで、それを拾い上げてみると…どうやら普通の石のように思えた。その色と模様以外は。 それはマーブル模様と言うとちょっと違う、石の中心から波状に外側へと色が広がっていくような模様。地学の授業で習った地球の断面のような模様。

2016-05-10 21:11:11
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-9 石自体の質感は滑らかだが大きさの割にずっしりとしていて、それでいて直ぐに砕けてしまいそうなガラスのような印象を受けた。 「うーんっ 綺麗かって言ったら…ビミョー…」 綾香は苦笑いしつつもその石を袋に詰める。

2016-05-10 21:12:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-10 とはいえ、かの文豪も石の収集を趣味とし、鑑賞石として自然の色合いとしては珍妙な石を収拾していたという話を以前に本で読んだ覚えがある。これもその類の石ではないかと、綾香はそう思ってみることにした。 「帰ったら一応聞いてみようかなぁ。また変な顔されそうだけど」

2016-05-10 21:13:18
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-11 ___「ただいまー」 「あら、お帰り…またゴミなんか拾ってきたの?」「だから、ビーチコーミングっていうの!ゴミってゆーな!」 帰宅一番、綾香の持っている袋を見て母親が普段の調子で怪訝な顔をし、それに綾香が膨れっ面で言い返す。最早、日野原家の恒例行事である。

2016-05-10 21:14:05
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-12「とにかくちょっと見てもらいたい物があるんだけど」 綾香は袋から先程の妙な色の石を取り出すと、母親にそれを見せてみた。「こういうの、見たことある?」 母親は綾香から石を受け取り、まじまじとそれを見る。 「…ただの石にしか見えないけど。でもこんな色と模様は初めて見るね」

2016-05-10 21:15:13
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-13「でも、お世辞にも綺麗な色とは言えないわね」「うんー…それは私も確かにそう思った」 予想通りの反応が返ってきて、がっかりとはしなかったが少々敗北感を覚える。そして家の玄関でそんな茶番をしていたら、後ろから父親も帰宅してきた。 「ただいま…家の玄関で二人してどうした」

2016-05-10 21:16:13
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-14「綾香がね、また海で変なものを拾ってきたんだけどこんなの見覚えある?」(この時綾香は内心後ろで「変なものってゆーな!」と思っていたが声には出さなかった。) 「…なんか変な色の石だな。ちょい、見せてくれるか」 父親はそう言って母親から石を受け取ろうとする、とー

2016-05-10 21:20:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-15「あっ!」「え!?」 手に渡ったと同時に、父親が手を滑らせてー バキッ… 陶器が割れるような乾いた音を立てて、玄関口に落ちた石は2つに割れてしまった。 「あー、ちょっと!何すんの!」 「ごめんって、仕方ないでしょ…どのみち捨てることになるんだからいいじゃない」

2016-05-10 21:22:27
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-16「もー、2人には見せないっ!知らない!」綾香は割れた石を素早く拾うと、2階の部屋へ乱暴に階段を上って行った。 「もう夕飯は出来上がるからねー、直ぐに降りてきなさいよ」 母親は特に怒った調子は見せない。 「慣れてるな」 「ほぼ毎日の事よ」 母親は肩をすくめてそう言った。

2016-05-10 21:28:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-17「また下で何かあったのかよ」 階段を上がってきた妹に、2階の廊下で鉢合わせた兄、大智はこれまた珍しくもないという調子で言う。「…」 むくれた調子で言葉は発さない綾香の手元にある割れた石を見て、大智は大体の事は察したというような顔をした。 「しかしまた変わった石だな」

2016-05-10 21:30:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-18「これで?どうしようと思ったんだ」「別に…兄さんには関係ないし」 綾香は兄の問いかけにぶっきらぼうに応える、が。 「ゴミだって言われたくないっていうか…何と言うか、自分のやってる事が下らない事だと思われたくないんだろ、お前は」 綾香の顔が僅かにひきつる。図星である。

2016-05-10 21:36:56
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-19「まーまー、別に無駄なことはしてないだろ。同じ趣味をしてる人だって沢山いるんだし、本当にゴミと呼ばれるような物はきちんと掃除してる訳だから、立派なもんだよ」 これも大体いつもの事。大体言い合いになった後は大智がふてくされる綾香をたしなめる役を担うのだ。

2016-05-10 21:37:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-20 しかしこの日の綾香は、それが貴重なものかは別として、目の前で石を割られた事もあり、大分ヘソを曲げているようだった。 そこで大智はやれやれといった調子で溜息をつくと、妹の両手から割れて2つになった石を取った。 「あ、ちょっと!」「貸しときな。寝る前には返すからさ」

2016-05-10 21:40:26
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-21 ーそれから夕飯も済み、就寝も近づいてきた頃合い。ふいにノックの音が綾香の耳に入った。「入って大丈夫か?」「いいよー」 部屋に入ってきたのは勿論大智だ。手には何やらぶら下げているようだが… 「あっ」 その独特な色合いで、綾香は直ぐにそれが先頃の石であることに気付く。

2016-05-10 21:42:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-22 しかも、元々の状態ではない。大智の手で加工されて、簡単な金具と紐が取り付けられ、石自体も小奇麗になっていた。 「ほれ、割れて半分になってたから 2つ」「…ホント兄さん、こういうの得意だよね」「お前とは年季が違うからな、年季が」

2016-05-10 21:43:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-23 私と数年しか違わないくせに、と思いながら綾香は石を受け取る。 先程はちゃんと見ていなかったので気付かなかったが、割れた石は片方はもう片方に比べてやや大きく、片方はその分小さくなっていた。 「磨けば光るこれは、全然ゴミなんかじゃないだろ?これでちっとは機嫌直せよ」

2016-05-10 21:45:15
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

4-2-24「…」 綾香は暫く石を見つめると、大き目な片方を兄の前に突き出した。 「ん」「なんだよ」「作ったのは兄さんなんだし、片方持ってってよ 私は小さい方が可愛くて好きなの」 押し付けるようにそれを兄に渡すと、綾香は机の方にさっさと向き直ってしまう。

2016-05-10 21:46:24