第6話 「彷徨う風」 パート3

艦これSS 脳内妄想まとめ
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ 心はずっと覚えているから ___

2016-06-07 23:00:31
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6-3-1 胸の内を吐き出し、漸く落ち着いた浜風は鳳翔を伴わせて自室へ戻らせた。 「けど、これではまだ解決とは言えませんね」 大淀がやや暗い表情で言う。 「全くだ。それについてはこれから今の話を聞いての皆の意見を聞きたいところなのだが…そういえば、明石はともかく綾波はどうした?」

2016-06-07 23:01:41
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6-3-2「今朝ご飯を真っ先に食べ終えて、一目散にどこかへ出ていく姿は目にしましたが、今どこにいるかまでは分かりませんね」 「綾波も浜風の事を相当気にしていたようだし、今聞いた話は姿を見かけたら伝えてやってくれ。彼女は彼女なりに何か出来る事が無いか精一杯なのだろう」

2016-06-07 23:01:53
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6-3-3「それで、提督。さっきの話を聞いて考えたのですが…」 …… … その頃、工廠の明石と綾波。 「ワックスコードは見つけたわ。他にも使えそうなものを適当に見繕ったから自由に使ってね」 明石は綾波から『ある推測』を聞き、彼女のために工廠に置いてある素材を探していた。

2016-06-07 23:03:31
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6-3-4「それとこれ、使えそうな工具類ね…ここじゃ作業し辛いと思うから、自室に持って行ってくれて構わないわ」 丈夫な小袋に工具をまとめると、素材と合わせて綾波に渡す。 「有難うございます、明石さん!」 「残念ながら一番重要なものがここには置いて無かったけど…それは私に任せて」

2016-06-07 23:03:38
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6-3-5 溶接マスクを手に取ると、明石は綾波に向けてウインクを飛ばす。 「私も一肌脱がせてもらうから!」 … 自室に戻ると、綾香は机の上に集めたものをまとめる。 明石から貰った素材と工具、そして…自身の持っていた袋をひっくり返すと、大小様々な物体が机の上に転がり出てくる。

2016-06-07 23:03:49
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6-3-6 陶器の欠片に貝殻、珊瑚にシーグラス、海の生き物の骨の一部… 朝から島の海岸線に繰り出し、少しでも使えそうなものは手当たり次第に袋に突っ込んできた。 「後は、作るだけ…いつも私がそうしていたように…」 自分の記憶を一つ一つ確かめるようにしながら、綾香は手を動かしていく。

2016-06-07 23:05:33
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6-3-7 ひとたび集中すると、時間の流れは急に加速する。あっという間に正午を過ぎた事にも気付かず、綾香は手元に集中していた。 …そんな綾香を現実に引き戻したのは不意に聞こえてきた部屋の扉をノックする音だ。 「!」 慌てて部屋の扉を開けると、そこに立っていたのは明石だった。

2016-06-07 23:06:40
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6-3-8「はい、これ」 明石は綾香に何かを手渡す…渡されたそれは大小不揃いな数個の『鈴』だった。 「こういうのは作るの初めてだったから、ちょっと失敗」 明石は苦笑いしながら人差し指で頬をかいた。 綾香が軽く手を握って振ってみると、高く澄んだ鈴の音が手のひらから零れていった。

2016-06-07 23:07:03
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6-3-9「そんな事ありませんっ!有難うございます!」 綾香は深々とお辞儀をする。 「そんなに頭下げないで良いって。それよりも、その様子じゃお昼はまだなんでしょう?」 言われて時間の感覚が戻った途端、綾香のお腹が「ぐーっ」っと音をたてる。朝も急いでいたせいで碌に食べていないのだ。

2016-06-07 23:07:47
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6-3-10「良いものを作ろうと思うんならね、やっぱり自分の状態が万全じゃないと始まらないって思うわけ」 赤面して固まる綾香の肩に優しく手を乗せ、明石が言う。 「焦る気持ちも分かるけど、お昼くらい一緒に食べに行きましょう。そうじゃないと、鳳翔さんの怖い顔を後で拝む事になるよ」

2016-06-07 23:08:55
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6-3-11 自室へ戻った浜風は、椅子に座ってずっと窓から海を見ていた…無論、実際には目の前に広がる大海は殆ど意識の内には入って来ない。自分の事について当所もなく考えを巡らせていた。 「(…私の体は、目を覚ましたあの日から徐々に弱っている。この調子では後何日もつかも分からない)」

2016-06-07 23:10:16
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6-3-12「(あの日以前の記憶を思い出そうとすると、朧気にしか思い出せないのは何故だろう。見てきた沢山の海の事も、仲間達の事も頭の中にある…なのに、いつもどこでどんな事をして過ごしていたのかが分からない。私はどこから来たのだろう?どうしてあの日、あの場所に居たのだろう?)」

2016-06-07 23:10:38
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6-3-13 思えば、何故こんな簡単な疑問も浮かんでこなかったのだろうと浜風は思った。自らの危機を「自覚」し「自白」するまで、まるで心の奥に閉じ込められていたかのような妙な感覚。 「心の奥…」 私が夢の中で探している「誰か」は何処にいるのだろう。私は何故その人の事を探すのだろう。

2016-06-07 23:12:25
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6-3-14 私の『心の奥』で誰かは迷っているのだろうか?それならどうしてその人は私の中に居るのだろう?…分からない、その人の事に意識を集中しようとすると、頭がズキズキしてくる。 「でも、私はどうしてもその人の事を…助けたい」 でも、何故そう思うのだろう…大切な人なのだろうか?

2016-06-07 23:12:38
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-15 助けたい理由。それについて考えを巡らせると、不思議と心臓が締め付けられるような嫌な感覚に襲われる。 これは何だろう?これと同じ様な…いや、これと全く同じ感覚を私は過去に何度も経験してきた気がする。 人のためのようで、実は自分に対する言い訳のようでもあるこの感覚は…

2016-06-07 23:15:13
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6-3-16 その言葉が頭を過った時…ドクン、と心臓が重たい音を立て、同時に自分が椅子に座ったままに、窓の外に見えていた海のずっとその先へ一気に吸い込まれていくようなビジョンに襲われた。 高速で空が、雲が、周りの景色が後ろに過ぎ去り、みるみるうちに色を失って黒く染まっていった。

2016-06-07 23:17:13
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-17 一瞬の後、浜風は自分が暗い空間の中に一人で佇んでいるのを認識した。そしてまた、この光景には良く見覚えがあった…昨日までと同じ、誰かが彷徨っている『あの海』の上だ。 日は最早沈み切り、星も月も無い暗黒となり果てている。 しかし、今までとは違いどこか生々しさも感じる。

2016-06-07 23:17:35
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-18 浜風は悟りつつあった。…探している『誰か』をこんな目に合わせたのは自分なのだと。そして、自分自身にその記憶が無くとも、自分の心がそれを分かっていて納得できて居ないのだと。 『…誰か…誰か……』 暗闇から聞こえるその声も、今や弱弱しく今にも涸れてしまいそうだ。

2016-06-07 23:19:09
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-19「…私は、私はここに居ます。」 視界を奪われ、下手すれば直ぐにバランスを崩してしまいそうな水の上。 浜風は誰とも分からぬその存在が居るであろう、暗闇の中に向かって話しかける。 「貴方の事は死なせはしません…私が救ってみせます。だから、どうかもう少し辛抱して下さい…!」

2016-06-07 23:20:01
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-20「浜風が倒れていた!?しかも起きないだと!」 執務室に駆け込んできた鳳翔の報告に、部屋に居た全員が雷に打たれたような顔をした。 … そして、浜風の部屋。椅子から倒れたように気を失っていた浜風の体はベッドに移されている。しかし、先日同様声を掛けてみても目を覚まさない。

2016-06-07 23:21:48