第6話 「彷徨う風」 パート3

艦これSS 脳内妄想まとめ
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

6-3-21「想定よりも体力の消耗がずっと速い…扶桑、どうだ?」 「昨日よりも良くない状態です…このままでは」 その間も、浜風は苦しそうな表情で譫言を繰り返す… 「…助けて…私が…苦しい…私、が…」 「?」 その場の全員が違和感に気付いた。

2016-06-07 23:22:41
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「ごめんなさい…私、が…助けます…」

2016-06-07 23:22:45
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6-3-22「提督!」 大淀がはっとした顔で風見を見る。風見は目線は浜風に注いだまま頷く。 「浜風、お前は…お前の心は、自分が誰かの体を奪ってしまった事に気付いていたんだな。そして、闇の中に消え去ってしまいそうな元々の心をギリギリで留め、自分も闇の中へ進み行っているんだな」

2016-06-07 23:23:27
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6-3-23「そうなると、浜風ちゃん自身が助かる道は…」 鳳翔もまた、浜風に目線を注いだまま呟くように言う。 「1つは、浜風の心が元々の体の持ち主の心を見捨てる事。そしてもう1つは、元々の心を浜風がどうにかして助け出すか、或いは逆に自力で浜風の心を凌駕するか…後者は望みが無いが」

2016-06-07 23:23:57
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6-2-24「今までの『艦娘化』においては、心が互いに潰し合うような例ばかりだと言うのに、お前という奴は…自分がほぼ完全にその体の主導権を得ておきながら、元々の持ち主を助けようとして自分まで死にそうになっているのか。お人好しが過ぎるぞ…」 やりきれない気持ちに風見は歯噛みする。

2016-06-07 23:25:54
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6-2-25「だが、それで消えようとしている心に混ざりあって自分まで消えてしまっては元も子もないのだぞ…」 4人が集まるには少々狭い浜風の1人部屋。今やその中で全員が立ち尽くし、譫言を繰り返す浜風を見守る事しか出来なくなっていた。 …その時、徐に部屋の扉が開けられた。

2016-06-07 23:26:20
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6-2-26 扉の外に立っていたのは、綾波と明石だ。 「明石さん、綾波ちゃん…?」 綾波は何かを手に持っているようだ。 無言のまま、彼女は4人の前を横切るとベッドの浜風の脇に跪いた。 「明石、あれは?」 風見が明石に問いかけると、明石は微笑みだけを風見に向かって返した。

2016-06-07 23:27:43
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6-2-27「貴方を助けたいのは、私も同じだよ…」 綾波は浜風の手に何かを握らせ、自らもそれを包むように浜風の手と自分の手を重ね合わせた。 …… 深い闇が自分の体に纏わりついてくる。まるで真っ黒な煙の中を歩いているかのようだ。 浜風は全神経を集中させ、声の方に進もうとしていた。

2016-06-07 23:28:16
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6-2-28 だが、いくら追いつこうにも上手くいかない。声の主は彷徨うかようにその場所を転々と移してしまう。浜風の平衡感覚も鈍り、限界が近づいてきていた。 「これではどっちが彷徨っているんだか…」 浜風は遂に力無く立ち止まる。 長い前髪に隠れた目には、無力感から涙が浮かぶ。

2016-06-07 23:29:26
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6-2-29 『シャリン…』 突然、自分の直ぐ近くからこの場所で初めて耳にする音が聞こえ、伏せっていた顔を反射的に上げる。どこから聞こえたのだろう。 辺りを見回そうと体を捻った途端にまたその澄んだ音が聞こえ、気付いた。暗闇でよく見えないが、知らぬ間に腕に何かを着けているようだ。

2016-06-07 23:30:10
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6-2-30 それだけではない。暗闇の先、声のする側からも同じく シャリン シャラン と澄んだ音が継続的に聞こえるようになった。 浜風は意を決して駆け出した。今、この音を逃してしまえば機会は永遠に失われてしまうと思ったのだ。 …どの道自分の元来た道さえも分からなくなっている。

2016-06-07 23:31:19
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6-2-31 走る度に振れる腕から何度も、何度も高い音が鳴り響く。 尚も視界の向こう側で漂い続ける音を、少しずつ距離の縮まってきている音を逃すまいとしながら…浜風は駆ける。 「お願い!止まって…止まってッ…!」 祈るように頭に浮かんだ言葉は、遮られる事も無く口から漏れ出て来る。

2016-06-07 23:33:14
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6-2-32「私はっ…貴方を…助けなきゃいけない!まだ…一言謝る事さえ…出来ていないんだからっ!」 目の前に見えた何かを、遂に浜風の右手が掴み取る。 …それはどうやら、手のようだ。 浜風の腕と比べれば、ずっと逞しい腕。 そして、浜風と同じ…『腕輪』を着けた…手。

2016-06-07 23:34:57
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6-2-33「っ!」 浜風はその瞬間、強い電気を浴びたかのような感覚に襲われた。 一瞬の後にその感覚が収まると、目の前の存在から初めて『生気』のようなものを感じ取ることが出来た。 すると、暗かった視界は煙が霧散するように徐々に晴れて、景色が元の…明るい海の姿を取り戻していった。

2016-06-07 23:35:22
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6-2-34「鈴の音を聞いてた…」 浜風と手を繋いだまま、浜風の追い続けた『誰か』は話し出した。 「とても懐かしい音。てっきりアイツが助けに来てくれたのだと思ってんだけど…君が助けてくれたのか」 「いいえ」 浜風は強くこれを否定する。 「助けるどころか、私は貴方を殺しかけた」

2016-06-07 23:36:40
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6-2-35 浜風は声を絞り出すように言う。 「…ごめんなさい」 「良いって、ギリギリだったかもしれないけど…君は確かに俺を生かしてくれた」 生きるか死ぬかの瀬戸際だったとは思えない気楽さで、彼はひらひらと手を振る。 「分かるよ。さっき頭に大体は流れ込んできたからさ…」

2016-06-07 23:37:23
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____「行こう。皆が心配してる」

2016-06-07 23:37:40
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6-2-36 目を覚ますと、ベッドの上で横になっているようだった。 ぼやけた視界が戻るにつれて、部屋の中が見えてくる…提督、扶桑さん、鳳翔さん、大淀さん、明石さん… そして、自分の隣。貝や鈴、シーグラスのあしらわれたブレスレットを自分に持たせて、一緒にずっと手を握っている女の子。

2016-06-07 23:38:57
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6-2-37「…綾香」 その呼び名を待っていたかのように、綾香も応える。 「うん、分かってるよ…大智兄さん」

2016-06-07 23:40:35
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6-2-38「よく気付いたもんだな、綾香君」 あれから数時間。夕日の沈んで行く時間の執務室は、綾香がここに来た日の事を思い起こさせる。 「緊張を取る方法とかアクセサリを作る趣味とか、気になる事は色々あったんですけど…」 そう言いつつ、綾香は浜風の机にあったものを目の高さに上げる。

2016-06-07 23:42:44
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6-2-39「決め手はやっぱりこれ…兄さんが私に作ってくれたブローチそのまんまですもん」 それは、先日浜風が綾香と浜辺で拾った材料で作られたブローチだった。 机の上に置いてあったのが綾香の目に入って行動を起こさせたのだ。 「だから私も作ったんです。ずっと前に気に入って貰えた腕輪」

2016-06-07 23:43:26
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6-2-40 浜風…大智は右腕を持ち上げる。シャランと軽い音を立てるそのブレスレットは、綾香が以前に渡して喜んでもらえた物を模して作ったものだ。 「兄妹にだからこそ起こせた奇跡なのか。んー、いや、今は姉妹…いや、それだと姉妹艦では無いワケだしどうなのやら…まぁいいか」

2016-06-07 23:44:00
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6-2-41 どうでも良い、という具合に打ち切ると、風見は大智に話を振る。 「それで、体のほうは何ともないのか?」 「はい、問題ありません。記憶も…私が思い出せない部分はやはりぼやけていますが、2人分溶け合って落ち着いています」 しかしながら、その佇まいはどう見ても浜風だった。

2016-06-07 23:45:58
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6-2-42「でも、やっぱり『私』が占めてしまった割合が大きいみたいです…」 「兄さんは…『そこ』にちゃんと居るんだよね?」 不安に思い、綾香は目の前に居る艦娘に問う。 「一応ね。でもやっぱり落ち着かないって言えばそうかな…」 それまでと雰囲気の変わった台詞。綾香は少し安堵した。

2016-06-07 23:46:47