「ルーキング・イン・ウェーブス」

波濤の狭間に潜む者達は嗤う。
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Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ルーキング・イン・ウェーブス」

2016-05-19 21:01:27
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

北太平洋中部海域、深海棲艦中枢泊地。人類史上において、初めて深海棲艦に奪われたこの地にて今、激震が走っていた。 1

2016-05-19 21:02:33
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

つい先日、人類への前線攻撃機地として深海棲艦が建設した人工島・Erehwyna島が人類の艦娘艦隊の奇襲を受け陥落。あまつさえ人類はErehwyna島を飛行場へと改造し、中枢泊地に攻撃を仕掛けてきたのだ。人類と深海棲艦との戦争において、転換点ともなりかねぬ戦いが始まったのだ。 2

2016-05-19 21:05:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

旧ハワイ州オワフ島パールシティ。嘗て青い空と強く爽やかな常夏の日差しを誇ったこの街は、今や方々が廃墟と化し、空は瘴気により黒々と覆われ、変色した太陽光が微かに紅く荒れ捲れたコンクリートの地面を照らすのみ。このコンクリートの荒野を歩く人影が一つ。人間だろうか? 3

2016-05-19 21:10:35
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

否、最早ハワイには生存者は一人もいない。読者の皆様は近づいてくる人影を見て恐怖に駆られたはずだ。無理もない。その人影は額に2本の角を誇る黒髪の女であった。その肌は白磁めいて白い。彼の者の名は戦艦棲姫。人類に牙を剥く強力なクローン兵器である。 4

2016-05-19 21:13:37
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

海岸から吹く潮風に黒い髪を靡かせ、戦艦棲姫は憂いを帯びた表情を浮かべる。「面倒ナ事ニナッタナ…」そう呟き、戦艦棲姫は踏み潰した白骨死体の事など気にも留めず、歩みを続ける。やがて戦艦棲姫の行く先に、巨大な廃墟が見えて来た。辛うじて原形を留める看板には「Word」と記されていた。 5

2016-05-19 21:19:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

嘗ては住民の生活を支えていたであろう巨大ショッピングモールめいた廃墟群に、戦艦棲姫は足を踏み入れる。ガラス。コンクリート片。風化した衣服や腐りきった食料。そして稀に人の骨。それらを一切の区別なく踏み潰し、彼の者は廃墟の中の開けた場所に辿り着いた。そこにいる3つの人影。 6

2016-05-19 21:25:08
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「遅カッタナ」一人が振り向く。黒めを持たぬ赤熱した白目と白い長髪を持つ襤褸布を体に巻き付けたその者は空母棲鬼だ。「撤退戦力ヲ回収シテイタカラナ」戦艦棲姫は淡々とそう告げる。空母棲姫の片眉が吊り上がった。「何…ソレハツマリ」「逆襲部隊ハ壊滅シタ。連中、コッチニ来ルゾ」 7

2016-05-19 21:28:42
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

/ソレハツマリ/ もう一人が声を上げた。その者は足首を45度傾けて立つ、極めて奇怪な潜水ソ級であった。ソ級は歪んだ声色で戦艦棲鬼に問う。/重巡棲姫ガシテヤラレタ、ト?/「ソノ通リダ、エウポルボス=サン」戦艦棲姫はそのソ級の名を呼んだ。 8

2016-05-19 21:38:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

名を持った深海棲艦とは彼らにとって特別な存在だ。名を授かるとは即ち、神の寵愛を約束されたことに他ならない。そしてその寵愛は力として現れる。不気味だが、ここに並ぶに相応しい存在。戦艦棲姫はそう考え、最後の一人を、この地の女王を見た。「如何ナサイマショウ、中枢棲姫様」 9

2016-05-19 21:43:49
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「……」 中枢棲姫。そう呼ばれた存在が、目を開いた。生気を感じぬ紅い目が戦艦棲姫達3人を捉える。彼らは直ぐに片膝をついた。忠誠を示す為に。赤黒いオーラが噴火したマグマめいて零れ落ちる。「空母棲姫=サン」「ハッ」「西ハ何ト言ッテイル?」「航空増援ヲ送ル手筈ダソウデス」 10

2016-05-19 21:50:07
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「航空増援…」中枢棲姫はうっそりと呟く。「リコリス棲姫=サンニヨッテ送ラレル手筈デス…」「水上艦ノ派遣ハ?」「ソ、ソレハ…」空母棲姫が言葉に詰まる。その額から冷や汗が数筋零れ落ちた。空母棲姫は中枢棲姫の機嫌を損ねる事を恐れた。数瞬の沈黙。 11

2016-05-19 21:55:10
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、中枢棲姫は興味を無くしたかのように別の話題を口にした。「Erehwyna島ノ奪還ハ?」/不可能デショウ/ エウポルバスは恐れずに進言した。/彼ノ島ヲ奪ッタノハアノ光刃ノ英雄デス。率イル艦娘モ精強ノ極ミ。ソシテ、別働隊ガ向カッテ来テイルノデショウ?/ 12

2016-05-19 21:59:22
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「アア、ソノ通リダ」エウポルバスの問いかけを、戦艦棲姫は驚きつつも答えた。「貴様、イツノ間ニソコマデ知ッタ」/ナナメハ全テヲ見通ス。ソレダケデス/ エウポルバスは不可思議なハンドサインと共に、教え諭すかのように言った。「流石ハナナメ教団ノ教祖、ト言ッタトコロカ」 13

2016-05-19 22:03:30
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ナナメ教団……何たる不可思議かつ空恐ろしい響きか!だが、読者の皆様がその正体を知るのはこれから先の出来事である。戦艦棲姫はそれ以上エウポルバスと会話せず、中枢棲姫に報告を行った。「敵侵攻部隊は2部隊。ドチラモ聯合艦隊デス」「編成ハ?」「水上打撃ガ1、機動ガ1デス」 14

2016-05-19 22:10:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「フム…」中枢棲姫は3人の報告を聞き終え、目を閉じて沈黙思考した。3人は傅いたまま、女王の言葉を待つ。中枢棲姫はカッと目を見開き、そして号令した。「者共、命ヲ振ルエ…」不意に、稲妻が空に煌めいた。雷鳴が轟く……イクサの始まりを告げるホラ貝めいて!「大イクサノ時間ダ!」 15

2016-05-19 22:17:17
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「「 /ハハーッ!/ 」」傅いた戦士達は一斉に立ち上がり、疾風を思わせる速さで海を目掛け駆けて行った。中枢棲姫はその姿を見守り、やがて彼らの姿が見えなくなると、ふっと体から力を抜いた。地面に崩れ落ちんとした中枢棲姫を、何処からともなく現れた新たな人影が支えた。 16

2016-05-19 22:22:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「大丈夫カ?」その者は心配そうに中枢棲鬼の顔を覗き込んだ。その者はどことなく飛行場姫に似た姿であった。だが、全身を包む貝殻めいた意匠の鎧装束と、見る者を引き込む真珠色の瞳を有しているという違いがあった。「エエ、大丈夫ヨ…」中枢棲姫はその者の頬を愛おしげに撫でた。 17

2016-05-19 22:27:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ゴメンナサイネ、ワイ・モミ…コンナ弱イカラダガ憎ラシイワ…」ワイ・モミと呼ばれた飛行場姫は、己の頬を撫でる中枢棲姫の手を取った。そして名を呼んだ。中枢棲姫ではない、彼女の真の名を。「今ハ眠レ、アリゾナ…イクサガ近イノダロウ?」「エエ、ソウネ…ソウスルワ」 18

2016-05-19 22:32:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

中枢棲姫…アリゾナは目を閉じた。彼女は直ぐに眠りに落ちた。ワイ・モミはアリゾナの額に接吻し、優しく髪を梳いた。……中枢泊地。彼の地が長年難攻不落を誇った理由は3つ。極めて精強な深海棲艦達によって守られていたため。近隣に補給施設が無かったため。そして、圧倒的な航空戦力である。 18

2016-05-19 22:36:23
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

だが、中枢棲姫には艦載機を生成する力はなかった。彼女は生まれついて体が弱く、攻撃も別個に建造された艤装頼りだ。彼女自身の戦闘力は、無に等しい。そんな彼女に代わり、この中枢泊地を不落の要塞に変えたのがこのワイ・モミ…即ち真珠湾の化身であった。 19

2016-05-19 22:39:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ワイ・モミはこの薄命の佳人を憐れみ、そして愛した。彼の者は持てる総ての力を使い、今まで全ての敵を粉砕してきた。だが、その努力が今、水泡に帰そうとしている。ワイ・モミは静かにアリゾナを横たわらせ、そして廃墟の奥の闇を睨んだ。「……イルノダロウ?」 20

2016-05-19 22:43:09
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

一瞬の沈黙。やがて、闇の中から異形の深海棲艦が這い出した。それは牡羊の如き角を生やし、黄金の毛を棚引かせ、前脚と後脚を持つニ級であった。その二級は後脚で器用に立ち上がり、二足歩行となってアイサツした。「ドーモ、ワイ・モミ=サン。ハマルデス……ムフフフフ…何用デスカナ?」 21

2016-05-19 22:49:24
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ワイ・モミは微かに殺意を滲ませ、アイサツを返す。「ドーモ、ワイ・モミデス…御託ハイイ、コノ前話シテイタ物ヲ寄越セ」「ムフフフフ…相変ワラズ急イタオ方ヨ…」ハマルはニタニタと笑い、黄金の毛の中から何かを引きずり出し、そしてワイ・モミに手渡した。 22

2016-05-19 22:53:36
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ワイ・モミは受け取り、それを見た。それは極彩色の輝きを鈍く放つ水晶であった。ワイ・モミは水晶から寒気を覚えるほどの力を感じた。「コレヲ使エバイイノカ?」「エエ。ソレハ神ノパワーヲ齎ス水晶デス。ソレヲ使エバ、奥方様モ本来アルベキ力ヲ取リ戻スデショウ」 23

2016-05-19 22:56:32