第5話「変貌」パート1

1
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-0-1「…選択肢は、本人が気付いていないだけで色々とあるものだ」 …ここは様々な「世界」の飛び交う空間。 ここに『ある』のはそれら世界以外にはわたしと、そして語り手 ヴァヴァのみだ。 彼の膨らませた世界を覗き込みながら彼は言う。 「彼女に取ってあの選択は正しかったのか?」

2016-05-20 18:49:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-0-2 私の返答はいつも通り…特に求めていないらしい。彼は此方の動きは気にもとめない様子で続ける。 「自分がいつの間にか逃げられない状態に陥っている、と悟った瞬間というのは、確かに恐ろしいものかもしれないな。だが、色々と別の考え方もあっただろう」

2016-05-20 18:52:41
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-0-3「あぁ、正誤について語りたい訳ではない」彼は付け加える。 「その日の前の日から逃亡までに彼女の取った選択が、もしも一つでも違ったなら、それはきっとまた別の形で結果を生み出すのだろうと、そういう話だ。もっともそれはこれを見た結果として抱いた感想でしかない」

2016-05-20 18:55:54
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-0-4「この世界の作り主が彼女に他の選択肢を与えなかった訳ではないかもしれない。それはこの一個の世界を作る過程で朽ちていったのかもしれない。勿論、最初から無かったのかもしれないが」 …彼の意図するところが何なのかは、どうにも読めない部分がある。前々からそう感じてはいるのだが。

2016-05-20 18:59:23
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-0-5「では、見てみようじゃないか。彼女の取った選択肢によって、この『世界』の続きがどのように動いていくのかを」 …彼はそこまで言うと、それ以上は喋らなかった。 何度か彼の顔を盗み見てみたが、目線ひとつ、それからは動かすことも無かった。

2016-05-20 19:02:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ その想定外が動かすものは ___

2016-05-20 21:37:42
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-1「う…ん…」 目を覚ますと、先ず白い天井が目に入る。 どうやら気を失ってしまった後、誰かに運ばれたらしい。 「っ!…」 体を起こそうとするとちょっと頭がズキッとするが、動けないほどではない。 ここはどこだろうか?ベッドの上から部屋を見回すと、病院の個室のようにも思える。

2016-05-20 21:38:07
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-2 ベッドの端を見やると着慣れた制服が綺麗に折りたたまれて置いてある。 ここでふと気づいて今自分の着ているものを確かめてみると、入院の際に患者が着ている…病衣のようなものを着ているらしい。 「…」 体調はある程度戻っているようだし、身なりを整えてしまおうか。

2016-05-20 21:38:42
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-3 病衣を脱いで簡単に畳むと、制服に袖を通していく。着替えている最中にベッドの脇に靴が置いてあるのも見つけた。 ― ベッドから降りてもう少し周りを良く見てみると、棚にリボンが置いてある。 早速手に取ると、そのままでは背中の辺りまでおりてくる髪を結ってサイドにまとめた。

2016-05-20 21:40:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-4「……?」 これで大体いつも通りのハズ…なのだが、何だかとても落ち着かない。 何か、大事な何かを忘れているような気がしてならず、何度も周りや着ているものを確認してみる。 ーと、そんなことをしていると、突然部屋の扉が開き 男性が3人部屋に入ってきた。

2016-05-20 21:41:18
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-5 白衣姿の男性が2人と、2人を従えるように此方に歩いてくる髭を生やした大柄な軍服の男性。 「目が覚めたようだね、気分は良くなったかい?」 軍服の男性が笑顔で話しかけてくる。これに「はい」と敬礼を合わせて答える。 「宜しい。それでは君の名前を教えてくれるかな」

2016-05-20 21:44:21
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___「私は、特型駆逐艦 綾波型1番艦 綾波と申します」___

2016-05-20 21:46:34
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-7 その言葉を口にした瞬間だった。 破裂したのではないかと思うほどに心臓が高鳴り、とてつもなく落ち着かない感覚が まるで自分の物ではないサイズの合わない服を無理やり着込んでいるかのような「不整合感」が全身を駆け巡り、支配していくのを感じた。

2016-05-20 21:48:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-8 それと同時に、ベッドで目を覚ましてから…何故今まで考える事すら出来なかったのだろう…まるで塞き止められた水が溢れ出るかのように昨日経験した出来事が、見た悪夢の事が、家族の事が、気を失って倒れるまでの事が、一気に頭の中にフラッシュバックしてくる。

2016-05-20 21:48:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-9「宜しい、では駆逐艦綾波、君の配属についてー」 その時、彼女の耳にはもう言葉は届いていなかった。 膝から力が抜け、地面にへたり込んでしまう。 「む!?」 「ち…違う……私は、私は綾香…あれ…いや、綾波……私は、綾波?うぅ…違う…違う…!私は…あや…か…?」

2016-05-20 21:50:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-10 頭を押さえてうわ言のように呟きだす彼女を見て、軍服の男性は驚きと怒りが合わさったような顔をする。 「そんな、まさか…!『第肆型』はこうならないように研究が進められていたのではなかったのか!!」 そして、白衣の男性達に指示を出す。 「拘束し、検査させろ!直ぐにだ!」

2016-05-20 21:50:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-11 …その後は一日中大変だった。 移動時には目隠しと手枷を付けられ、その状態で何度も建物内を移動しては、幾度となく身体検査され、尋問され、怪しげな機械を通されたり採血されたりで休む間も無かった。

2016-05-20 21:54:30
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-12 その日は碌に物事を考える暇も無く1日が終わり、夜中の僅かな時間最初の部屋に戻され、直ぐに浅い眠りについた。 そして翌日の朝。どうやら精神的に「狂っていない」事が確認された私は、「配属が決まった」とだけ告げられると船に乗せられ、今は狭い船室に監禁状態にある。

2016-05-20 21:54:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-13 船に乗ってからはずっと「私」の事について考えている。 昨日病室で記憶が一気に戻って来た時には一時的にパニック状態に陥ったが、直ぐにそれは落ち着いた。

2016-05-20 21:57:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

___ 綾波型一番艦、綾波。それが昨日私が告げた私の名前であり、今 船室に置いてある姿見に映っている私の姿だ。

2016-05-20 21:57:14
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-14 そして、私は「綾波」だ。目を閉じれば、艦娘として生活した日々の事や、参加した作戦の事、妹達の事、艤装の使い方、仲間達の記憶、全て頭に思い起こせる。 …だけど私は「綾香」…日野原 綾香だ。高校1年、美術部、兄が一人の4人家族で成績はノーマル、カレーが好物の…綾香だ。

2016-05-20 21:57:28
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-15 身体の中に2人分の意識が同居している訳でもなければ、多重人格とも違う。何だろう、私は「綾香」であり「綾波」でもあり、そんなよく分からない状況を頭と心が今は受け入れている。そんな風に感じる。 体は「綾波」となっているけど、自意識はどちらかというと「綾香」寄りだ。

2016-05-20 21:59:42