第5話「変貌」パート1

1
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-16 いつこんなことになったのかは…覚えてない。けど、恐らく気を失ってしまう直前、あの夢を見ていた時じゃないかと思う。思えばあの時沈んでいって消えてしまいそうになった「わたし」を助けたのが…きっと今の「わたし」、綾波だったような気がする。

2016-05-20 21:59:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-17 そして、こんなことになった原因。…それはあの「石」にある気がするけど、よく分からない。どっちの記憶でもあんな石の事は知らない。 確か、病室でパニックを起こした時に「第肆型」っていう名前を聞いたと思うのだけど、それが何の事かも分からない。

2016-05-20 22:00:16
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-18 そして、分からないだらけの最後は、心を握り潰してくる不安。「綾香」としての私はこれからどうなっちゃうんだろう?お母さんもお父さんも…兄さんもあれからどうなっちゃったんだろう?そして「綾波」としての私は、これからどうしたらいいんだろう?「配属」と軍の人は言ってたけど。

2016-05-20 22:00:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-19 …それからどの位の時間が経っただろうか。部屋の扉がノックされ、外で見張っていた兵士が入って来て、到着が間もなくである事と下船の準備をするよう伝えてきた。 …と言っても持って降りるようなものなど持ち合わせていないのだが。

2016-05-20 22:03:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-20 その際扉は開けたままにされたので「出ても良い」という合図としてこれを受け取り、「綾波」の記憶を頼りに船首に出てみる。 周りを見回しても海が見えるばかりで、陸地は一切見えない。しかし、船の進行方向をよく見ると、小さな島がある事に気付いた。

2016-05-20 22:03:58
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-21「…監獄島、か」「えっ?」 急に声が聞こえたので振り返ると、さっきの兵士が立っていて、同じように島を見据えている。 「お前らのようなヤツらが行きつく場所だ。入ったら二度と出てこられねぇって噂でな…お前がいなけりゃ俺らだってこんなとこまで一々来たくはねぇんだが」

2016-05-20 22:04:07
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-22 苦虫を噛み潰したような顔をして、その兵士は綾波に視線を移す。 「人類の希望である艦娘も一歩間違えればこんなもんさ…あの中の詳しい事は知らねぇが、精々強く生きるんだな」 「…」 監獄島。その名前も「二人分」の記憶を合わせてみたが聞いたことのない名前だった。

2016-05-20 22:04:52
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-23 島に降ろされると「用は済んだ」とばかりに乗ってきた船はさっさと帰路に着き、あっという間に遠くなっていった。 改めて周りを確認してみるが、錆びれた場所であることが伺える。 ちょっと歩けば辿り着けそうな距離に、唯一それなりに大きいと言えそうな建物があるのが見える…

2016-05-20 22:06:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-24「貴方が、此方に配属された艦娘さんかしら?」 どうやら迎えに来てくれていた人が居たらしい。条件反射で声のした方に向き直ると敬礼して名前を告げようとする。 「は、はいっ!本日此方に配属されました、駆逐艦の綾波…」 「あら」 「えっ」 そして名乗りかけたところで気付く。

2016-05-20 22:13:57
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-25「鳳翔さん、ですか?」「綾波ちゃん、ね?」 この一時は、綾波の記憶から流れ込んで来る安心感で、不安を忘れられた。 … 「ごめんなさいね、船が到着した時に待っているべきだったのに、遅くなって」 「いえ、そんな事ないです。それより知っている人が居てくれて良かった…!」

2016-05-20 22:14:11
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-26 二人は実戦こそ一緒に行うことは無かったが、ミッドウェー海戦で護衛を務めた際に見知っていた。 綾波の記憶から感じ取れる温かい気持ちが基になり、綾香の記憶にも親しい人物像として刻まれる感覚がした。 二人は今、島の拠点となっている建物の執務室へと向かっている最中である。

2016-05-20 22:16:32
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-27「それにしても…」 歩いている間に感じていた不自然さについて聞いてみる。 「随分と静かな場所ですね…人気(ひとけ)が全然無いというか…」 「そうね。ここはそういう場所だからね…」 呟くようにそう言う鳳翔さんは、とても寂しそうな顔をしていた。

2016-05-20 22:16:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-28 そんな雰囲気のせいか、暫しの間忘れていたコトバが脳裏に蘇ってくる。「監獄島」…兵士さんは確かにここの事をそう呼んでいた。あれはどういう意味なのだろう。監獄と言えば、罪人を閉じ込めておくための場所。であれば、この静けさは?そして私は「罪人」という事になるのだろうか?

2016-05-20 22:17:29
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-29 ふと、歩きながら窓の外を見てみると、建物の周りに大量の「なにか」があるのが分かった。 それが何なのか目を凝らしてみると、簡素な「墓標」に見えなくもなかった。 「…」 「綾香」からしても、ここは鎮守府と呼ぶには根本的に何かがおかしいということは肌で感じ取れた。

2016-05-20 22:18:59
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-30「着いたわよ、綾波ちゃん」「あ…」 気付けば既に執務室の前にまで来ていたらしい。鳳翔さんは私がしていたであろう怪訝な顔を見ていただろうか? 特に気にした素振りは見せず、鳳翔さんは執務室のドアをノックする。 「提督、新任の子をお連れしました」

2016-05-20 22:19:20
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-31「入ってくれ」 促され、執務室へ足を踏み入れる。少々埃っぽい感じがするが、横目に見てきた部屋と比べるといかにもな感じがする。(またお掃除しなくちゃ…と鳳翔さんがぽつりと言ったのが聞こえた) 部屋で待っていたのは、優し気な、しかしどこか只ならない雰囲気を纏った男性。

2016-05-20 22:20:35
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-32「…特型駆逐艦、綾波型1番艦の綾波です。宜しくお願いします」 ほんの一瞬、自分の本当の名前を名乗れたら と歯がゆさを感じたが、最早その名前を出す訳にもいかない。この場は素直に「綾波」に身を委ねると、目の前の人物…司令官に挨拶した。

2016-05-20 22:22:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-33「遠いところまで遥々よく来てくれた。私はここを任されている風見という者だ」「風見…司令官」「まぁ好きなように呼んでくれたらいい」 風見司令は笑顔でそう応える。 「そして…聞きたいことがあるのも分かるが、先ずは他の連中も簡単に紹介させてほしい」

2016-05-20 22:23:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-34「先ずは、君をここまで案内してくれた鳳翔からかな。ここで私の秘書艦も務めてもらっている」 司令官の紹介を受け、鳳翔さんがにっこりと笑いかけてくる。 「それから、こっちは扶桑…医務は彼女に担当してもらっているから、調子の悪い時は彼女に相談してみてくれ」

2016-05-20 22:24:20
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-35 提督の机の傍に立っていた、落ち着いた雰囲気の女性がお辞儀をする。 「そして、こっちは大淀。本土とのやり取り、情報を取り纏めているのが彼女だ」 「宜しくね、綾波ちゃん」 本棚の傍に立っていた眼鏡をかけた女性が微笑みかける。 「後は、この場には居ないが明石か」

2016-05-20 22:24:59
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-36「明石には工廠を担当してもらっている。まぁ狭いところだ、直ぐにでも会えるだろう…」 ここまで紹介を終えると、司令官は自分の席に戻る。 「さて…」 言葉の続きが出て来るのを待つ。何やら言葉を選んでいるように見える… 「綾波、あー、驚くかもしれないが…これで全員だ」

2016-05-20 22:25:55
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-37「え?」「私と、君、それから今紹介した4人…合計6人だな。それで、今この建物に居るのは全員だ」 えーと…? 「この場所はそれぐらい錆びれた場所である、ということだ。そして、これは隠すまでも無いので言うが、現在ここには出撃の任務は下りてこない…」

2016-05-20 22:27:07
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-38「内外で出入りがあるのは、定期的に訪れる物資の輸送のための船、開発任務…といっても明石がほぼ全て全て担当しているのだが…それを引き取るための輸送船、そして、君のように新しく配属される艦娘を連れて来る船のみ」 「…」 「…配属先がこんな場所で申し訳ないな」

2016-05-20 22:28:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-39 口を閉じているのはこの辺りが限界だった。 「あの、司令官。ここは…一体どんな場所なのですか?」 ずっと引っかかっていることを聞いてみる。 「ここは…一昔前、海軍が使用していた施設だ。今現在はこの施設も、また海域も用済みとなり、誰も寄り付かない場所になってしまった」

2016-05-20 22:29:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-1-40「…では、そんな場所に何故鎮守府があるんですか?」 当然浮かぶ疑問をそのまま司令官に投げてみる。 「…」 「司令官?」 「…維持のため、だ。今は見向きもされなくなった場所とはいえ、最低限の機能が生きているのでな、遺棄する訳にもいかなかったんだ」

2016-05-20 22:30:24