140ssログ4月

やまたに @mw_snc

君の名前は間違えなくていいや。瞬きもせずにこちらを見ながら髭切が言う。目を合わせれば、思い出すもの。便利だね、と。そうかと三日月はただ見つめ返す。逸らしてはいけない。まるで猫の喧嘩のように。駄目だよ、月は瞼を閉じなくては。なぁに、初月なのでな、開くばかりさ。（三日月＋髭切）

やまたに @mw_snc

薬研、と弟を呼ぶ。もう寝なさい、と。そんな一期に彼は笑った。寝るさ。頷くけれど、そのあとに。だが、枕が替わると寝れねぇんだ。告げて、薬研は粟田口の部屋を離れ、廊下の奥へと消える。どうやらその奥で、彼の枕が待っているらしい。仕方のない子だ、と一期は溜息を吐いた。(薬宗)

やまたに @mw_snc

夜中、兄様は布団を抜け出す。江雪兄様には内緒ですよ、そう約束させて。寒い、とひとりになった布団の中で小夜は小さく丸まった。毛布代わりに抱き込んでくるなら、最後までいて欲しい。あの短刀は、今頃さぞ暖かいんだろうか。いやだ、と引き留められたらいいのに。まだ、そこまでは。(薬宗)

やまたに @mw_snc

おや、と石切丸は微笑んだ。本丸で一番大きな木の下、そこに青江が眠っている。警戒心の塊が、不用心なことだ。見つけてしまったものをどうしようかと悩んで、石切丸は隣に腰を下ろした。たまに通る影に静かにと仕草で頼む。守られるのも嫌いなこの子の、睡眠だけでも守ってみせよう、と。（石かり）

やまたに @mw_snc

僕を庇って重傷なんて、馬鹿な話。と髭切は笑った。眼下には床に伏した弟。包帯だらけで血の跡だらけで、なんて無様なこと。おい、と誰かが止める。眠っているからといって言って悪いことがある。いっそ起きればいいのに。髭切は突き付けてやりたいのだ。君が折れて、僕が無事でいると思うの。（髭膝）

やまたに @mw_snc

弟の犬歯はとても尖っている。蛇の牙が肉を引き裂くためではなく、肉を貫くためにあるから当然だろう。そんな犬歯を舌でなぞっていれば、時折ちくりと痛むのは自業自得で。だからほら、ごめんも涙もいらないって。髭切はもう一度口付ける。今にも舌を噛み切りそうな口は塞がないと。（髭膝）

やまたに @mw_snc

顔に傷なんてつけて綺麗な顔が台無しだ、と男相手に不似合いな説教を薬研はした。そうですか、と宗三は答える。女のひとではあるまいし、と。どんなやつより綺麗だろう、と歯の浮く台詞が次に聞こえて。あなたに綺麗に見えて、あなたに嫁げば全て終わりじゃないですか。そんな戦の傷の言い訳。（薬宗）

やまたに @mw_snc

傷が痛い、と石切丸が情けない声を出す。じくじくする。子供みたいな口調になって。いたい。それを最後に抱きついてきて。ああ、もう、僕は母親じゃないんだよ。叱りながらも背中を抱き返す青江に石切丸は小さく笑う。見咎めて不機嫌になれば攻守交代だ。今度はこちらが甘やかそうね。（石かり）

やまたに @mw_snc

嫌い。兄者が笑って言う。大丈夫だ。これが遊びと俺は知っている。大嫌い。嘘を吐く遊びなのだ。二度と顔も見たくない。それも反対なのだろう。触りもしたくない。ま、待て、兄者。なあに、僕は興奮なんてしてないよ。だから、それも嘘だ、ろう。(髭膝)

やまたに @mw_snc

今から嘘を吐きますよ。そう前置きした。あなたが嫌いです。まずはそれ。僕の気持ちなんてわかってくれない。詰ると薬研は笑って。嫌い嫌い。どうして連れていってくれなかったんです。ずっと一緒にいてください。僕を離さないで。なぁ、どこまで嘘だ。優しい声がする。一番最初だけですよ。（薬宗）

やまたに @mw_snc

やあ、兄上様。そんな言葉で現れた源氏の刀に石切丸は肩を竦めた。なんの用だい。僕だってたまには誰かに頼りたい気分にもなんだもの。そう髭切は微笑みかける。甘やかしてよ、兄上様。弟君に怒られるよ。大丈夫さ、今日は嘘の日らしいから。明日には僕の兄弟はひとりだけ。（源氏）

やまたに @mw_snc

大人になったら、向かいに住む綺麗な人はそう言った。それでも僕を好きでいたら。桃色の髪を揺らして微笑んだ。誰かを思う横顔で、甘くて苦い嘘を吐いた。全部嘘でもないんですよ。むくれた頬に長い指が伸びて。あなたが思い出してくれたらすぐにでも。その言葉の意味を少年は知らない。(薬宗現パロ)